プロローグ
居場所をなくした獣たちは、ブレーメンにやってくる。
いつだったか耳にしたそんな噂を、今になってふいに思い出した。
どこで聞いたのかも分からない空想じみた作り話だ。一方で、そんな噂に縋りたくなるくらい、自分が憔悴し切っているのも事実だった。
所詮、自分のような立場のものが藁にも縋る思いで生み出したくだらないおとぎ話に過ぎないのだろう。信じるだけ無駄だ。自分に価値はなく、この世に希望などない。今までの人生で散々思い知らされてきたはずだった。
それでも。
傷つき、迷い、生きることに疲れ切ったこんなにも愚かな身でも。心のどこかで夢見ずにはいられない。
ありのままの自分を受け入れてくれる場所が、ここが自分のいるべきところなのだと思えるような唯一無二の"居場所"が、どこかに存在することを。
夜風が木々の葉を揺らす。流れた雲の狭間から、煌々と輝く満月が姿を現す。
──どうせ朽ちるなら、せめて。
鉛のような身を起こし、おぼつかない足取りで一歩踏み出す。どこへ向かえばいいのか、そんなことは知らない。知らないはずなのに、その歩みに不思議と迷いはなかった。
月明かりが路面に落とす獣の濃い影がすらりと伸び、人間の形を形作った。