第七話 確認大事
「ら……雷神?」
「はい」
私は膝を抱えて丸くなる男性を指差す。本来ならば神様相手に失礼かもしれないが、今は緊急事態である。鰻さん達に確認を取るのが最優先事項だ。すると頷き肯定される。
「わ……私の結婚する相手は雷神で……」
「はい。左様で御座います」
県境の村に家電販売員として訪れ、雷神の生贄にされ異世界にやって来たのが私だ。そして異世界での生活を謳歌していて忘れていたが、雷神は結婚する相手である。顔を合わせたことがなく、まともな会話もしたことがない。そんな相手ではあるが、一応は一生を添い遂げる伴侶である。
「この……生まれたての小鹿のように震えて怯えているのが雷神?」
「……っ、はい」
想像していた人物像とは異なる姿に、私は戸惑いを隠せない。質問を重ねるごとに、鰻さん達も気まずそうな空気が広がっていく。
「えっ!? 何かの間違いじゃない!? だって障子越しに会話した時、威厳のある態度だったよね? 私には横柄な感じがしたけど? まあ好き勝手させてくれたのは有り難いけど……」
「姫様……それは……」
思わず本音が飛び出た。勢いのまま発言を続けると、鰻さん達の顔色が悪くなる。そのことに罪悪感が湧くが、私の口は止まらない。それだけ衝撃的だったのだ。
「……っ、それは……君を遠ざけたくて……」
横から小さな声が聞こえて振り向く。膝を抱えた姿勢のまま、雷神は呟いたようだ。
「え? 如何いう意味? 何? 私、嫌われているの?」
「ち……違う! そうじゃなくて……近い……」
まるで私に問題があるかのような、彼の発言に苛立ちを覚えた。私は雷神へと詰め寄る。すると彼は驚いて顔を上げ、私と距離を取ろうと後退り壁に背中をぶつける。
「じゃあ、如何いう意味?」
逃げ道を失い、狼狽える彼の横に両手を着き見下ろす。怯える相手を追い詰めていると、まるで肉食動物のような気分になる。いや決して虐めているわけではない。必要なことを聞き出しているだけだ。
「……う……その、覚えていないと思うけど……昔、君に出会っていて……」
「……え?」
金色の髪が持ち上がり、窺う様に金色の瞳に私を映す。雷神の言葉に首を傾げるが何処か既視感を覚えるその瞳を見ると、頭の中に子どもの頃の記憶が蘇る。