「ドヤ顔(公式)」
・「ドヤ顔(公式)」
キャッチャーのサインは1打席目で打たれた「フロントドアのスライダー」を再度要求していた。
相手打者が、目の前にいる投手をどのように見ているか。
1打席目で打たれた球を、コースを2打席目で続けられるようなメンタル、実力を有しているルーキーだと、投手だと評価しているのか?
もっとはっきりいえば同じ球を2度続けられるような投手ではないと舐められているだろうか?
・・・舐められていて当然だ。
先ほど打つほうで目立った活躍を見せたといっても、先頭打者にさっそくホームランを打たれたルーキーだ。
1順目を9者凡退に抑えた投手だって、2順目から滅多打ちなんて光景は普通に起きうる。
ましてや、前の打席でホームランを打った球界を代表するバッターと、打たれたルーキー。
だから舐められていて当然だ。
だからこそ、メジャーで渡り合ったほどのベテランキャッチャーのリードは、1打席目で打たれた「フロントドアのスライダー」を選択していた。
だからこそ、僕は首を振ることもなく、平常心で1打席目と同じ球を同じコースに投げ込んだ。
・・・そして相手打者は、
「大きいぞ、しかし引っ張りすぎたか、ポール際でギリギリファールです。」
迷うことなく振り切ってきた。
振り切りすぎたのか、ファールになってくれた。
僕は、ひやひやするでもなく、安堵するでもなく、何か嬉しかった。
キャッチャーは苦笑いしているけれど。
「2球目はバックドア(外角のボールゾーンからストライクゾーンに入る)のシュート、見逃して2ストライク。」
「少しでもずれたらボールと判定されていただろう、ここしかないところに放り込んできましたね、ホームランだけでなく本職のピッチングでも少なくともコントロールは化け物ルーキーだ。」
さて追い込んだ。
追い込んだけど、3球目はスライダーもシュートも、ましてや110kmのストレートでは打たれる気配しかしねえ・・・
これは僕の実力というより、相手打者が凄すぎるからだろう、何といっても翌年はアメリカでプレーしているような実力者だ。
正直7点リードでホームランを打たれても、試合の展開だけでいえばさしてダメージは無い。
でもこの打席は抑えたい。
2打席連続で打たれるなんて悔しすぎるなんていう気持ちもあるけど、何より初球を思い切り振り抜かれた時点で、振り抜いてくれた時点で、この打席は抑えたい。
キャッチャーのリードに首を振った。
もう1回首を振った。
さらに次も首を振った。
目の前の先輩はまたも苦笑いを浮かべている。
・・・3回のキャッチャーからのサインは正直ちゃんと見ていない。
最初から首を振ると決めていた。
「ルーキー、オープン戦ではせっかく隠し切ったんだ、出来るだけ決め球達は温存しておきたい。」
「とは言っても、俺としても勝負どころでは容赦なく切り札を切っていきたい。」
「さらには相手に出来るだけ悟られない形で披露したい、俺がタイムをとって相談しに行くなんて光景を直前に見せたりせずにな。」
「だから、合図を決めておこう、最初は(3回連続で首を振ったら)にしようか、それを合図におまえの切り札達の中から1つ使わせてもらう。」
「とは言ったものの、この場面で切っちゃうのかよ、俺も1打席目で打たせてしまった負い目があるから特別だぞ、2度目以降はちゃんと適切な場面で使っていくからな。」
わがままは許してもらったようだ、この試合初めてのサインを要求してもらった。
選ばれた球は、ちょうど今一番投げたい球だった。
理由はなんとなく。
僕がアンダースロースタイルに決めたときから絶対にマスターしたい球がいくつかあった。
その最もたる1球目がこれだ。
理由は簡単、アニオタらしく、アンダースロー投手が投げるのは大変で、でも効果的だと、「大好きな長寿的野球漫画」が教えてくれた球だったからだ。
・・・いや、あの作品のアニメ化は高校野球編の2年生夏までだから、あの球はアニメでは投げていないんだけど。
「か、空振り三振、三球三振、なんと、とてつもない落差のフォークボールだ、当然初めて披露した球種になります。」
「アンダースローであの落差の落ちる球ですか、コントロールまで他の球と同じなら末恐ろしい決め球になりますね、オープン戦では隠すわけだ。」
「さすがにこれを初見では打てねえよ、くそ。」
まあコントロールは他の球に比べて数段落ちるし、空から落ちるほどの球でもないので、なかなか漫画みたいにはいかないわね、これからの課題の一つだ。
名づけるならせいぜい、「屋上フォーク」にとどめておこう。
英語だと「ルーフトップフォーク?」、うん長いから日本語で。
「3回表まで終了して、依然8対1。おっとルーキー、ドヤ顔でマウンドを降りていきます。」




