時計塔
その国では、国ができた記念に建てられた時計塔を、すごく大切にしていた。その国のシンボルで、生活の中心。その時計塔が鳴らす鐘の音で起き、鐘の音で仕事を終える。そうやってその国の人々は生活してきた。
そして、人々が時計塔を大切にしていた理由はもう一つある。
それは、時計塔ができた時に言われた言葉。
「この時計塔を止めないでください。月に一度、そこのレバーを引くだけでいいです。そうしないと、大変なことになります。」
そのことを聞いた人々は、その人達への恩もあったので、欠かさずレバーを下ろした。ある人は時間がわかるようになったことへの感謝を。ある人は仕事に遅刻しなくなったことへの感謝を胸にいだきながら。
時は流れ、いつしか「レバーを下ろす」という行為が面倒な義務としてみなされるようになった頃。
始め言われた言葉も忘れられ始め、皆はこの作業をサボるようになった。
だが、何も起こらない。それを見て、皆は思った。
「なんだ。あの言い伝えは関係なかったじゃないか。」と。
その人達は知らなかった。毎月同じ日にレバーをおろしている老人がいたことを。
数年後、とある老人が亡くなった。その老人は、大層時計塔を愛していた。
遺言には、
「私のかわりに時計塔のレバーを下ろしてくれ」
と頼むほどだった。
だが、その遺族に時計塔に特別な思い入れがある人もいなかった。
そして、とうとう時計塔のレバーが引かれなくなった。
時計の針が止まる。
そして、世界が止まった。