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カッコいいしかない親友の王子様系女子、俺に可愛い義妹ができてから様子がおかしい  作者: 枩葉松@書籍発売中
第1章

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番外編 同棲一ヵ月目 後編


 帰宅後。


「新、ちょっといい?」

「ん?」

「いや、その……じ、実は、お願いがあって……」

「どうした? 俺にできることなら、何でもするぞ」

「……恋人らしい、ことを……っ」

「恋人らしいこと?」

「イチャイチャ、とか? し、した方が、よくないかなぁ、とか? っていうか、したいなぁとか……お、思ったりして?」

「…………」

「新?」

「ダメだ」

「えっ」

「……そ、それは、ダメだっ」



 ◆



「はぁ……? ダメ? 何がダメなわけ? はぁあ?」


 リビングにて。

 ソファの上で三角座りをして、私は一人、ブツブツと恨み言を垂れていた。


 私の誘惑を切って捨てたあの男は、いま自室にこもっている。

 わざわざカチャリと鍵をかけて、私からの接触を拒絶している。


 ……意味わかんない。


 ダメ……? ダメってなに!?

 わかんないわかんない!! 意味わかんないんだけど!? 

 意味わかんないんだけどぉ~~~~~~!!!!


 ぼたんに言われた通り、これまでのことを反省して今回はド直球に攻めた。

 したいことを、して欲しいことを、正直に告げた。


 ――その上で、ハッキリと拒否られた。


 私たち、恋人同士だよね?

 告白したし、キスもしたし、ここに変な勘違いとかないよね? ねえ、何で!?


「も、もしかして……私のアピールに気づいてない、とか?」


 そんなまさか、と思う。

 イチャイチャしたいとハッキリ言って、気づかないもクソもあるかと。


 だが、相手はあの新だ。

 水着で迫った私に対して、その水着がいかに似合うかバカ真面目にレビューするような男だ。

 私の想像の遥か上をいく鈍感さを、今回も発揮しているのかも……。


 あり得る。

 大いにあり得る。

 あいつならやりかねない。


『でもさ、好きな相手の前でくらいはっちゃけてもよくない? 折村くんだって、その方が喜ぶと思うけどな。来栖の可愛い一面は俺しか知らない、的な?』


 ぼたんの言葉が、頭の中で響いた。


 ……はっちゃける、か。

 振り返ってみて、さっきの私の言動ははっちゃけが足りなかったかもしれない。ただ要求を言葉にしただけで、何もはっちゃけていない。新が気づかないのも、無理はないかも……。


「…………」


 自分の胸を両手で持ち上げて、軽く揉んで、ふむと息をつく。


 ここは一つ、覚悟を決めよう。

 私と新の、爛れた(かがやかしい)未来のために。



 ◆



「イチャイチャ、とか? し、した方が、よくないかなぁ、とか? っていうか、したいなぁとか……お、思ったりして?」

「…………」

「新?」

「ダメだ」

「えっ」

「……そ、それは、ダメだっ」


 来栖の誘惑を振り払い、俺は自室に退避した。

 鍵を締め、扉に背を預け、そのまま床に尻もちをつく。


「……はっ……ぅっ…………くっ!!」


 恥ずかしそうに眉を寄せ、ほんのりと頬を染め、物欲しそうにする彼女の顔を思い出し。

 奥歯を噛み締めて、悶絶する。


 可愛い!!!!

 可愛すぎる!!!!

 可愛いがすぎるってぇ!!!!


 何だあれは、あれは何だ、どういうことだ、何がどうしてどういう理屈でああも可愛い。

 可愛くて可愛くて可愛くて、指先の細胞すら歓喜しているのがわかる。来栖の可愛さに手が痙攣する。


 危なかった。

 本当に危なかった。

 犬飼にこれはテストだと聞かされていなかったら、俺は間違いなくあの誘いに乗っていた。


「ふ、ふふっ。どうだ、来栖。俺は負けないぞ。お前に相応しい男だって、絶対に証明して見せるからな……!」


 ひとり言ちて、小さく笑って、額の汗を拭う。


 ……にしてもこのテスト、いつ終わるんだ?

 正直、今日のはかなりやばかった。仮にこれ以上のやつが来たら、俺は終わるかもしれない。それに耐えられたとしても、更にその上が来たら確実に理性が崩壊する。


「――――新?」


 コンコンと、扉をノックされた。

 まずい、来た。


「ど、どうした、来栖?」

「開けて」

「えっ?」

「扉、開けて」


 可愛くて可愛くて仕方のない来栖を、今この状態で見たらどうなってしまうか。

 俺は自分の理性を信用できず、ドアノブに伸ばしかけた手を引っ込める。


「ご、ごめん。実はちょっと、急ぎでやらなくちゃいけない仕事があって! そっちに集中したいから、あとにしてもらっていいか?」


 咄嗟に出た嘘。

 これで諦めてくれるだろうと勝手に安堵するも、「すぐ済むから」と彼女はその場を離れない。


「開けて」

「だ、だから――」

「いいから、早く」

「……っ」


 女性にしては低めの、冷たく迫力のある声。

 その圧に負け、俺は静かに解錠した。


 何かやらかして、怒らせてしまったのだろうか。

 不安が心を駆け抜けた瞬間、彼女は勢いよく扉を開いて部屋に入ってくる。


「…………」


 俺を無言で見上げる、灰色の双眸。

 幸い怒っている気配はなく、むしろどこか嬉しそうで、薄い唇は僅かにたわむ。


 何の用事だろうかと、首を捻った瞬間――。


「い゛っ……!?」


 来栖の首から下の有様が目に入り、俺は踏まれた猫みたいな声を漏らす。


 スケスケ……だった。

 美しい花柄レースの黒いベビードール。煽情的な黒のTバック。

 ほんの少しだけ透けて浮く、胸の朱色。俺はそれを二秒ほど凝視したのち、唇を千切る勢いで噛んで理性を再召喚し視線をあげる。


「く、くる……来栖……? その格好、どう、したんだ……?」


 ここでタガが外れたら終わる――。

 下半身に巣食う思春期を全力で食い止めながら、極力平静を装って口を開く。


「新しい寝間着」

「ね、ねま、き……?」

「可愛いでしょ」

「はっ……あ、っ……」

「今夜はこれ着て、新と一緒に寝よっかなって。ダメ?」


 これを着て、俺と一緒に寝る?

 これを着て俺と一緒に寝るってことは、それを着て俺と一緒に寝るってことか?


 …………はぁ?


「何で目、逸らすの? ちゃんと見て」

「ぅっ……い、いや……っ」

「……てか、触る?」


 おもむろに俺の手を取って、自身の身体へ押し付けた。

 よりにもよって、胸に。


 頭の中が真っ白になり、次いでその純白に欲望の色が垂れ落ち、じわじわと侵食してゆく。

 もうこれ以上は理性がもたない――というところまで来て、不意に冷たいものが心に触れた。


 ……いくらテストでも、ここまでする必要あるか?


 来栖の家の都合上、俺が試されるのは当然だと思う。

 でも、流石にこれはやり過ぎな気がする。どんな聖人でも、好きなひとにここまでされて顔色一つ変えないなんて不可能だろう。


 もしかしては俺は……試されてるんじゃなくて、ボロを出すことを期待されてるんじゃないか?

 来栖は俺と別れたいと思っていて、それらしい口実を探しているんじゃないか?

 不合格にさせるため躍起になってるんじゃないか?


 生まれたその疑念に、いいのか悪いのか、俺は完璧に冷静さを取り戻した。

 劣情が失せ、その空席を怒りや悲しみが埋める。


「も、もう……テストは十分だろっ!!」


 来栖を軽く突き放して、俺は一歩うしろへ下がった。


「俺に何か嫌なところがあるなら、ちゃんと言ってくれよ! 直すからっ、来栖好みの男になるからっ! だから、こんな形で別れようとするのはやめてくれ!!」


 そう言って、数秒の沈黙があって、閉ざしていたまぶたを開けた。

 そこにいたのは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔の来栖だった。


「テスト? テスト……って、なに?」

「えっ?」

「ごめん、本当に何のこと? 私、新に何かテスト出してたっけ?」

「え、えっと……今のこれとか、最近やけにベタベタして来るのって、テストじゃないのか?」

「何のテスト?」

「俺の理性を測る……自分の恋人が安全かどうか確認する、テストじゃ……」

「……?」


 心底意味がわからないといった表情。

 その目には一切の嘘がなく、ただ困惑の色だけが浮かぶ。


 お、おい、まさか……。

 勘違い、だったのか? そもそもテストなんてなくて、ただ純粋に、恋人として俺に迫っていただけ?


 ……じゃあ俺は、イチャイチャしたいと、そうハッキリ願いを口にしてくれた来栖を突き放したのか。幸せにしなくちゃいけない相手に、悲しい思いをさせてしまったのか。


 悪気のない勘違い。俺なりに、彼女を想っての行動。

 しかしだからといって、許されていいはずがない。


 重苦しい罪悪感が全身を襲った。

 息が詰まりそうで、吐き気がしそうで、ただただ来栖に申し訳なくて……。


 俺はこのひとのそばにいていいのかと、心が脂汗をかく。


「よくわからないけど――」


 言って、一歩、二歩と前に出た。


 俺を優しく抱き締めて、胸板に頬擦りして、ふっと見上げた。

 クールな無表情を崩して、春の香りがするやわらかな笑みを描く。


「新以上に安全な恋人はいないし、私は一生、新のことが大好きだよ」

「…………」

「じゃなかったら……こんな格好で一緒に寝ようとか、言うわけないでしょ?」

「…………」

「世界で一番愛してる。――ずっとずっと、そばにいてね。これ、命令だから」

「…………あ、あぁ」


 お、俺の彼女……!!

 最高かよぉお……!!



 ◆



「ひゃっ……!」


 突然、新が私の背中に腕を回したことで声が漏れた。

 心なしか、頭上から聞こえる鼻息が荒い。私を抱き締める力もやたら強くて、普段の彼とはまるで違う気配が漂っている。


 おいおいおい……。

 こ、これ、まさか!? まさかのまさかですか!? スケベする感じですかぁ!?


 おっ、おっ、おちおちおち落ち着け落ち着け私ぃ!!

 大丈夫っ!! ゴムの貯蔵は十分だっ!! よくわかんないから、置いてあったやつ全種類買って来たし!!


 あとは余計なボロを出さないよう、私が普段通りに振る舞うだけ。

 心のポコチンを静かに勃起させ、抜くその瞬間を見極めるだけ。


 決して焦ってはいけない。

 興奮し過ぎてはいけない。

 ここで慌てふためけば、失敗して落ち込んで新に慰めてもらうという、いつもの流れになってしまうから。もう何度見たかわからないアホな流れになってしまうから。


 ぐふっ、ぐふふふ……ガーハッハッハッ!! 


 期待した!? 期待しちゃった!? 私がまた失敗ぶっこくとこ期待してたよねぇ!!

 ごめんね、今回はそうならないよ!!


 新との同棲が始まって、早一ヵ月。来栖ちゃんだって進化してるわけ。

 ちゃんと恋人同士になったからには、セックスくらい難なくこなしてやりますとも。新のアラタを可愛がってあげますとも。何たって私、彼女だからね!!


 ここはいっちょ、対戦相手の状態を確認しつつムードを盛り上げてやりますか。

 ズボンの上からさすればいいんでしょ? えっちな漫画で何度も読んでるから、予習バッチリだよ。


 さーすさすさすさすりんちょっと、それっ。


「……あ、あの、来栖……」

「…………」

「ごめん、その……俺……っ」

「…………」

「すぐに治まると、お、思うから……」

「…………」


 デッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!??



 ◆



 翌日。


「えーっと……つまり、なに? 昨日は、折村くんとかなりいいところまで行ったと……」

「う、うん……」

「でも折村くんの、その……アレが大き過ぎて、怖くなって逃げちゃったと……」

「……私、こ、今後、どうすればいいかな?」

「どうすればいいって言われても……うーん……」

「…………」

「ちなみに、ちょっと聞いてもいい?」

「なに?」

「どれくらいのサイズだった……?」

「こ……こ、これくらいっ」

「マジ……?」

「…………」

「……いや、死ぬって……」


 ご報告です。


 第6回集英社WEB小説大賞にて、本作『カッコいいしかない親友の王子様系女子、俺に可愛い義妹ができてから様子がおかしい』が奨励賞を受賞しました!! ダッシュエックス文庫で書籍化します!!


 何年か前、漫画家として集英社でデビューを目指していた時期があったのですが、まさかこういう形で戻ることになるとは……。長く続けていると色々あるものですね。


 今後についての情報は、基本的に私のX(@tokiwa_yosyo)で発信していくので、気になる方はフォローをよろしくお願いします! それでは!

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