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魔王様、魔法の詠唱ってなんなん


「なぜだ!」

 いつものように魔王様のお声が広い玉座の間に響き渡る。

「いつものようにではない! 『なんなん?』ってえ、なんなん! 最近図に乗り過ぎだぞよデュラハン! 卿はたかが四天王。予は魔王軍全軍を率いる魔王ぞよ」

 魔王様の美しいお声が耳を左から右へと爽やかな五月のそよ風のように吹き抜ける。左から右、右から左……右往左往とはちょっと違う。方向性が違う。


 絢爛豪華な玉座に座られし魔王様の前で私は一人跪きお答えする。

「申し訳ございません。言葉足らずでございました」

 テヘペロにございます。

「テヘペロは敬語ではない。オノマトペだ」

 違うだろう。

 魔王様は玉座より優雅に立ち上がられると、私に背を向けて述べられた。

「勘違いしてはならぬ」

 緊迫した空気が張り詰める。大理石の床は五月なのにまだひんやり冷たい――。

「予は、主人公かつセンターぞよ」

 ――!

「主人公はともかく、センターはおやめください」

 住民センターでございますか。意味不明です。さらに主人公は誰がどう見ても……言わないけれど。


 ブツブツお呟きながら魔王様はまた玉座に座った。一日中ずっと座っているとエコノミークラス症候群になるらしいから、たまに立ったり座ったりされるのだ。せめて窓際まで歩いて下さいと進言したい。でも言わない。

 言うと絶対にしないから……。


「魔王様にお伺いしたいのです。魔王様をはじめとする大勢の魔法使いや召喚士などなどは、なぜ故に魔法を唱えるとき、必ずブツクサ詠唱をするのでございますか」

 意味不明でございます。イミフでございます。

「などなどとかブツクサとかって、ちょっと魔法使いを敵に回すと思わん?」

「思わん」

 私にとって魔法使いなど、敵ではございません。

「……」

「小さい頃、国語の宿題で声を出して教科書を読んでいたら、『うるさいから声に出さないで。心の中で読みなさい』と母親によく叱られました」

 スイミーとか。タンスにゴンギツネとか。

「……」

「歌っていても叱られました」

 いっつも歌っているのでうるさいそうです……。

「駄目なの? 予が魔法を詠唱したら迷惑なの? 開き直るけれども予は魔王ぞよ。それほど声も大きくないから耳障りでもなかろう。自分で言うのもなんだが、美声ぞよ」

 たしかに自分では言わないでほしい。

「声は迷惑ではございません」

 魔王様の場合、唱える魔法こそが迷惑です。とは言わない。言えない。

 言わないけど分かってほしい。遠回りにすっごく迷惑なのに気付いてほしい。


「魔法が使えないので声に出す必要性が分からないのです。魔法って声に出さないと本当に使えないのですか」

 ちょっとくらい出るんじゃないですか。

「プププ」

「笑わないでください。逆にお反感をお買いになりますよ」

 私は首から上が無い全身金属製鎧の騎士なので魔法は一切使えない。だが、魔法が使えないのは私だけではない。魔法が使えない魔族や人間はたくさんいる。

 それに……読者も作者も……恐らく一人たりとも魔法について分かっていません。分かっているフリをしているだけです。

 冷や汗が出る。剣と魔法の世界なのに、その半分を知らない。


「本当は詠唱なんかしなくても魔法が使えるのでしょ。この前も魔王様は魔法の詠唱をせずに瞬間移動(テレポーテーション)を使い、すっ飛んで逃げたではございませんか」

 あれは早かった。一瞬だった。心の中で唱えるよりも早かった。反射神経並みの早さだった。

「逃げたのではない! びっくりしたから安全な場所へと咄嗟に避難したのだ」

 パンッと玉座の肘掛けを叩く。

「ご自分だけ?」

 私は置いてけぼりを食らったのだ。チビリそうなくらい怖かったのは内緒だ。

「魔王を守るのは四天王の使命ではなかったか!」

「――仰せのままに」

 そうだった。四天王とはいえ私は魔王様の忠実なる(しもべ)なのだ。……下僕ともいう。魔王様の代わりにいつでも身を投じる覚悟はできているのだ。

 ……完全に忘れとった。


「詠唱をしなくても魔法が使えるのでございましたら、わざわざ声に出して詠唱しない方がよいかと考え致すところでございます」

「なんで! ホワイナット!」

 ホワイナットって……なに? じゃなくて、なぜ?

「ご説明させていただきます。魔法の詠唱をもし敵に聞かれれば、何の魔法を使うのかがバレてしまうではありませんか」

 「落ちろ雷よ!」とか、「ビリビリクラッシュ~!」とか自分で言ってしまえば、敵は避けようとします。

「なるほど。卿の言う事も一理ある」

「あーざす。でも……まあ、雷は秒速数万キロメートルの早さですから避けようがないでしょうが」

 詠唱を聞かれても避けられるはずがない。

「雷の魔法は簡単に避けられるぞよ。『避雷針!』とか『凧揚げ!』とかで」

「物理的回避方法――!」

 避雷針はともかく、雷に凧揚げ――! それって避けられるの? むしろ直撃するのでは……。

「デュラハンが凧を揚げれば問題はなし!」

「……たしかに、私は魔法が使えない代わりに魔法は効かないのですが……」

 全身金属製鎧だからビリっとくるぞ。さらには身代わりのようで……辛い。


「それに、予は卑怯者にはなれぬのだ」

「卑怯者……にございますか?」


 御冗談を。


「御冗談をって、どういうこと? それってちょっと酷くない」

「酷くない!」

「――!」

 怒られたチワワのような丸い目をする魔王様。素敵だ。

「魔王様はご立派な卑怯者でございます。もっと自信を持って下さい! そこだけは魔王様の名に恥じていません!」

 本音にございます! 本心でございます! 卑怯者でございます! 魔王様でございます!

「……褒められたと思っておくぞよ」

 誰も褒めてない。謙遜しないで頂きたい。


読んでいただきありがとうございます!


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よろしければ魔王様シリーズを読んでみてください!
『魔王様シリーズ』
 
― 新着の感想 ―
[一言] デュラハンさん、前に魔王様からひとりでサッサと逃げられた恨みが随所にー!(笑) これはどうなるのか楽しみです!
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