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ブレーメンの特殊部隊  作者: 有坂 瑠利
第1章 はじまりはじまり
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第20話 強さと弱さ

 忍装束に紺色のパーカー、目深(まぶか)に被ったフード。影のような(たたず)まいのその男は、どこか虚ろな目でまっすぐ朔也を見つめていた。


「……また防がれた。彼にも逃げられた。でも、僕だってちゃんとできるんだ。僕だって……」


 風ではらりとフードが外れる。大きな金色の目が夏の日差しにきらりと光った。何かを盲信するように、その目には温度がなかった。


 男は軽やかな動きで街灯から飛び降りた。かなりの高さだが、物音一つ立てない。


「初めまして、僕はナットだよ。どうせ知らないと思うけど」


「……お前か。(はやて)さんをこんなに痛めつけたのは」


「ほとんど自滅だよ。それに、そいつもユーリを酷い目に合わせたんだからお互い様だ。──それより、早く仕事を終わらせないと」


 ナットが帯びる殺気が、ふいに濃度を増した。電流のような緊張感が朔也(さくや)の全身を駆け巡る。暑さとは別格の嫌な汗がじっとりと額に(にじ)み出し、頬を流れ落ちた。


 ふと、道端に投げ捨てられた短剣が目に入った。拾い上げ、こびりついた血を拭う。


「ちょっと。それ、ユーリのだよね?」


 ナットの顔に明らかな嫌悪が広がる。


「ああ。肝心の持ち主はたった今戦線から離脱したみたいだが」


 朔也は前傾姿勢になり、短剣を構えた。


 乾いた風が吹き過ぎる。


 静かに睨み合う二人の目には、どちらも仲間を痛めつけられたことに対する怒りが浮かんでいる。


 極限まで張り詰めた空気の中――


 先に動いたのは朔也だった。


 地面を蹴り、一歩で距離を詰める。散々受けたユーリの攻撃を思い出し、短剣を振るった。が、


「無駄だよ」


 ナットは跳び退き、大きく体をのけぞらせた。鼻先で(やいば)をかわす。


「……チッ」


「……はあ、やっぱりすごいね。ほんと自分が嫌になる。でも、所詮その程度か」


 ナットが変化(へんげ)した。


 (けい)のそれよりもひと回りかふた周り大きい体躯。ふっさりとした尻尾につぶらな瞳。目の周りを縁取る白い模様。


 アメリカアカリス。哺乳類、齧歯目リス科リス属。学名Tamiasciurus hudsonicus。


 小さな体へと姿を変えたナットはすばしっこい動きで地面を走った。するすると街頭に駆けのぼり、建物から建物に跳ぶ。屋根や看板などの突出した部分に次々と飛び移り滑空する様子は目で追えないほど速かった。


 その上、朔也の視線をかいくぐって器用に人間と獣の姿を行き来し、手裏剣を打ってくる。あらゆる方向から高速で迫る刃物を(さば)き切れず、いくつもの手裏剣が朔也の頬や肩口を(えぐ)った。


「くっ……」


 鮮血が(にじ)み、地面に落ちる。


「何だ、ボスが目をつけてるっていうから警戒してたのに大したことないんだね。なんなら僕の方が上かも」


 軽蔑に満ちた目が見下ろしてくる。朔也は指の腹で頬の血を拭い、ナットを睨みつけた。


 被食者ゆえ、相手の出す殺気に慣れているのだろう。距離を詰めようとしても機敏な動きで逃げてしまう。


 そして暗器を使った遠距離攻撃。ただでさえ朔也はユーリとの戦いで疲弊(ひへい)しているのだ。このままでは攻撃が通らないばかりか、一方的に体力を消耗するばかりだ。


 朔也は必死に思案した。どうすればこの戦況を変えることができるのだろう。


「飛び道具……リス……」


 熱に浮かされたように何度も呟く。


 ――相手の弱点を知りたいときは逆にそいつの強みを考えればいい。


 ふいに頭の中に(よみがえ)ったのは、陸斗(りくと)の声である。


 ――強さっていうのは、そのものの弱さを補うためにあるんだ。


 朔也は考える。


 遠距離攻撃という強みを持つ暗器、そしてリスの弱点はいったい何なのか。

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