第十六話 予期せぬ来訪者
「ふふっ……」
「ご機嫌で御座いますね。姫様」
晴れやかな青空の下、私は縁側を機嫌よく歩く。気分はスキップをしたい程である。振袖に袴を履いている為、比較的動き易い格好だ。踏み込もうと利き足に力を入れた。しかし、それは前方から現れた鰻美さんの登場により失敗に終わる。
「ええ。最近、琥珀と会話が出来るのが嬉しいの!」
私は姿勢を正すと鰻美さんに笑顔で応える。先日、琥珀との距離感について考え行動をした。そのことがきっかけになり、食事を共にすることになったのだ。
これは一週間ほど続いている。あの日以降、彼は私に怯えることも避けることもなくなった。実際に話しをしてみると彼は穏やかで話しやすく、会話が弾んで楽しいのだ。だが、彼の笑顔を直視すると脈拍数が上って仕方がない。
「でしたら、主様の為にお花を摘みに行きませんか?」
「花?」
彼女の唐突な提案に首を傾げる。この屋敷には綺麗な花が所々に活けられているが、花畑は見たことがないのだ。
「はい。池の近くに生えているのですが、お話しのきっかけにいかがでしょうか?」
「凄く良いと思う。今から行きましょう!」
屋敷の外に出るのは初めてである。きっと良い会話の話題になるだろう、そう思いながら頷いた。
〇
「足元にご注意ください」
「う、うん……」
屋敷の裏門から出ると、慣れない草履に苦戦しながら竹林に囲まれた砂利道を進む。鰻美さんは、歩き慣れているのか淀みなく先を歩く。
「この辺りでいいですね」
「あれ? 花は?」
暫く歩いていると、鰻美さんが足を止めた。綺麗な池に辿り着いたが、目的の花は何処にも見当たらない。
「花? あるわけないだろう」
鰻美さんから、低い男性の声が発せられている。
ポン!!
聞き覚えのある乾いた音が響くと、鰻美さんが白い煙に包まれる。
「お前を呼び出す口実なのだからな」
煙が晴れると、浅葱色の髪をした男性が立っていた。