第二十一話 山道への道中
「鈴木ちゃん、大丈夫かい?」
「……はい。浅葱が雨除けを張ってくれたようなので……店長も風で避けてくれますよね?」
身体が浮き上がる感覚が収まると、店長が首を回し私を見た。その翡翠色の瞳には、私を気遣う色を帯びている。嵐の中を飛んでいることを考慮すると、心配をすることも分かるが空の旅は快適だ。
叩きつけるような雨も暴れる風も、私には一切届かない。浅葱が雨を、店長が風から守ってくれているからだ。
私は長年にわたり琥珀の加護に守られていたが、自覚がなかった。だが今はこうして面と向かって二人に守られると分かると、なんだが気恥ずかしいものがある。
「それは良かった。……琥珀の様子は如何だい?」
「寝ています」
そっと布を捲り琥珀の様子を窺うと、先程と変わらず静かに寝息を立てている。きっと会話をする力もないのだろう。
「っ、急がないとだ……。飛ばすけど大丈夫かな?」
「ええ、勿論。そのまま山頂に辿り着いて頂いても構いませんよ?」
店長は私からの報告を聞き、息をのんだ。琥珀の状態から時間の猶予がないことを悟る。
「……了解、振り落とされないように気を付けて!」
「はい!」
震える指先を無視し、店長の提案に頷いた。
〇
「さあ、着いたよ」
「はい……よいしょ」
力強い羽根音と共に、山の中腹へと着地をした。店長の背中から琥珀に負担をかけないよう、慎重に降り立つ。空を見上げれば、琥珀の状態と呼応するかのように天候は荒々しさを増している。
「僕が共に行けるのは、此処までだ。この道は誓い合う者しか通ることを許されない。更に浅葱くんと僕の守りは、この先無効化される」
「分かりました」
白い梟から人間の姿に戻ると、彼は山道を指差した。此処に来るまで雨風から身体を守ってくれていた、二人の守りは使用することが出来ない。つまり此処からが本番である。結婚を前にしての最終試練のようなものだ。私は山道へと進む。
「…………」
「店長! 琥珀と再会させてくれてありがとうございました。それから……次に会う時は妹ですからね!」
背中に店長から何か言いたげな視線を感じる。彼は今回の件について色々と思うことがあるのだろう。私は足を止め、振り向くと本心を店長へと叫ぶ。
「……っ! ありがとう。気を付けて!」
彼は瞠目すると、柔らかく笑い手を振る。私もそれに応えると、再び歩き出した。




