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ボロボロの人の子を拾った話

作者: 虹彩霊音


えー、どうも。ソルと言います。俺は先日縄張りの徘徊をしていました。いつもの日課でしたし、妻も居るのでやらないわけにはいかなくて。まぁ、それは別に良いんです。徘徊も終わって帰ろうとした時、途中で人の子が居たんですよ。不思議でもなんでもないと思うでしょう?俺もそう思いましたよ、ボロボロじゃなければね。体の至る所に傷と包帯、見てるこっちも痛くなってきましたよ。まるでうじ虫みたいに縮こまって、何かに恐怖しているような…まぁ、親に虐待されて捨てられたっていうのが妥当な考えでしょう。ここらは人間が全く通らない、というわけでもなく1日に5、6人が通る程度でしたから、この子に気づかないわけがない。きっと、扱いに困るだとか関わりたくないとかで無視したんでしょうね。



それで、思わずこの子に同情?してしまって引き取ってしまったんですよ。だって、こんな小さな子供がこんな傷だらけでほっとかれて…生きていけるわけがないでしょう?まぁ縄張りの徘徊中は妻に頼んでみてもらうことにします。安全も確保しないといけませんから。…それで、今一緒に居るんですけど正直少し後悔したかもしれません。俺は育児経験がありましたからなんとかなるだろうとは思っていたのですが、よくよく考えたら人間の相手は一度もしたことがなかったんです。動物と人間の考えは同じようで違うのですから、扱いに困りました。それに……その人の子、マエストーソと言うらしいんですが、名前のくせして痩せこけて、威厳も感じられなくて、ずっと蹲ってるんですよ。まぁ、人間なのでとりあえず部屋らしいものは作ってあげました、そしたらその中で引きこもりやがりまして。飯も食ってくれているのかわからず…医者に見せてやりたいのですが、外に出るのを極端に嫌がりまして。俺は社交的というわけでもないんですよ、だから顔見知りが少なくて相談もできない。



…と、前置きはこのくらいで。部屋には鍵はつけてないですから出入りはできます。相変わらず出てきてはくれませんが…まぁ、窓から覗き込めば良いだけですがね。



ソル「マエス、寝てるのか?飯持ってきたぞ」


マエストーソ「……あ」


ソル「起きてたのか、飯は食えそうか。今日は鶏肉だぞ」


マエストーソ「あ……ぅぅ…」


ソル「どうした?」


マエストーソ「…ひっ!!ごめんなさい!叩かないで!!」


ソル「……俺は弱ってる人間を攻撃するほど下衆じゃねぇよ」


マエストーソ「……あぅ」


ソル「そうだよな、俺みたいな奴がいきなり近づいたら誰だってビビるよな。体調はどうだ?腹痛いとかないか?」


マエストーソ「…だいじょうぶ」


ソル「…飯はここに置いておくから好きな時に食え。俺は外に居るから何かあったら言えよ?」



……はい、毎日こんな感じです。俺は人間ではありませんから怖がるのも当たり前でしょう。なら、あんまり構わない方が良いのでしょうか。俺の顔は自分でも恐ろしいと自負していますし、俺の爪は簡単に相手を傷つける刃なのですから。





さて、あれからしばらく経ったのですが。今度は妻と一緒にと思いまして。妻は俺と違って人間と同じ姿をしていますから、きっと俺よりかは近寄ってくれるかと。最近のあの子は部屋の中で規則正しく生活してくれています。これでもあの子にしたら大きな進歩でしょう。知り合いから絵の具と紙を貰ったのであの子に渡したら一生懸命にお絵描きをし始めましてね。そろそろ…様子を見に行きましょう。



ソル「マエス、入るぞ」


マエストーソ「……あ、龍のお兄ちゃんと…お姉ちゃん」


ソル「調子はどうだ?」


マエストーソ「…だいじょうぶ」


ファントム「今日は何を描いてるの〜?」


マエストーソ「えっと………ドラゴン」


ソル「ほぉ、うまいじゃないか」


マエストーソ「…ありがと」


ファントム「…そうだ、もっと使える色を増やそうか!そしたらもっと絵のバリエーション増えるよ!」


ソル「なら、顔料を探して作っちまうか」


マエストーソ「いや…これで大丈夫」


ソル「お前は欲がないんだな、お前くらいの年頃ならちょっと我儘でも良いんだぜ?」


マエストーソ「…」


ソル「俺らはお前みたいな人間じゃない、でもお前を見捨てるような下衆でもない。親にはなれはしないだろうが……まぁ、そういうことさ」


ファントム「ああ、それと…お水飲む?昨日木を掘り掘りして作ったんだ。ちょっと歪だけど研磨はしたから使えると思う」


マエストーソ「…綺麗なお水だ」


ファントム「湧き水から取ってきたからね、純水だよ」


マエストーソ「…ありがとう、お姉ちゃん」


二人「…!」



…今日は笑ってくれました。口数は相変わらずですが、前よりは距離が近づいたかな…と。




…最近、あの子は本を読むのが趣味になってるみたいです。といっても、俺は金なんて持っていませんから知り合いから借りたやつですが。でも、何かに楽しむ余裕ができるほどあの子は快復してきたということでしょう。あの子の年頃じゃあ寺子屋に通っているのが普通ですから、もう少ししたら通わせることにします。


ソル「マエス〜、晩飯だぁ。魚だぞ〜」


マエストーソ「…あ、お兄ちゃん。お仕事終わったの?」


ソル「まぁな」


マエストーソ「…おつかれさま」


ソル「おう、お前の傷もだいぶ治ってきたな」


ファントム「今日は何の本を読んでるの?」


マエストーソ「…『正義は今日も想像する』」


ソル「おう…難しそうだな」


マエストーソ「…主人公が自分の正義と他人の正義に葛藤するのが面白い」


ソル「気に入ってくれたか、良かった」


ファントム「そろそろご飯だから机の上片付けようか」


マエストーソ「…うん。………あ」



ガシャン



マエストーソ「…カップ落としちゃった。お姉ちゃんが作ってくれたのに…」


ファントム「ありゃりゃ、粉☆砕 玉☆砕 大☆喝☆采だね」


マエストーソ「ご、ごめんなさい…な、直すから…」


ソル「触るな!!!」


マエストーソ「…!」


ファントム「カップならまた作れば良いよ〜。それより怪我はない?」


マエストーソ「…うん」


ソル「んじゃ、ここは片付けておくから近寄るなよ。はいキープアウトでーす」




…お騒がせしました。前よりは会話は続くようにはなりましたが、そう簡単には治るわけがなく…やはり虐待からのトラウマなのか、些細なことでビビってしまうようで。




こんにちは、ソルです。マエストーソはというと…立派になりました。…まぁ、見てもらった方が早いでしょう。


ソル「…あれ、居ないな」


ファントム「珍しいね、どこか遊びに行ったのかな」


ソル「……うおっ!?尻尾が!」


マエストーソ「……えへへ、びっくりした?」


ソル「びっくりしたわ、いきなり尻尾を引っ張るなよ」


マエストーソ「どっきり大成功!」


ファントム「活発だねぇ」


マエストーソ「おはよう!お父さん、お母さん!」


ソル「………ああ、おはよう」


ファントム「マエスくんは将来何がやりたい?」


マエストーソ「ゲーム!」


ソル「ゲームが好きなのか?」


マエストーソ「うん!友達とよく一緒に遊ぶの」


ソル「そうか、寺子屋は楽しいか」


マエストーソ「うん!僕、お父さんに引き取られてよかった!ありがと、お父さん!」




……マエストーソは、かなり元気になりました。トラウマやらは流石に消えはしないでしょうが、他の子と一緒に過ごすことはできるようになったでしょう。俺もあの子を拾ってよかったと思っている。あの子は今寺子屋に通って人間らしい生活をしています、そう…これが本来あの子が受けるべきことだったのです。



さて、俺はあの子の傍から消えようと思います。いえ、別に愛想が尽きたわけではない、むしろあの子を想ってこその判断です。最初にも言いましたが、俺は人間ではありません。人間が人外と一緒に居る光景を見られたらきっとあの子は…だからそうなる前に姿を消すんです。種族の境界線は残酷にも綺麗に分断されている、人里に人外は近づいてはいけない決まり。…さようなら、マエストーソ。




…………しかし、お前が本当に望むのなら俺は…



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