人間同士の争い
「これまで友好関係を続けてきた隣国が突然攻め込んできたのよ」
バルコニーの外で女勇者が指さす先には……砂埃とうごめく大軍が見えた。
これは……人間同士の争いの始まりか。
「せっかく魔族との戦いがなくなったのに、まさか人同士が戦うことになるなんて……」
深刻な表情を見せる女勇者。人間界には魔王様のようにすべてを統制できる強力な支配者などいないのだろう。ここの国王もかなりの年寄りだ。
「愚かだな。人間同士が戦って死ぬなど、我ら魔族には関係のないこと」
むしろ敵同士が戦うのだから好都合だ。
「そう言うと……思っていたわ」
「嘘つけ。助けてデュラハンと顔に書いてあるぞ」
「図星」
図星って言わない方がいいぞ。勇者の名が泣くぞ。冷や汗が垂れているぞ。
女勇者側の兵力はたったの百人。対する敵兵力は千人。もうすぐそこまで押し寄せている。
絶体絶命ではないか。さっさと白旗を振りなはれと言いたいぞ。無駄な犠牲者が出る前に。
女勇者が傷つく前に――!
「わたしの力では解決できないの。お願い、力を貸して。豊かな城下町が戦場になってしまう」
城下町が戦場になれば、宿屋のお姉さんも……店のシャッターを閉めないといけないだろうなあ。窓ガラスとか割れるだろうなあ。千人だからなあ……泊るところもないだろうなあ。
「力で解決しようとするではない。剣で戦いを収めることなどできないのだ」
私が白金の剣を抜けば……話は別なのだが。
「白金はプラチナなのだ。剣の材質としてはともかく、プラチナは希少価値が極めて高いのだ」
「ひょっとして、自慢」
「自慢ではない。自慢ではないが、たまには剣を抜くデュラハンをみんな見たいかなあと……」
これがアピールだ。サービス精神とも言う。
――だがこれは人間同士の争い。人間が解決しなければ意味がない。戦いは繰り返されるばかりだろう。
首突っ込むと面倒くさいことになりかねない……。言えないけど。
「剣で解決できないならどうするのよ。ひょとして……あー! 魔法の力に頼るのね」
「でも、あんた魔法が使えないでしょ」と顔に書いてあるのが腹立たしいぞ。
「違う。剣ではなく……鎧の力を使うのだ」
「鎧の……力」
女勇者は自分の着ている鎧を見る。露出が少なく見るものをガッカリさせるような胸小さめの鎧なのだが――そこがいいのだ。
「さよう。女勇者が身に付けている『女子用鎧、胸小さめ』を今すぐ私に差し出すがよい。さすれば魔王様を言いくるめてなんとかして貰えるように進言しようではないか」
作戦名、「スーパー漁夫の利!」または「虎の威を借りるゴン狐!」 俺って頭EEEEE!
「……」
「悪い話ではあるまい」
考え込んでいる時間はないのだぞ。刻一刻と敵は近付いてきているのだぞ。城の城壁など千人で攻めてこられれば簡単に突破されるのだぞ。肩車肩車肩車肩車とかで……。脱臼しそうだぞ。
「この鎧の下は……何も着ていないわ」
――! いや、驚かなくてもよい。女勇者のいつもの手口だ。魔王軍四天王の一人、宵闇のデュラハンにそう何度も同じ手は通用しない。
「安心するがいい。今日は白のTシャツLLサイズを持参してきた」
「え、Tシャツ?」
「さよう。さらに私には顔が無いから何も見えない。誰も見ていない。着替えるなら今だ」
Tシャツ一枚の姿になり人気をすべてかっさらわれるのは致し方無いが、明日の勝利のために今日の敗北に耐えるのだ――。
女勇者が葛藤している。目が左に右に泳いでいたり顎に手を当てたり首を斜めに傾けたり……。仕草は可愛い。頬も赤い。
「だが、早くするのだ。時間は刻一刻と迫っているぞ」
もう敵兵の一番最前列が城壁を登ろうとしているぞ。
「……やっぱり、それは出来ないわ。これでもわたしは勇者。一番大切な物を奪われてまで魔族に頼るわけには……いかない」
「……うん。うん?」
ちゃんと鎧と言って欲しいぞ。大切な物ではぐらかさないでほしいぞ。
「そんなエッチい気分に誘うような誘惑に……わたしは負けない! わたしの体はわたしの物だ!」
誘っとらん~!
「勘違いするな。お前の体はお前の物だ。だが、鎧を私に差し出して! って作戦だ」
「嘘をつくな!」
「誰も嘘などついていない! ……卑劣な作戦と少々自負しているが、嘘はついていない!」
――その気になれば「究極奥義、デュラハン・ブレッド」で千人程度の敵兵など一掃できる――。
「私は紳士な騎士なのだ。嘘は言わぬ。鎧をくれたら助けてあげるよと優しく取引をしているのだ。これこそWin-Winだよ」
優しそうな笑顔を必死で作る。首から上が無いのが残念だが。
「そんなに鎧が欲しいなら……今すぐ力づくで奪ってみろ! さあ!」
「――!」
女勇者が両手を大の字にして真剣な眼差しでこっちを見るのだが……。
……どうしたらいいのだ。え、っていうか、なんだこの展開は。誰か説明して欲しいぞ。
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