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お気に入り小説1

彷徨える死霊ステラマリーと見捨てられた元皇太子アルディアスとの恋

作者: ユミヨシ

ああ…私は、どれだけ深くあの人を愛しているのだろう。

王族でありながら、離宮に閉じ込められているアルディオス様。


離宮と言っても、王宮の庭にあるから、宮がついているだけで、朽ち果てたボロ屋だというのに、あの方は、王家からも見捨てられて、一人、病に戦う気の毒な人。


そんな貴方助けたくて、聖女様を探しているのだけれど見つからない。


疲れた足取りで今日も私は貴方を訪ねて、離宮へと足を運ぶ。




ステラマリーは人間ではない。死霊だ。

王家の墓の片隅に葬られた、死霊のステラマリーは、成仏できずに、

夜な夜な王宮の庭を彷徨っていた。


自分の名はステラマリー。名前だけは憶えているが、何で亡くなったのか、まるで思い出せなかった。

ただ、宛も無く、王宮の庭を彷徨い歩く死霊。


とある日、朽ち果てたボロ屋、別称離宮に気が付いた。


人はあそこには住んでいなかったはず、何で灯りが点いているのだろう。

そっと近づいてみれば、小さなその家の窓が開いていて、一人の黒髪の青年がベットから身を起こして、こちらを見ているのとばっちりと目が合ってしまった。


ステラマリーは死霊である。姿は骸骨で金の髪がへばりつき、ドレスはボロボロの姿であった。


そんな自分の姿が見えるのか、青年は驚いたように声をかけてきた。


「驚いた。骸骨? 丁度、暇していた。俺の言葉が解るか?」


「貴方、私の姿が見えるの?」


「ああ…不思議だな。だが、見えてよかったと思っている。一人きりは寂しい。こっちにおいで。」

青年に手招きされて、家の中に入る。


ベットの上の青年は、ハンサムな男性だったが、顔に痣が出来ており、

熱っぽい顔をしていた。

青年は疲れたように、ベットに横になりながら、自己紹介をする。


「俺の名はアルディオス。この国の皇太子だった男だ。病にかかってしまって、

隔離されている。この病は治らない。食事は外から差し入れて貰っているが、見捨てられている。一人でとても寂しかった。こうして訪ねてきてくれて嬉しい。」


「え?私は死霊ですのよ。それなのに?嬉しいのですか?」


アルディオスはベットから手を伸ばして、


「勿論。孤独程、辛い物はない。君の名は?教えて欲しい。」


「私はステラマリー。自分の事は名前以外覚えていないの。でも、この王家のお墓に葬られていたから、きっと、関係のある人なのね。アルディオス様。貴方、私の名前を聞いた事がないかしら。」


「ステラマリー?聞いた事がないが。血がどこかで繋がっているかもしれんな。

君の話を聞きたい。覚えている事は他にないのか?」


「そうね…。駄目だわ。思い出せない。それなら貴方のお話を聞かせて。身体に無理がない範囲で。」


アルディオスは、嬉しそうに、話始めた。


「俺は両親に期待されて、華やかな人生を送ってきた。美しい婚約者もいたし、人生順風満帆だったんだ。ただ、この病にかかるまでは。ああ…何で俺はこんな病にかかってしまったんだ。もっと生きたかった。この国の王になりたかった。」


「貴方の病、治す薬があればよいのですが。」


「無理だ…。医者もさじを投げている。」


「それならば、聖女様って今の時代にいます?」


「聖女様?聞いた事がないな。」


「思い出したのですが、私の時代には聖女様がいて、どんな病でも治して下さいました。もし、この時代にも聖女様がいるとしたら…」


「俺の病が治ると言う訳か。」


「私、夜しか動けないんですが、探してみます。聖女様。」


「いいのか?負担をかけて。」


「役に立てるというのなら、必ず、聖女様を見つけてみせますわ。」




こうして、ステラマリーの聖女様探しが始まった。


王宮の庭を出て、夜な夜な聖女を探すステラマリー。

フードを深く被り、顔を見せないようにして、彷徨って探してみたが、

そう簡単に見つかる者ではない。そもそも、聖女なんて滅びてしまっているのではないのか。


疲れ切って、アルディオスの元へ戻ってみれば、熱にうなされて具合悪そうで。

タオルを水で濡らして、額に置けば、アルディオスは瞼を開いて、


「ああ、お帰り。有難う。俺の額を冷やしてくれて。」


「いいんです。具合悪そうで、見ていられなかったものですから。」


「やはり、聖女は見つからないか。」


「この時代に、聖女なんているのでしょうか…。自信がなくなってきました。ごめんなさい。」


「謝らなくていい。こうしてステラマリーの顔が見られるだけで。」


「アルディオス様。私…顔、骸骨ですよ。」


「俺にとっては、愛しい骸骨だ。」


アルディオスはステラマリーの骸骨の口元にキスをしてくれた。


「俺も死んだら、お前の傍に行けるのか…。行けたらいい。そうしたら、二人で世界を回ろう。」


「貴方には生きていて欲しい。私は…聖女様を見つけてみせますわ。」


「無理をしては駄目だ。有難う。ステラマリー。」



毎日毎日、アルディオスの為に、聖女探しをした。

歩き疲れて、アルディオスの元へ戻って、夜が明けるまで看病をし、話し相手にもなった。


そして、とある日、不思議な力を持つ、マリアと言う女性が教会にいるという話を耳にした。


しかし、マリアには自分の姿が見えるのだろうか?話をする事も出来ないかもしれない。


ダメもとで、マリアの前に姿を現してみる事にした。


「きゃっ…幽霊っ??」


教会の庭で涼んでいたマリアは腰を抜かさんばかりに驚いた。


「私の姿が見えるのですね。お願いです。マリア様。病気を治して頂きたい方がいるのです。

どうか、治して下さいませんか?」


「え?私が治癒の力を持っているって事をどうして?」


「噂で聞いたのです。どうかお願いです。」


「貴方の事を信じられないし、ここを離れたくないわ。」


「このままではアルディオス様は死んでしまいます。どうかお願いします。」


あまりにもステラマリーが真剣に頼むので、折れたのか、聖女マリアは渋々頷いて。


「解ったわ。」



マリアは、教会の若者2人を護衛に連れて、一緒に来てくれた。


王宮の塀にある裏口からこっそり忍び込む。


若者たちは家の外で待っていてくれて、マリアは、アルディオスに会ってくれた。


優しくアルディオスの手を握り締めて、


「さぁ、私の力を注いであげます。」


「君が聖女様。有難う。」


アルディオスの痣が消えて行く。顔色もすっかりよくなり、病が治ったのであった。


元気になったアルディオスは、マリアの手を取り、


「有難う。聖女様。貴方は俺の命の恩人だ。」


マリアは頬を染めて、


「貴方様の力になれて嬉しいですわ。」




ステラマリーはそんな様子を遠くから見て思った。


聖女とアルディオスは互いに惹かれ合ったのだと。


元気になったアルディオスは、きっと王族へ返り咲く事が出来るだろう。


もう、自分は用済みなのだ。


悲しくて悲しくてたまらない。


こっそりとその場から姿を消した。




毎夜毎夜、自分の墓の上に座って、ぼんやりと空を眺めて過ごす日々。


あれからどの位、過ぎたのであろう。


ステラマリーは思う。


アルディオスに自分は恋をしていたのだ。


「一緒に世界を回りたかった。アルディオス様と共に。」


骸骨には目が無いのに、涙がこぼれる。




「ステラマリー? まったく王家の墓ってどうしてこう広いんだ。探すのに手間取ってしまった。」


そこには元気になったアルディオスが立っていた。


「アルディオス様。」


「ここを出る支度にも手間取ってしまって。助けてくれてありがとう。ステラマリー。

約束だったな。一緒に世界を回ろう。」


「私、死霊ですよ。それに聖女様はどうしたのです?」


「死霊であっても構わない。俺はお前を愛している。それに、聖女様に、恋愛感情はない。命の恩人の一人ではあるが。俺が好きなのはステラマリーだけだ。」


「アルディオス様っ。」


アルディオスに抱き着いた。


愛している愛している愛している。


「どこまでも連れて行ってくれませんか。」


「ああ…行こう。どこまでも。」



死霊のステラマリーを連れて、王族を抜けたアルディオスは、旅をすることになった。


旅の目的地はまずは、マディニア王国。


噂で聞いた事があるが、魔族がそこには人間と共に存在していて、魔族の不思議な力で、ステラマリーは人間のように生活出来るかもしれない。

そんな希望を胸に、アルディオスと共にステラマリーは旅立った。


空には月がぽっかり浮かんでいるけれども、ステラマリーは幸せだった。

いつか、アルディオスと共に青空が見られたらいい…そう、心に思うのであった。


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