第十話 虎くんは何処?
「うっ……ごめん。君を守りたくて……でも迷惑だったね……」
「……はぁぁ……仕方ないな……」
膝を抱え縮こまる、雷神の絞り出すような声に溜息を吐く。これではまるで私が加害者のようである。被害者は私の筈だ。
「……っ」
「わざとじゃないのでしょう?」
私の溜息に肩を跳ねさせる雷神。小動物のような反応を示す彼を怯えさせたいわけではない。神様のことは分からないが、反省をしているところを見ると不可抗力だったのだろう。これ以上は怒る気にはなれない。
「……うん」
「じゃあ、もう謝らなくて良いよ。でも虎くんとか、鰻さん達には触れても平気だったのはなんで?」
小さい返事と共に金色の髪が揺れる。湿っぽい話は好きじゃない。それに私は寛大な心の持ち主である。話題を切り替えようとして、この異世界から思っていた疑問を口にした。
「えっと……僕の眷属なのと悪意がなかったから……」
「な……成程」
加護という怪奇現象が、私の生活では日常茶飯事だった。彼の話が本当ならば、つまり私は現世において常に悪意に晒されていたということになる。知らぬが仏とはこのことだろうか。不器用で遠回りではあるが、一応は私を守っていてくれたようだ。
「やっぱり虎くんも眷属なのか……。そうだ! 虎くんは何処?」
「あ……う……それは……」
鰻さん達が雷神の眷属というのは知っているが、虎くんもそうだったようだ。通りで触れても平気な筈である。触れて悪意があるか如何か確認することが出来るのは、噓発見器のように便利なのかもしれない。
虎くんの所在を訊ねると、雷神は顔を赤くし汗を搔きながら俯いた。泣いたり顔を赤くしたり忙しい雷神である。
「……? なに?」
まだ何か私に隠し事をしているのだろうか。雷神を睨んだ。
「うぅ! 良く見ていてください!」
「わっ!?」
雷神が大きな声を出すと、軽い破裂音と共に白い煙が立った。
「えっ……何? あ! 虎くん!」
煙が晴れると金色の毛を持つ、小さな虎がこちらを見上げていた。探し求めていた虎くんである。私は彼を抱き上げようと両手を伸ばした。
「ぼ……僕です」
虎くんから聞こえた声に、私は動きを止めた。