第3部
思ったよりずっと早くて助かったぜ」
聞き馴染みのある声が頭上から聞こえた。
「おーい。まだ意識残ってるか?」
小馬鹿にしたようにケタケタ笑いながらそいつは僕に話しかけてくる。
「あーそうか。もう体半分以上吸収したから、上向けないのか。僕だよ初めに会ったお前のドッペルゲンガー」
「いやー。もっとかかると思ってたけどな。お前、僕が来るずっと前から『仕上がって』たんだな」
コイツは何を言ってるのだろう。
「仕上がってた」ってどういう意味だ。
「僕が何言ってるのか理解できないって?」
思考が読めるのか……?
困惑した僕を後目にドッペルゲンガーは続ける。
「当たり前だろ、今お前を僕の体内に栄養として取り込んでいるんだから。その間お前の思考、記憶全て流れ込んでくるぜ。ま、すぐに消えちゃうけどな」
栄養として取り込む……。
今後「僕」を続けていくためのエネルギー源という事なんだろうか……記憶が消えるって、そしたら昔の「僕」の情報が無くなって困るんじゃないのか……?
薄れゆく意識の中僕は目の前にいる「僕」に不信感を抱き始めた。
こいつは僕が消えたあと、「僕」を続けていく気があるのだろうか。
僕がこう考えた瞬間、ドッペルゲンガーはこいつホント馬鹿だな。とでも言いたげな顔で僕を見下ろし言った。
「お前を続けてくわけないだろ。初めに言っただろ?僕は僕だって。」
そんな。じゃあ僕が消えた後、誰が「僕」を演じるんだ。
「知らねーよ。そんなの。お前が勝手に都合良く解釈してただけだろ。僕は他人の自我を栄養として生きる生物だ。その為にお前の自我に崩壊して欲しかった。それだけさ」
……
「お前、僕がお前と似た容姿、声質をしてただけで勝手に俺とお前が同一人物だと思ってたろ。人には真の自分を見て欲しがってた癖に、お前は他者の本質を見ようとしないのな。」
少年の姿と良く似た少年は消え入りそうな気泡に冷徹な瞳を向ける。
「もう聞いてねーか。俺の中に流るコイツの記憶薄れてきたしな。次の餌見つけに行くか」
次の瞬間、少年の体は真っ黒な抵抗感のある液状の物質に変化し、地面へと吸い込まれていった。