ショートホラー第15弾「タイトルのないビデオテープ」
有名な都市伝説「タイトルの無いビデオ」をHot-T風に書いてみました。
「ねぇ、店長。これ何?」
あたしは趣味のジャンク屋周りをしているとタイトルも何も書かれていないVHSテープを見つけた。
「んー、何だっけ。俺もよくわかんないけどあったからそこに置いてる」
「ふーん、そうなんだ。」
いい加減だけどそこがこの店の良い所。
意外と掘り出し物があったりするんだよね。
「てかカナちゃんそういうの好きだねぇ」
「ソフト化されてない作品とかそういうのもあるでしょ? そういう隠れた名作を見つけるのが趣味なの。」
「おー、流石カナちゃん。目が肥えてるねぇ」
「店長、これちょうだいよ。いくら?」
「そだねー。特に値段も書いてないし100円でいいよ。その代わり返品不可ね」
あたしはお金を払うとそのテープをポケットに入れて店を出る。
向かった先は友達のマンション。今時ビデオデッキを持ってる珍しい女子なんだよね。
扉のでインターホンを押そうとするとガチャッと音がして扉が開く。
「いらっしゃーい」
「あたしか近づいてるの『聞こえたん』んだ。相変わらず耳いいよね、ナギ」
彼女、藤原凪は昔やってたコンビニバイトで一緒だった女の子。
店長のセクハラが酷くて二人でブチ切れて辞めて、それ以来友達だ。
今は何か動画配信者とかやってるらしい。
「まーね。耳いいのも面倒だよー。いらない陰口とか聞こえるし。んで、ビデオみたいんだっけ?そこに繋がってるよー」
あたしと同じレトロマニアな所がある彼女はテレビを指さす。
「今日の分の動画は投稿したから一緒に見よっか」
笑い、ナギは鑑賞会の準備を始めた。
「何映ってるかな」
「てか内容確認もせず買うなんてカナも冒険家だよねー」
「それがいいんじゃない。見て嫌なものな捨てればいいんだし」
「まー、そうだねー」
買ってきたお菓子を広げジュースを飲みながらビデオを再生する事に。
内容は夜道を走る誰かの一人称視点で、荒い息が聞こえてくる。
「何だろ、ホラーかな?」
「ナギ、怖いの苦手なんだけどなぁー」
そんな事を呟きながらポテチを食べているとナギがある事に気づく。
「ねー、カナ、これってあれじゃん。駅前の」
「あ、ほんとだー。あれかな、大学の映研なんかの自主製作映画とかかな」
知っている景色が映し出されていくがそれだけ。
「何だ、外れかぁ。まあ、あんま期待してなかったけどさ」
だが段々とナギの表情が険しくなっていく。
「何かこの映像さ、『ウチに近づいて来て』るよね?」
「え?」
確かによく見るとお菓子を買った近所のコンビニを通り過ぎ、見覚えのある公園を抜け……
ナギがカーテンから外を覗き、そして震える。
「ヤバイかも」
「え?」
「あのさ、『姿は見えない』けど『足音が近づいてくるのが聞こえる』よ。ビデオと同じ足跡」
その言葉に背筋に冷たいものが走る。
ナギの耳は確実で信用性が高い。
「え、ちょっと………」
見れば映像はマンションの入り口。
「ヤバイ!これ来てるッ!!?」
テレビの中ではエレベーターに乗り4階で降りた所。
ナギの部屋は、4階だった。
「カナ!ビデオ切って!!」
震える手でリモコンを操作するが接触不良なのか上手く反応してくれない。
やがて映像はある部屋の前まで来ると扉を激しく叩きはじめる。
連動する様に部屋にノブがガチャガチャ回され扉が叩かれる音が響く。
「カナ!」
「わかってる!わかってるけど!なんで!?!?」
デッキの取り出しボタンを押すが反応しない。
テレビの電源を推しても切れない。
そうしている内に映像と連動し不気味なうめき声が聞こえてきた。
「ああもうっ!」
ナギはビデオデッキに手を突っ込むとデッキが壊れるのにもお構いなく掴み無理やり引っこ抜いた。
それでもなぜか映像は映り続けていたのでテープを引き出してブチッと切断すると映像は完全に消え、同時に扉の外から音も消えた。
あたし達は震えながら身を寄せ合い夜を明かした。
朝になって外へ出てみると扉には殴った跡が無数についていた。
VHSテープはベキベきに壊した後、生ごみと一緒に捨てた
そして後日、店長にビデオの事を話してみると……
「え?そんなもの売ったっけ?記憶にないんだけど……」
そんな言葉が返って来るのであった。
あれはいったい何だったのだろうか……