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Jet Black Witches ー 萌芽 ー  作者: AZO
2.芽吹き。2.親友の家族編
34/60

イルママ奪還帰投

 コンコン。


「警察です。連絡を受けて来ました。別の突発事故に手間取り遅くなり、申し訳ありません」

「遅すぎるよぉ、もう……むぐ……」


 パパに口を塞がれた。小声で指示を出す。


「録音開始だ。マコト」


 マコは頷く。カチッ。


「どうぞ」


 カチャッ。


「こ、これは一体?」


「あー、ひとまず、終わりました。悪徳商会が偽造証書で、こちらの親子をさらおうとしていたので、偽造を暴いてやったら、ピストルやナイフを出して襲ってきました。その写真もあります。ただ、急に怖がりだして逃げて行っちゃいました。そこに落ちてるのが彼らの武器で、偽造証書も忘れていったみたいですよ」


「こ、これは凄い証拠だ。預からせてもらうよ?」


「ええ、どうぞ。これだけ揃えば、潰滅は免れないですよね?」


「あ、あー、そうだな、善処するよ」


 これは悪に荷担している警官かも? だ。


「その言い方だと、何もしてくれなさそうですね」


「そんなことはない。キチンと報告を上げさせてもらうよ。しかし、去年、署長が変わってから、署内の上層部の動きが緩慢になってな」


「あぁ、癒着の噂はどうやら本当みたいですね」


「君たちの耳にも入っているのか? 恥ずかしい話で申し訳ない。真実はまだわからないが、不正があるなら正さねばならない。どこにどんな繋がりがあるか掴めてないが、本件の動向はまさにピンポイントで繋がる可能性があると見ている。しかも、これだけ証拠が揃っていれば、炙り出しもかなり進みそうだが、利用させて貰ってもかまわないか?」


「あなたは癒着とは関係なさそうですね。それならば、徹底的にやりませんか?」


「ほう、徹底的にとは?」


「{ゴニョゴニョゴニョ}」

「おぉ、そこまでやれるのか。君は一体何者なんだ?」


「えぇ、まぁ、日本から来ている、しがない研究調査員です」

「ふーむ。日本人か、まぁ、そういうことにしておくか」


「あなたのお名前と、連絡先を教えていただけますか? 私の情報はこちらに」


「おぉ、すまんすまん、順序が逆だったな。私はジェイムズ、こういう者だ。署の番号はこっちだが、あいにくほとんど出ていることが多いからな、このポケベルに要件を入れてくれ。折り返しが必要な緊急時は電話番号だけでいい。お? 君の番号は、もしかして携帯か?」


「ええ、こちらの衛星携帯です。山奥にキャンプを張って研究に没頭してるので、電話線が引かれておらず、仕方なくです」


「さすがは日本人だな。大胆かつスマートだ。ちょっと見せてくれないか?」

「どうぞ」


「ちょっとかけてみていいか?」

「どうぞ。ただ、短めでお願いしますね。通話代がバカ高いので」


「分かってるよ」トゥルルルーッ、カチャッ。

「あー、俺だ俺だ。今掛けてるこの電話の番号を登録しておいてくれ。最重要証人の携帯番号だ。ああ、よろしく頼むよ。今から署に戻る、じゃあな」ツー、ツー、ツー


「おぅ、ありがとな。一度使ってみたかったんだ。仲間にも自慢できそうだよ。それにホットラインができたようなものだ。何を置いても最優先に取るように周知しておくから、小さな情報でも構わないから連絡入れてくれると助かるよ」


「わかりました。ご配慮感謝します。それと、今日はこちらの親子を私たちの居住場所で保護します。先ほど死の危険に晒されたばかりですし、今夜襲われる可能性も否めないので」


「わかった。そのほうが確かに安心だな。では特に警察から警護を出す必要はないんだな?」


「はい、大丈夫です」


「わかった。何かあったらすぐに連絡を入れてくれ。じゃあ、コレにて失礼するよ」


「ではよろしくお願いしますね」


「あぁ、それじゃあ」


 カチャッ。バタン。


「パパぁ、話し終わったぁ? 運び出す準備はできたよ」


「おお、できたか。すまないな、手伝えなくて。あ、イルちゃんのお母さん。すみません、突然押し掛けて」


「いえ、こちらこそ、助けていただいて、本当に助かりました。なんとお礼を言って良いかわかりません。あなたたち親子が来てくれなかったら、私たち親子はおそらく奴隷のような一生を送ることになっていました。本当に本当に、うぅぅ。コホッ」


「お母さん、今まで大変でしたね。今日このとき、この瞬間に駆け付けることができて、そして無事、間に合って、本当に良かった。今日からは何の心配も要りませんよ。詳しくはあとでお話ししますが、ひとまず、私たちの居住場所に移動しますが、よろしいですか?」


「はい、大丈夫です。何から何まで申し訳ありません。コホコホッ」


「じゃあ、みんな、積み込むぞぉ」

「「オー!」」


「あ、お母さんはここで座って待っててくださいね」


「申し訳ありません」

「いえ」


「あ、マコト? ふと思ったんだが、うまくやればいっぺんに運べるんじゃないか?」


「あ、そうだね。パパ冴えてるぅ」

「だろ?」


「じゃあ、パパが纏めるよ」

「あぁ、お願いね」


 集中してオーラを放ち、荷物を四角くまとめる。一番大きくて固そうな板の上に載せ、浮かせる。


 周囲の目があるから、あくまで手で持ち上げたかのように手を添えて、けれど時短のために、手ではありえないくらいの超スピードで、テキパキ積み上げる。


「マコト、手に持たないと不審に想われるから手を添えるよ」

「はい、添えた」


 パパとマコの二人で手に持ったフリの運搬開始だ。

「じゃあ積み込み開始」

「オー!」

 重さを感じない楽々運搬だから、あっという間に車に到着。

「はい、載せるよ。せーの、はい、OK」


「荷物を動かして、中に空間を作るよ。お母さんは助手席だから、この中は二人の空間ね」

「わー、なんか面白いね」


「イルちゃん、お母さんを連れてこれる? あぁ、マコトもエスコートして。ガスの元栓と、戸締まりを忘れないようにね」

「「ハーイ!」」



「パパぁ、イルママ連れてきたよー」

「あぁ、ありがとう。じゃあ、イルちゃんのお母さん、こちらにどうぞ」


「ありがとうございます」

「子どもたちは、子ども部屋な?」


「「りょっかいでーす!」」

「おぅ、なんかウキウキだなー。パパも混ぜて欲しいくらいだ」

「ダメー、パパは運転手ー」


「ゎ、わかってるよ。じゃあ、しゅっぱぁーつしんこー!」

「「おー!」」


 ぶるるるーっ。


「今日は本当にありがとうございました。このご恩は決して忘れません」


「あ、いや、お母さん、そんなに恐縮なさらないでください。あの、子どもたちから聞いたかどうかわかりませんが、偶然が幾重にも重なって、イルちゃんのお母さんもお誘いしようと向かったんです。まぁ、あんな状況が出迎えてくれるとは思ってなかったですけどね。変な言い方をしますが怒らないでくださいね。実はお母さんが来てくれるのかが心配でドキドキしながら向かってたくらいで、今有無を言わさず付いてきて貰ってるこの状況。実はとてもラッキーなんです。それに今日のような修羅場に遭遇できなければ、なかなか解決が難しい状況だと思うのですが、そこに出くわすことができたのも、とてもラッキーなことだと思うんです。怖い思いをしてしまったお母さんには申し訳ありませんが。おかげで一挙に解決へと向かうことに繋がってます。そう思えば、本当に運命に導かれたのでは? と思わざるを得ないくらいのドンピシャなタイミングだと思いませんか?」


「はい、今日あの時に現れてくださって、私には、もう神様のお導きなのではないか、とドキドキしていました。ほんとうに心の底から嬉しく思っています。でも、同時に、どうしてここまでしてくださっているのか、理解が追い付いていない状況なんです。私たちに払える代償となるものは何も思い付かないのですが、何をすればお返しできるでしょうか?」


「アハハハ、いやぁ、私たちから特に要求するものなどありませんよ。あ、いや、一つありますね」


「な、なんでしょう? できることであれば何でもいたします。何なりと仰ってください」


「えっとですね、申し上げにくいし、別に強要するつもりなどは全くないのですが、私たちと一緒に暮らしていただけないかと思いまして、はい」


「えっ? ど、どういうことなのでしょうか? 私たちにはメリットこそあれ、デメリットはまったくないと思います。あの、その、一ノ瀬さん? でよろしかったかしら? そちらにはまったくメリットなどないように思うのですが?」


「はい。一ノ瀬仁です。ジンと呼んでください。それで、なかなか説明が難しく、理解していただけるかわかりませんが、聞いていただけますか?」


「はい、ぜひお願いします」


「はい、では、まず、今日、娘のマコトがとある事情により、急遽、イルちゃんを連れてうちにやってきました。いろいろ話をしているうちに、みんな、イルちゃんが大好きになり、今夜うちに泊まることを勧めました。そこでお母さんの具合が悪いことを聞きました。少し前後しますが、ある事情というのはマコトたちがケガ人である友達に、妻、ソフィアの治療と癒やしを与えたかったからで、その様子を見ながら、イルちゃんのお母さんにこそ、癒やしをかけるべきでは? との話をマコトが切り出すけれども、イルちゃんも受けさせたいと思いつつも不躾だからと遠慮するので、お母さんの状態が心配になり、半ば強引に話を聞き出しました。ご一族に起こった不幸、そこから借金が発生し、ボロボロになるまで働き、最近は病み臥せる状況であること。しかしお母さんは借金の詳細や、ご自身の身体の状況を教えてくれない。それはイルちゃんに心配をかけたくない気持ちの表れ、と理解しました。この時点で、私の家族は、お母さんを助けたい、という全員一致の思いに至りました」


「そうですか。イルがそんなことを。皆さんのお心遣い、それを聞いただけでも大変ありがたく思うのですが、それに今日も助けていただいてこういうことを言うのもおかしいのですが、そこまでしていただくのは私が厚かましい思いに駆られてしまいます。ジンさんにもそこまでしていただけるような義理はありませんよね?」


「いえ、それがあるんですよ。それを後押しする強力な事情がもう一つあるんです。イルちゃんの亡くなったお婆さんはシャーマンと伺いました。他のシャーマンとは少し異なる不思議な力を備えていた。そしてそれはあなたやイルちゃんにも血脈として受け継がれてる。おそらくですが、私の妻、ソフィアと同じ祖先であると、つまりは遠い親戚だと推測しています。はるか遠くかもしれませんが。なぜそう言い切れるのかを不思議に思うでしょう? そのうちあなたやイルちゃんにも見えるようになると思いますが、人は皆、オーラというものを纏っています。それには紋様と呼んでいる、指紋のような人により異なる模様が刻まれています。その紋様がかなり酷似しているのです。いきなりこんな話をしても理解が追い付かないと思いますが、平たく言えば、遠い親戚なんです。親戚が窮地にあれば、助けたい、は当然でしょう? 助けるにもいろいろあります。経済的な部分が一般的な援助ですが、私たちが心配しているのはあなたの身体です。一般的な例ですが、同じような状況となったお母さんは、たいてい早く亡くなります。女性の身体は過度な重労働には耐えられません。すなわち、あなたの身体もかなり傷んでいるはずです。それをなんとかしたいんです」


「そこで妻、ソフィアの癒やしです。彼女の力は本物です。かなりの回復が見込めます。ただ、それでも身体の傷んだ状況まで回復できるかどうかが未知数です。それがダメならもう一つの可能性が残っていますが、こちらは……必要なそのときにお話しします」


「はい、まだ眉唾ものな理解ですが、いえ、決して嘘をついているとは思っているわけではありませんよ。ただ、頭が、私の中の信じてきた常識が付いてこれてないのが現状なんです。信じようと心を進めると気持ち悪くなってきます。心が不整合状態になってしまいます。母のシャーマンの能力も、本気で信じるには至りませんでした。いずれにしても、現実として受け止めてからの理解になると思います。ただ、私たちを親戚として受け留めていただけること、それ以前にも、助けたい、と思ってくれたこと。暖かい。いえ、お日様の温かさですね。もう、頭の中はその言葉で埋め尽くされてしまったようで、何も考えられな……ぃ……うぅぅ。本当にありがどぅ、うぅ」


「お母さん。今までよく頑張ってこれましたね。イルちゃんもよく守ってきましたね。到着するまで、今のうちにたくさん泣いちゃいましょう。肩ならお貸ししますよ。運転してるので」

「はぃ、うぅぅ」


 ……


「はーい、とうちゃーく、マコト、先に荷下ろし頼む」

「りょっかーい!」


「目ぇ、腫れちゃったから軽く癒やしますね?」


 手からボァーッと緑がかった光が滲み出て、お母さんの顔が温まる。


「えっ? これが癒やしというもの? 確かに何か癒されていっているのがわかるわ。え? でも、癒やしは奥さまでは? というか、こ、これは……温かい。心まで癒されそうです。この力、本物なんですね」


「はい、たぶんOKかな? 私は最近使えるようになった駆け出しなので、これくらいが関の山です。鏡見て大丈夫か確認してくださいね」


「ぅぁーっ、嘘でしょ? 私、確かに今まで泣き腫らしてたよね? まさか幻? 夢? えっと、今、私、起きてますか?」

「ええ、お目目もパッチリと」


「え、えーっ! じゃあ、やっぱり本物? 今までシャーマンと呼ばれる人たちの、そういう類のものを見るたびに、大して変わっていないのに、大袈裟に変化を強調する姿をたくさん見てきたせいで、本当にできたとしても、ほんの少しの変化だろう、って高をくくってました。これは本物の魔法なのでは?」

「ええ、だから、最初から本物だと言ってますよ?」


「そ、そうでしたね、確かに。なかなか信じ切れてないみたいです。ごめんなさい」


「いや、それが普通の、当たり前の反応ですよ。じゃあ、行きますか。怒涛のファンタジーの世界へ」


「は、はい。……はい? ?!」


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