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Jet Black Witches ー 萌芽 ー  作者: AZO
2.芽吹き。2.親友の家族編
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イルママ奪還作戦

「じゃあ、どうしようか? パパは今ベッドと仕切りを準備してくれる?」

「はいよ」


「パパは軽トラで迎えにいく要員で、ママも行きたいけど、ここにくるのなら、食料と、その諸々の生活物資も必要だから、買い出し係ね? マコちゃはどうする?」

「パパとイルの2人だけで行かせたら、イルのお母さんから、たくさん警戒されるかもしれないから、マコも付いてくよ」

「うん。それがいいわね。イルちゃは、ここでしばらく住むのに必要な持ってくるものが何か考えといて? 主には歯ブラシとか着替えかな? タオルとかは、嫌じゃなければ、うちのを使ってくれていいからね。じゃあ、パパの準備ができたら出発してね」

「はーい」


「ママは、今日の食べ物は宴するつもりで準備してたから、明日以降の分だね。お粥はたぶん買っても要らなそうだけど、一食分準備っと。あぁ、イルちゃ? 日持ちしないものは持ってくるんだよ。あと必要なら勉強道具なんかもね」

「わかりました」


「じゃあ、ママは歩きだからお先に、行ってきまーす」

「「行ってらっしゃーい」」


 イルのお母さんを連れてくるミッションを実際に開始することになったが、ふとイルの言葉を思い出す。イルのお母さんからすれば、見知らぬ人、まぁマコたちだけど、それがこれから押しかけることをリアルに想像してみる。


 当然、イルのお母さんはマコにとっても会ったことのない人で、どのような反応が返ってくるのか、まったく想像できない。もちろん、マコたちの取ろうとしている行動は、イルとそのお母さんにとって、絶対にいい方向の提案のはずだけど、そんなことは相手にはわかるはずもないし、ましてや初対面の相手なら不安にしか思わないのが普通の反応になると思う。


 実際、イルとマコだって深い仲とは言えない間柄だ。マコはイルが大好きだけど、まだ出会ってから日の浅い付き合いで、パパとママだって今日初めて会っただけの間柄だ。


 その割には、パパとママも親子ごと引き受けるほどの大きな覚悟をするのは、たぶん世間的には異常のような気がする。まぁ、うちの家族に限って言えば、イルを見て、そこから判断できるいろいろなことを総合的に考えても信頼し安心できる、それほどの逸材だと判断してのことだと思う。


 でもだからこそ、優秀なイルのお母さんも相当に優秀であるがゆえに、頭の良さからくる多くの不安を感じたりしないだろうか? 躾に厳しい人だとしたら、それこそマコたちの行いは、イルのお母さんの目には、不躾なものにしか映らないのではないだろうか? などと、少々不安な思いがこの土壇場になって頭を駆け巡る。


「イルのお母さん、素直に連れて来れるかな? お母さんからしたら、唐突過ぎるから、怒ったりしないかな?」


 マコのそんな不安に、さっきまでのイルとは異なる反応が返ってくる。


「うん。どんな反応が返ってくるか、ちょっと予想つかないけど、でも、ちゃんと順を追って話せばきっとわかってくれると思う」


 あれっ?おかしい。イルの中では覚悟が決まったからなのか、イルの表情に、まったく不安じみた感情は見つからない。


「あれっ? なんか普通と逆だよね。普通は、娘の方が「大丈夫かな?」って悩んでるところに、友達から「きっと大丈夫。わかってくれるよ」なんて諭すシーンだよ、ここ。あーん。友達として頼りなさすぎなマコ」


「そういえばそうだね。でもね、ありがとうマコちゃん。本気で心配してくれたから、実の娘の立ち位置で不安になってくれたってことだよね」


 イルも覚悟が決まっているようだ。イルがここまで言うからには、きっと話がわかるお母さんなのかな? まぁ、マコが心配しても始まらないし、行けば何とかなるのかな?


 そうだ! リヤカー忘れるところだった。


「あ? パパぁ、借りてたリヤカーもついでに返したいから載っけられる?」

「あ? いいよ。載せていこう。借りたお礼はまた今度って言えばいいか?」


 マコが借りてきたから、相手にとってはマコたちがお礼すべきところだけど、そもそも借りなきゃいけなくなったのは、ニョロ太たちが原因なんだよね。


「あぁ、そうだね。でも、お礼はニョロ太たちに行かせようよ。ヤツらが原因なんだし」

「あぁ、それがいいかもな? お父さんが村長なら、返されるほうも誇らしく思ってくれるかもしれないしな?」


 あぁ、そうか、そういえばそんなことを言っていたね。村長さんのネームバリューのほうが、貸してくれた相手も、村長に感謝されるという、付加価値が付くから嬉しいのかな?


「そうだね。それに決まり!」

「よーし、準備できたから、しゅっぱぁーつ」

「「おー!」」


 途中、リヤカーを返却して、イルのお家へと車を走らせる。


「マコちゃんのお父さん、そこの右の路地を入ってもらえますか?」

「りょうかーい」

「ん? うちの前になんか人が集まっている。マコちゃんのお父さん、そのあたりに止めてもらえますか?」


 車を降りると、近所のおばさんが話しかけてきた。


「イルちゃん、どこに行ってたんだい。大変だよ。どうやら借金してたところが夜逃げしたらしくて、店に残っていた借用書がギャングに渡ったみたいで、チンピラが取り立てにきてるみたいなんだよ」


 え? よりによって、今から迎えに行くはずのイルのおうちが絡まれているとは。なんという僥倖。いや、そんな目に遭っているイルのおうちをせせら笑うわけじゃないよ。そんなときにそんな窮地をなんとかできるマコがいるということがラッキーだと思った。でもマコは救えるけど、それは暴れるとかの強引な、不完全な解決方法になってしまいそうだけど、今日はそんな心配はいらない。なんてったってパパがいる。イル、心配いらないからね。きっと大丈夫。


「え? お母さんは今中にいるの?」


「あぁ、チンピラが中に入っていったから、中で話してるんだと思うよ。そういえば、最近成り上がったタチの悪いギャングがいるって噂があって、ヤツらがそれかもしれないね。だとしたら、イルちゃんは出ていかないほうがいいよ。悪い噂しか聞かないんだ。クスリや臓器売買、人身売買とか、見境なくやる連中らしいからね。おばちゃんの家に行って隠れてな」


 この近所のおばさんとの会話が終わらないから、イルに大丈夫だよって伝えられないよ。


「ありがとう、おばちゃん。でもお母さんはどうなるの?」


「今警察を呼んでるから、間に合えば追い払えるはずだよ。ただねぇ、警察の中にもギャングと癒着しているやつもいるらしいから、なんやかんや妨害されると、到着が遅れる可能性があるね。でも、イルちゃんが出ていったら、ちっちゃくて可愛らしいあんたは、価値が高くて、連れ去りやすい絶好のターゲットさ。だから絶対に出ていっちゃダメだよ」


 パパが小声で話しかけてきた。


「マコト、前にやった「つぶて」はできるようになった?」


「うん。パパほど威力は出せてないけど、スピードは負けてないから、拳銃にも対抗できると思うよ。しかも、10mくらいの範囲内なら、指に当てるくらいの精度で、手に握り込む個数だけ、大体3つ位かな? 連射も可能です」


「それは頼もしい。じゃあ、これをポッケに入れて、いつでも取り出せるようにしといて」


 パパは、何やら紙でできた豆粒くらいの大きさのものを入った袋を手渡してきた。つぶてに使うのかな?


「これは?」

「日本から取り寄せた、花火の一種で、思いっきり壁にぶつけたり、踏んだりすると、パンって大きな音がするやつ。周りは紙みたいな素材だし、目にでも当てない限り、痛いけどケガはしないやつだから心配不要だよ。ただ音が音だけに威嚇には抜群の効果があると思うよ。だからって、バンバン使って良いわけじゃない。あくまでも念のためだ。使っていいのは、ここぞというときだけだからな」


 さすがパパ殿。危険性はないのに、派手さだけは体感できる優れもの準備してくれたよ。なんかウズウズしてきた。うぅ、撃ちたいなぁ。


「わかった。でもいきなり実戦だね。危なくないならバンバン使ってみたいな」

「ダメダメ。平和解決が一番だし、正当防衛じゃないと、逆にこっちが捕まってしまうからな」


 残念。でも使い方を誤ると捕まるという代物なんだね。うぅ、使いどころが判断難しそうだね。


「その判断は難しそうだから、撃っていいときはパパが合図してね」


「わかった。あとテープレコーダーとカメラ」


「あっ! 「撮れるんデス!」だ、一度使ってみたかったの。持ってるんなら言ってよね」


「わかった。今度な。テープレコーダーは録音開始して、首にかける。で見えないように服の中に入れておく。カメラは相手に都合が悪いと思った場面ならいつでも撮っていいぞ。ただ36枚しか撮れないから、よく考えて撮るんだよ」


「わかった」


「あと、証拠がないとあとで立場が悪くなるから、優位に立つためにとっておくんだ、だから録音は悟られないように、カメラも奪われないように注意すること。それと同じセットをイルちゃんにも持たせて説明しておいてな」


「わかった」


「今度はどう立ち向かうかだけど、たぶんピストルやナイフはみんな持ってると思え。しょうがない場面ならつぶて全開で立ち向かえばなんとかなりそうか?」


 おっ?つぶて全開の場面も想定ありですか? マコの敏捷性も発揮できるかな?


「マコはすばしこく動けるし、動きながらのつぶても大丈夫だから、全然怖くないよ」


「さすがマコトだな。頼もしいぞ。それで進め方なんだが、最初は平和解決のためのアプローチを試みるから、いきなり仕掛けないようにな」


「うん。わかってるって」


「イルちゃんの動きにも注意が必要だよ。感情的になって飛び出す可能性もあるからな」


「そうだね。注意しとくよ」


「それでね。クフフ」


「何笑ってるの? この緊急事態に!」


「あのな、マコトはオーラを光らないように発して、少し離れたところのものを動かしたりできる?」


「うーん、5mくらい? いやもうちょっと、たぶん7mくらいなら、いけると思うよ」


「そっかぁ、じゃあ、イケルかもしれないな。クフフ」


「何? 不気味だよ、パパ」


「えっとね、平和的解決が難しかったときの次のアプローチは、ズバリ、ボルターガイストがいいかな、ってね。ほら、何もつぶてを撃つような、攻撃的手法なんかより、相手が持っている銃やナイフを、オーラを介して飛ばすこと、けっこう簡単じゃない? 幸い家の中というシチュエーションなら、ボルターガイストのせいにして、武器や机、椅子なんかを派手にグルグル動かせば、相当びっくりしそうだろう?」


 うちのパパったら、いつもお茶目なことばっかり考えるのね? というか、いつもの5割増しで活き活きしちゃって見えるのは気のせい?


「アハハハ、だからさっき笑ってたのね。確かにそれが一番簡単な無血解決法だね。ボルターガイストも、そんな噂がたつのはあとあと困るけど、あらかじめ糸を仕込んでいたとかなんとか理由はいくらでも作れそうだね。ウフフ、パパ、頭いいー」


「だろう? じゃあ、イルちゃんにも説明しといてね、パパは準備しておくから、イルちゃんの準備ができたらゴーだよ」


「らじゃ」


 しばらくして近所のおばさんの話が終わったイルに、カメラとかを手渡し、簡単に説明を済ませた。あっ、ポルターガイストの説明をし忘れた! まぁ、いっか。やるのはイルじゃないしね。


「じゃあ、イルちゃん行くよ?」


「はい、大丈夫です。行きましょう」


「奥さんさぁ、借りたものはキチンと返さないといけないって、小学校で習わなかったかい? 早く耳を揃えて、持ってこいやぁ。3万ドル」


「ゴホゴホ。先ほどから申し上げているように、お借りしたのは5千ドルだけですし、返済期限もまだ一年以上先の話だったはずです」


「いやいや、奥さん、この証書にはとっくに期限も切れた3万ドルで記載されてますぜ? だから今取り立てに参ってるわけですよ。今すぐ払えないのなら、代わりのものを差し出してもらう必要がありますねぇ」


 部下のチンピラに確認する、

「おい、物色は終わったか?」


「はい、アニキ。金目のものはほとんどありませんぜ。ただ、この奥さん、小さな娘が一人いて、かなりの上物ですぜ」


「ほう、良かったな、奥さん。奥さんもちょっと病んでるようだが、なかなか美人だから借金のかたくらいにはなりそうだったが、その娘がそんなに上物なら、あんた自身は売られずに済んで、おつりでいい暮らしができるんじゃないか? うん、これぞ親孝行の極みだね」


「娘は渡しません。もうすぐ警察が来るはずです。お引き取りいただいたほうがよろしいかと思いますが?」


「あらら、奥さん。あぁ、知るわけないですよね? さっき市場の方で大事故が起こったらしくてね。人手不足の警察はこちらに来るのにまだまだ時間がかかるみたいですよ。残念ですね、市民の味方のはずなんですが、人手不足はどこも厳しいですからね。まぁ、奥さん、早く観念したほうが、ことを荒立てずにすむんですが、応じていただけないのなら、強行手段をとらせていただきますね。手数料も含めて、娘さんと奥さんの両方に来ていただくことになりますが、よろしいですか?」


「娘には手を出さないでください」


「そうは言っても、最初に応じていただければ、奥さん一人で済んだんですが、時間が経過するほどに、手数料は加算されていくのですよ。さっきまでは娘さん一人で足りてたんですが、ご決断されなかった。仕方が無いですね。もうあなたの意志は関係なくなりましたから、娘さんが戻り次第、お二人ともお連れすると言うことで」


 手下に指示を出す。

「おい、奥さんに逃げられないように手に縄を掛けておけ」


「へい」


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