第十一話 虎くんの正体
「……え……えぇ?」
私は只々、困惑した声を上げる。何故ならば雷神が姿を消すと、現れた可愛らしい虎くんから雷神の声がするからだ。幻聴だろうか、異世界に来てから知らない間に疲れが溜まっていたのかもしれない。心の安寧の為に、現実逃避を計る。
「よ、良く見ていてください……」
再び軽い破裂音が響き、嫌でも現実に意識を引き戻される。
「す……すいません……。僕でした」
煙が晴れると、現れたのは雷神だった。
「……すぅ……はぁぁぁ………」
散々可愛いと称していた虎くんは、小鹿のように震える気弱な雷神であった。その事実を受けて、私は両手で顔を覆い天井を見上げる。最近は本当に溜息を吐く回数が増えた。
「あ、あの……騙す様な真似をしてごめんなさい。その……慣れない土地にいる君が気になって……でも面と向かっては出来なくて……。傷つけたくないから、少しでも避けて欲しくて……」
虎の姿をとった理由は分かる。しかし虎の姿が避ける要素にはならない。
「いや、可愛い虎で避けるって無理あるよね?」
「……っ!?」
大人の姿ならばその可能性は高いが、子どもの姿では愛らしさが勝つ。虎はネコ科である為、小さい頃は猫と対して変わらない印象だ。
神様は虎の子ども姿が、愛らしいという事を知らないのだろうか?人知を超えた存在の考えることは分からない。大抵は己の常識でしか、物事を推し量ることは出来ないのだ。
そんなことを考えていると、ある予想が浮かんだ。
「あれ? もしかしてだけど……虎の姿が本当の姿だったりする?」
「……えっ……いや、その……」
神様として怖れ敬われているならば、自身の姿を恐ろしいと考えている可能性がある。ならば、虎の姿が本当であるというのが私の予想だ。
雷神は忙しなく目線を泳がせ、顔に冷や汗を搔いている。分かりやすい反応に答えを言っているようなものだ。その必死な姿に頬が緩む。
「ん? なに?」
「……っ、そうです……虎の姿が本当です……」
私は分からないフリをして聞き返した。意地が悪いだろう。しかし色々と驚かされたのだ。このぐらいは許して欲しい。
「そう……大きくなれたりするの?」
「……へ?」
自白した雷神に質問を重ねる。彼は質問の意図が分からず、首を傾げた。
「だから、虎の姿で大きくなれるの? もふもふ?」
「……えっと……なれますけど……」
「じゃあ、大きな虎の姿になって」
「ふぇ!? いや……それは……」
私は家電製品が好きだが、実は動物も好きだ。雷神の加護という怪奇現象を得てからは、動物に怪我をさせてはいけないと避けてきた。だが怪奇現象の正体も判明し、加護を与えた本人が虎の姿である。そうなればやる事は一つだ。
「少し、撫でたいだけだから!」
「だ……駄目です!」
要望を伝えると、否定された後に雷神が逃げ出す。正体を明かす前は撫でさせてくれたり、抱っこをさせたりしてくれていたのに何故逃げるのだろう。やはりいう神様の考えることは分からない。
「あ、こら……わっ!?」
雷神を捕まえようと私は立ち上がったが、急な動きに足が縺れた。