ニョロ太、心躍る
「あ、パパ、ママ、ただいま」
「マコト、おかえりー。風呂は準備できてるぞ」
「ありがとうパパ」
「その子たちなのね? そこのテーブルの所に座らせてくれる?」
「わかった。パパママ、この可愛い子がイル。仲良しなんだ。すごく賢くてテキパキしてるの」
「はじめまして、イルです。いつもマコちゃんにお世話になっています」
「ほ、ほんとに可愛い子だね。現地の子と雰囲気が少し違うけどハーフなのかな?」
イルは顔を赤らめながら、もじもじ、照れ照れしてる。
「あらあら、ホントに可愛いらしい子ね。いつもマコちゃがお世話になってるのね。ありがとう。これからも仲良くしてあげてね。それにしてもなんて素敵な髪なのかしら? 確かこの色、ストロベリーブロンドって呼ばれる、みんなが羨ましがる髪色よね? とても珍しいし、私は初めて見るけど、とても素敵で可愛いわ。元々が超絶可愛い顔をしているうえに、この髪色が可愛さを爆発させているみたいね。それにパパが好きそうな可愛さみたい。なんか顔がデレデレしてる。もう、パパ、守備範囲が広すぎない?」
「そ、そそ、そんなことはないよ。ママ一筋だからね」
「あら? 冗談のつもりだったけど、その慌て方、うーん。まあいいわ。それより、その男の子たちを見なきゃだね」
「「よろしくお願いします」」
「はい。うん。目の回り以外は上手に除去できてそうね。目の回りのタオル、外すわよ? でも目は開けないでね」
「「はい!」」
「マコちゃ、カエルの分泌物の毒って、この目尻に滲みてるやつかしら?」
「そうだけど、たぶん涙で薄まってるかも? こっちのハンカチのほうが、染み込んでるけど薄まってないやつだと思う」
「ちょっと油っぽい、これね」
「そうそう」
「うん、除去対象は識別できそうだわ」
おぉ、なんとかなりそうだ。ママは続ける。
「了解。顔以外は、、、うん。大丈夫かな?」
「髪の毛と、耳の裏、首回りはいっぱい付いてるね」
「ちょっとゴミ箱取って」
「はいよ」
「はい、ありがとう。掬ってポイっと。掬ってポイっと。髪の毛と、耳の裏、首回りはこんな感じかしら?」
「次は口っと、アルコール入りのうがい薬よ。はい、これを適量口に含んで口を濯いで、目の前にバケツあるから、そこに吐き出して」
「ありがとうございます」
ニョロ太たちはコップを受け取り、うがいを始める。反対の手でバケツの位置を確かめ、濯いだものを吐き出す。
「グジュグジュ、ペッ」
「三回目からは喉のうがいも含めてね」
「ガラガラガラ、ペッ」
「そうそう、上手にできたね。もう、しゃべれるかな?」
「はい、ありがとうございます」
「よし、じゃあ、今度は目、行くよ。痛かったら言うのよ。滲みて痛いのは我慢するしかないけど、目そのものが痛いときはすぐに言うのよ。わかった?」
「はい」
「睫毛、眉毛と周辺表面はOK。次は瞼の裏あたりだけど、ヘェ、意外に大丈夫そうだね。目尻付近にほんの少し染み込んでるくらいかな? 普通は本人パニクるから、目をたくさんこすって、もっと広範囲で悪化してるもんだけど、エラいね。我慢したんだね」
ニョロ太が答える。基本ゲコ太は無口でニョロ太が代表して話す役目みたいだ。
「いえ、すべては娘さんたちの指示が早く的確だったおかげです」
イルがマコをほめる。
「あぁ、それ、マコちゃんがカエルの毒のことを知ってて、応急手当ての手際がすごかったからですよ。マコちゃんのママ」
マコがイルをほめ返す。
「いやいや、この間、たまたまパパから教わったばかりだったのと、イルがテキパキしててすごいんだよ」
「そっかぁ、みんなの活躍ね。まぁいいわ。それより二人とも、お風呂に入ってらっしゃい。あ、もう、目を開けていいわよ。でもこするのはダメ。お風呂で全身とよく目を濯いでらっしゃい。あぁ、そうそう、服はここで全部ぬいでいくのよ。洗わないといけないからね」
ニョロ太、ゲコ太はおそるおそる目を開いてみた。
「うわっ、見えるし、痛くない。マコちゃん、イルちゃん、マコちゃんのお父さん、お母さん、ありが……えっ、きれい……。なんて美しさ? ……」
ニョロ太の目がハートマークに見えるよ。
あぁ、落ちたな。
遅れてゲコ太も同じような反応をしている。
あれっ? よく見るとイルももじもじしながらママに見惚れてる。
「マァマ、またみたいだよ。ホント罪作りだよね。パァパ、また不安の種が増えたみたいよ? 困っちゃうね? やっぱり連れてくるのはやめた方がいいのかな?」
「いいじゃない。どんどん連れてきなさいよ。まぁ、立派なおうちではないけど、心温まる交流ができるのはいいことよ?」
「マコちゃん、私もまた遊びに来ていい?」
「イルはもちろんだよ。それにイルは女の子だし、ママを好きになってくれるのはマコも嬉しいもん。マコもママ大好きだから、仲間ができた感じかな?」
そんな会話をしてると、ニョロ太が我に返って、もじもじしながら言葉を発した。
「あ、ああ、あのボクらも遊びにき、来てもよ、よろしいでしょうか?」
「アハハハ、私はいいけど、ひとりじゃなくて、来るならみんなでいらっしゃい? ただ、マコちゃたちがいいと思うかはべつの話よ」
ニョロ太の爆弾発言にも等しい申し入れにびっくり。いやいやいや、ってあなた誰?
「エー! なに、ニョロ太、うちに来たいの? だって、ほぼ初対面だし、あなたの名前も知らないのよ? ねえ、イル?」
「えぇ? 知らないって?」
ニョロ太が驚く。
これにはイルも黙っていない。そもそも散々いたずらしかけているやつだもんね。
「そーよぉ。私も村長の息子さんとしか知らないし、そもそも、今日のこの騒ぎ起こした自業自得な張本人さんじゃない。そもそも私かマコちゃんにちょっかい出そうとしてたんでしょ? お友達にもなってないのに、それを一足飛びにマコちゃんのママに会いたいなんて、ありえないよ。私だってマコちゃんのママはまだ初対面なのに、ねぇ、マコちゃん?」
「えぇぇー?」
あっという間に出来上がった却下の流れに、ニョロ太は驚きの声しか漏らせない。
うっかり友だちになってはまずい。この話題はもうここで終わり。断ち切らなきゃ!
「そーだよ。というか、早くお風呂に入って毒を流してきなよ」
「あの? 知ってて愛称を付けてくれたんじゃなかったの? 変わった響きだけど、外国の言葉かな? オレ、ニール、それでこっちはゲイルです」
真面目な顔で本名を告げるニョロ太。ニョロ太がニール、ゲコ太がゲイル。なんて偶然、というか、もう今日の出来事が起こったのはきっと運命だよ。一瞬のうちにそれを思ったら、激しく吹き出さずにはいられなかった。
「ぷぅーーーっ! あははは、あははは、お腹痛い。偶然ね。ピッタリだったんだ。じゃあ、変える必要もないか? ニョロ太とゲコ太のままでいいよね? ねっ? イル」
ことの経緯は知らないが日本語のわかるパパとママは、ネーミングからなんとなく察していたようで、マコと同じく、本名告白で軽く吹き出していた。初対面で失礼だからとかなり抑えたつもりのようだが、周りには十分伝わった。
「「ぷっ」」
イルは命名も成り行きも当然知っているが、笑っては可哀そうと思ったのか、吹き出すのはとどまれたが、笑うだけは笑いながら、返してくれた。
「うんうん、あははは、ナイスネーミング! マコちゃん」
日本語のわからないニョロ太は何が可笑しいのかわからず。
「えぇ? な、なんか変な意味なの?」
ママはこの可哀そうな流れを止めようと話を進めた。
「あらら。あなた達、お友達じゃなかったのね? さっきも言ったけど、ここで全部脱いでいくのよ。マコちゃ、脱がして、連れて行ってあげて」
「了解ママ。イルも手伝って」
「え? ゎ、私も?」
もうお年頃で、好意を寄せる女の子の前で脱ぐなんて羞恥の極みと思うニョロ太。
「わぁ、止めて恥ずかしいから、ごめんなさい。自分でできるからぁ……」
恥ずかしがる様子にきょとんとするマコだったが、男の子だからとはっぱをかける。
「あぁ、恥ずかしいんだね。でもパパの見慣れてるから気にならないし、いちいち見ないわよ。男の子だから平気でしょ? バーンと見せびらかしなさいよ。イルもそうでしょ?」
恥ずかしさに同意するイルは、突然ふられて動揺しながら返す。
「わわ、私はお母さんしかいないから、その初めて見たけど……あの、見ないようにするから、だ、大丈夫。た……ぶん」
ニョロ太たちの必死の抵抗の言葉も空しく、抗えず裸にむかれ、マコたちに先導される。
「ば、ばか、ゴニョゴニョ(好きな娘の前なんて、しゅ、羞恥心がぁ)」
必死に両手で前を隠すニョロ太。
ゲコ太は終始静かに、前を隠して内股気味で付いて来る。
マコとイルが先導する形で前を歩くから、恥ずかしさもそれほどないだろう。
「あ? 聞こえたぞぉ。好きな娘? やっぱりイルが好きなんじゃない」
「え? 私? 私はまだそういうのは考えられないよ」
ニョロ太、ガーン。イルの言葉に軽く傷心な表情だ。
「アハハハ、ドンマイ。タオルとひとまずパパの服を貸してあげる。私が持ってくよ。付いてきてね。それと、見たとおり、キャンプ生活してるから、お風呂はドラム缶だよ? 入れる?」
「え? 初めてだけど、たぶん大丈夫。それより、どこまで付いて来るの? 恥ずかしすぎるよ」
「ちょっとはガマンしなさいよ。それにお風呂の場所や要領わかんないでしょ?」
「それもそうだけどぉ……」
ちょこちょこ振り返るたびに、顔だけ見るようにしているから、少しは気にならなくなったかと思ったのに。まだ言うか? ちょっとイラッとした表情で顔を覗き込む。
「あ、そんなことより、今日は本当にありがとう」
が、話題が変わってきたので少し表情を緩めてあげる。
すると、ニョロ太が話し始めた。
「痛かったけど、被害がほとんどなかったし、マコちゃん? のお母さん、あんなに綺麗な人、初めて見たよ。まだドキドキしてる。ん? あれっ? マコちゃんも幼いと思っていたけど、よく見るとお母さん似ですごく可愛いね」
不意打ちのジャブがクリーンヒット。思わず照れて俯いて視線を下げた。
「と、突然何よ!」
あっ。視線の先に異変が??
「ととと、というか、きゃー、なんかエッチなこと考えてるでしょ? お、おちん、……ちょっとおっきくなってるよー、きゃー」
不意の視線に慌てるニョロ太。
「わ、ば、ばか、見るなよ」
「き、急に誉めるからでしょ?! 恥ずかしくて、下向いちゃったじゃない! あぁ! もっとおっきくなった」
噂では聞いたことがある状況を初めて目にするマコ。だからこそ細かな変化にも敏感だ。
「ば、ばか、可愛さを意識したら、勝手になっちゃったんだよ」
「そ、そーゆーもんなの?」
そう言う間にも、さらに大きく動き出す様子に、もぅマコの目は釘付け。恥じらうのも忘れ、思わずしゃがみ込んで見入ってしまう。
そんな状態になってしまうと、両手でも隠しきれないニョロ太。マコの視線にあたふたあたふたパニック気味だ。
二人の言葉に反射的に、振り返って下方を見やるイル。
「きゃっ」
「イルにも見られた! もーどーにでもして」
ニョロ太の中で何かが弾け飛んだ。
ゲコ太ももじもじしてるが、つられて同じような状態だ。少し腰が引けて、なんとか隠そうとはしているが、隠しきれてない。
まだまだ純真なマコにとっては、目の前の状況変化に興味津々だ。
「イル、恥ずかしいけど、でも、おもしろいよ、これ。なんか別の生き物みたい」
「わわ、私もそんな状態の見るの初めて。恥ずかしくて直視できないはずなのに、目が離せない、どーしよー」
顔を両手でしっかり隠し、恥じらいを見せるイル。しかしパーの形の手は、指間全開。視界全開。両目全開。瞬きなし。
「うわっ、見られてる恥ずかしさで余計に……うぅ。ば、ばか」
「あれっ? 泣いてるの? ごめんなさい。そんなに恥ずかしかったの? しょうがないなぁ。仕方ない。マコも脱ぐから、一緒に入ろっか?」
見るに見かねて、一緒に入るなら恥ずかしさも収まるかとマコは服を脱ぎ始める。
「なっ! やめろ、バカァ」
羞恥心全開とは裏腹に、蠢く興奮。高鳴る鼓動。トクン。既に感じ入っている。そんなところへさらなる刺激が舞い込む。トクン。思いもよらない言葉に膨らむ妄想。トットクン。マコちゃんの脱衣。トクントクン。一枚脱ぐ、もう一枚、、最後の一枚に手をかけ、ゆっくりと。トットッ。そしてすり落ちる。トットッ。ぐるぐると妄想が加速する。。一糸纏わぬ生まれたままのマコちゃん。トトトトッ、ドックン。ここまで僅か0.8秒。
「うっ……。し、しまった」
っと、うっかり、、慌てふためき前を、いや超局部を両手で覆い隠す。
マコの行動に慌ててイルが制止に入る。なんとかシャツ一枚脱ぎそうなところで乙女の危機は防がれた。
「マ、マコちゃん! ダ、ダ、ダメよ。乙女なんだから、そうそう裸は見せるものじゃないのよ!」
「お風呂はあっちだよね」
ニョロ太は、必死の形相で、被せるように尋ねる。
「うん」
「先に行ってる」
絶対にバレてはならない、墓場まで持ち去りたい秘密とともに、慌ててこの場を立ち去りたい衝動に駆られ、ニョロ太はお風呂に駆け去る。ゲコ太もついて行く。
「わかった。で、イル? そういうもんなの?」
「そうよー。好きになった人にしか見せちゃいけないんだよ」
「ふーん? 去年まで近所の男の子たちと一緒によくお風呂に入ってたよ」
「それは、まだ分別の付かない幼児だからいいのよ。確かにマコちゃんもまだ幼いけど、他の子と違って、しっかりと分別付いてるでしょ? それにそろそろ恥ずかしいって気持ちも芽生えてきてるでしょう?」
「ふーん、そういうものなのかぁ。そういえば、パパもママも、最近はキチンと向き合って話をしてくれるようになってきたのは、分別がある、って認めてくれているってことかぁ。それに、うん、その恥ずかしいって気持ち? ちょっと感じ始めてはいるんだよね。でも、急に恥ずかしがるのも変な感じで、どうしたらいいのかモヤモヤしてたんだ」
「そうでしょ? もう恥じらいのあるレディとしての振る舞いをしていかなきゃ、だよ」
「わかった。ありがとう、イル。またいろいろ教えてね?」
「わかったわ。私もマコちゃんに教わりたいことたくさんできたしね」
「そうなの? イルの方がずっと物知りだと思うけどね。あっ、そうそう。ねぇねぇ、イルは知ってるの? なんで男の子のアレは、あんな風におっきくなるの? パパと一緒によくお風呂に入るけど、あんなの見たこと無いよ」
「え? マコちゃんは知らないの? ま、まぁ、そうね。私だってまだ幼い部類に入る年齢だけど、周りの同い年もみんな知らないくらいだもの。知らなくて当然かぁ。知りすぎてるのもなんだし、私だって、詳しい訳じゃないけど、軽く教えてあげる。あのね、ゴニョゴニョ、ゴニョゴニョ、ゴニョゴニョ。なんとなくわかったぁ?」
「えっと、なにかで読んだことがある、雄しべと雌しべ、みたいな話?」
「そうよ。まだ学校にも入ってないのによく知ってるね」
「エヘヘ、たぶんほとんどはアニメか、マンガからの仕入れた情報だよ。でも、それとアレがどう関係あるの?」
「雄しべと雌しべは植物の話だけど、動物でいえば、雄と雌。人間でいえば男と女でしょ? お父さんもああいう風になるときがあって、そのおかげで今マコちゃんはここにいるのよ」
「え? ええ? お、雄しべがアレなら、雌しべって、もしかして……、エー!」
「だから、アレがああなるのは、種の保存のための本能なのよ。マコちゃんがみんなに裸をバーンって見せちゃったら、男の人はみんなああなって、大変になるのよ。だから好きな人にしか見せちゃいけないのよ。もう意味はわかるでしょ?」
「う、うん……さっきのこと思い出して、恥ずかしくなってきちゃった。もー、じっくり見ちゃったよ。目に焼き付いちゃってる。あー、もう。ドキドキしてきた」
「私もしっかり見ちゃったよ。まぁ、恥ずかしいけど、逆に興味もあったから、ドキドキ嬉しかったよ。マコちゃんのおかげだね。ありがとう」
「そっか。慣れるまでドキドキがすごそうだけど、このドキドキもいつか嬉しくなるのかな?」
「そうなるといいね。私とマコちゃんは、ちょっとエッチな女の子になるんだね、きっと」
「アハハハ、それもいいかもね」
「あ、長話しちゃった。タオルと着替え届けなきゃ!」
イルとの会話はいつも中身もあって、楽しくて、いつも時間の経過を忘れちゃうね。
「そーだった、あはっ?」
「あはっ? じゃないわね。忘れてたけど、一応病み上がりみたいなものだから、のぼせて倒れてなけりゃいいけど」
「そーだった。まぁ、死んでなきゃ大丈夫だよ。パパとママが揃ってるから、大抵のことは大丈夫」
「ずいぶんと乱暴な口振りね。まぁ、それだけお父さんとお母さんの持っている力が凄くて、あんな凄いことができるマコちゃんがそこまで信頼しているのだから、きっとそうなんだろうと思うけど。それはあとで聞かせてくれるんでしょう? ひとまずヤツら救出が先だね! 行こ!」
「よし行こう!」




