スーパー漁夫の利?
鎧が欲しいから力づくで奪えって……戦うのならともかく、無防備じゃん。でも、私が鎧を外すのって……なんかR15では済まなくなるよね。たぶん。下になにも着けていないって言っていたから。
さらにはキュッと目を閉じる女勇者。いや、目を閉じないで。頬っぺたも赤いのはいったいどうしたというのだ――。
最初の敵兵が城壁を突破してなだれ込んできたその瞬間の出来事だった――。
空から急に声が聞こえた。
「――食らうがいい、禁呪文! 『腹の中アニサキスでお腹一杯!』」
「誰だ!」
太陽が眩しくて姿が見えない。……見えないのだが、おおよそ誰なのかは分かるよねえ。なぜこの危機的状況を察知したのかこそ知りたい。たぶん、部屋に入った時に発信機をこっそり付けられたのか、盗撮魔法ドロドローンでずっと見られていたかのどちらかだろう……。
……お陰で助かったと礼を言いたい。いいところに来てくれた。
敵兵の動きは突如急変した。
「うおー! おっ? お、お、お腹痛い~!」
「イデデデデ! 昼になに食ったっけ」
「駄目だ、トイレだトイレだ!」
「俺は洋式しか無理なんだ~!」
「いや、これはトイレの痛さじゃないぞ」
「ウケル―」
ウケルな。
「これは戦っている場合じゃない~! 撤退だ、撤退!」
「お腹痛いよ、お母ちゃん~!」
城壁の内側に入った兵士は、また城壁を登って逃げていった。よく腹が痛いまま登れたものだと感心してしまうぞ。
千人の敵兵が……敗走していった。みんなお腹を抑えながら。
「や、やったわ!」
ハイジャンプして喜ぶ女勇者は……何もしていない。とは言わない。やれやれだ。だが助かったのは事実だ。敵兵千人は……命を落とさずに済んだのだ。
一週間くらいは腹痛や嘔吐してのたうち回るだろうが……命あっての物だネ。
「ハッハッハ、俺が禁呪文で全員追っ払ってやったぞ」
ふわりと空から舞い降りたのは、やはりソーサラモナーだった。埃っぽいローブが広がるのが今日だけは格好よく見えた。
魔法の詠唱って……やっぱり必要なのだと改めて感じさせられた。女勇者がソーサラモナーにお礼を言う。これも、禁呪文を詠唱したのがソーサラモナーだと分かったからこそ礼が言えるのだ。
「ありがとう! あなたは、えーと」
こっちを向くな、こっちを!
「魔王軍四天王、聡明のソーサラモナーだ。安心するがいい、私の仲間だ」
こういう時だけ頼りになる。
「ありがとう、ソーサラモナー……さん」
「フッ、なんのこれくらい朝飯前さ」
そういってソーサラモナーの手を取り握手をする女勇者に……なんだろう、胸にチクチクする痛みが走った。
――女勇者と見つめ合うソーサラモナーに、胸がチクチクして苦しくなった。ひょっとして……心筋梗塞の前触れか――。いや違う。これは……。
――本来私が手に入れる筈だった女子用鎧が遠のいてしまった強い怒りと憤りだ――。
はあ~。また次の作戦を考えねばならない。あと一歩のところだったのに……まいるわ。もう少しソーサラモナーが来るのが遅れていれば……あわよくば鎧を手に入れていたかもしれないのになあ。
「――だが、私は諦めた訳ではない。いつか必ず、『女子用鎧、胸小さめ』を手に入れてやる。心を鬼にしてでも。覚えておくがいい」
「そういうのはせめて本人がいる前で言うべきぞよ」
「……御意」
玉座に座る魔王様に叱られてしまった。
すでに魔王城に引き上げてきた後であった。玉座の間でいつものように魔王様の前に跪き今日一日の反省会を行っている。
日は西に沈み赤く染まっている。今日も……無駄な一日だった。
「人間同士の戦いなど、放っておくべきでした」
人間は戦いを好む生き物なのです。さらには、戦いにより技術の進歩を疑わぬ後先考えられぬ生き物なのです。プンプン。
「この星のすべては予の物ぞよ。それは人ひとり、虫けら一匹でさえ例外ではない」
「御意」
はいはい。すべては魔王様のものでございます。プンプン。
「さすれば、ナメクジならいいかって、やっぱり酷くない?」
――!
「……。いったい何のお話をされているのでございましょうか」
魔王様の話についていけてない。足がカクカク震える。ずっと跪いているから。
「卿が言ったではないか。カタツムリは可哀想でもナメクジならいいかと」
たしかに言った。第二話でそう言った。ナメクジって害虫だから……。
「ですが、それとこれとは話が……」
「同じぞよ。魔族の敵が人間だとしても、その人間同士が戦うことに関心を持てぬような狭い心では、魔王になどなれぬのだ」
「狭い……心」
たしかに私は魔王様のように寛大ではいられない。戦いを沈めるような無限の魔力もない。あるのは白金の剣と敵をねじ伏せる力だけだ。
今日はソーサラモナーに美味しいところを全部持っていかれて、くやぴー。心が狭いと思われるかもしれません。
「ですが――魔王様」
「なんだ」
「魔王様は、アリの行列を見つけたとき、その渋滞を解消してあげたいとお考えになりますか」
「アリの行列が渋滞とな」
「はい」
私は……ならない。
――アリの行列には石とかを置いて邪魔したい派だ――。心の奥底に眠るのは――、
――ざまあだ――!
「デュラハンはやっぱり……鬼」
「……」
魔王軍四天王なのです。鬼と呼ばれても構いませぬ――。
「高速道路を通行止めにするのと同じぞよ」
「……冷や汗が出ます」
「さらには、渋滞の先頭って、ないのだぞよ」
「――!」
さすがは魔王様だ。
……おっしゃっていることが……サッパリ分からん。
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