ライラック王国
俺達は光に包まれた後、激しい耳鳴りと浮遊感に襲われた。
「たかだか喧嘩で閃光弾使うか⁉︎」
俺は丸まり、襲撃に備えながら文句を言う。
…………
あれ?
なんで何もないんだ?
相変わらず耳鳴りが酷い。
恐る恐る周りを確認してみる。
まだチカチカして見にくいが、とりあえず人が近寄って来る気配がない。
「獅子大丈夫か?」
「…………」
背中に気配を感じるが返事がない。
獅子もまだ耳鳴り中だろうか?
まだ目は治っていないが、獅子を援護しようと振り向く。
「…………」
獅子は棒立ちで俺のすぐ後ろに立っていた。
「……獅子?」
「…………」
肩に手を置きながら獅子を呼ぶ。
返事がない。
真っ直ぐ前を向いたまま動かない。
「………?」
俺も目を細めて前方を伺う。
まだぼやけて見にくい。しかし、おかしいのは分かる。
「……暗い?」
時間は正午過ぎだったはず。
快晴だったし、影を落とすような大きな物は無かったと思う。
増える疑問と戦っているうちにだんだんと状態が回復していく。
人が、忙しなく動いているのが分かる。
そしてやたら騒がしい。
「おお!成功したぞ!」
「だが何故2人なのだ⁉︎」
「召喚する勇者様は1人ではないのか⁉︎」
「勇者様が2人も召喚された‼︎」
前方から様々な声が聞こえてくる。
「「「姫様‼︎大丈夫ですか⁉︎」」」
どうやら姫様は倒れてしまっているようだ。
辺りを見渡すと明らかに先ほどの河原には居なかった人達が沢山いる。
勇者やなんや叫んでいるのは変なローブを来た人や、偉そうなデブ。
先ほどの姫様を介抱しているのは甲冑に身を固めた騎士風の人達。
後ろの方ではニヤニヤか歓喜しているのか分からない表情のヒョロっとした人など様々だ。
そして当の俺達は混乱中。
まさにカオスだった。
「……なぁ?獅子?」
「……あぁ」
獅子も俺が言いたい事がわかるかの様に返事を返してきた。
「……俺……ハンバーガー食いそびれちゃった……」
「そこなの⁉︎」
――――――― * ―――――――
それから程なくして見かねたヒョロっとした人が喋りかけてきた。
「よくいらして下さいました。勇者様方。
突然で混乱しているでしょうが、どうか我々の話しを聞いてはくれないでしょうか?」
当然聞かない訳にはいかない。
異世界に召喚され、右も左もわからないのだ。
俺と獅子は互いに顔を見合わせ、頷いた。
勇者やてw
「まず、お話の前に場所を移動したいのですが、よろしいですか?」
俺達は互い頷き、ヒョロさんの後に続いて部屋を出た。
俺達がいた部屋は建物の上の方だった様で、廊下の窓から外が良く見えた。
外の景色は例えるなら中世ヨーロッパを思わせる建物ばかり、マンションなんか見る限りない。
今歩いている廊下もヨーロッパのお城の中みたいだ。
あ、今大きな鳥が空を飛んでるのが見えた。
日本ではまず見ないサイズだ。
やはりガチンコの異世界に来てしまった。
途中で「ステータス」と小さくつぶやいて何も起こらなかったのは秘密だ。
獅子が小さく笑いを堪えていた。
螺旋階段を降り、少し歩いた先の部屋に案内された。
案内された部屋にはいかにも高そうなソファーが対面で置いてあり、真ん中には大きなテーブルがあった。
壁に掛けてある綺麗な花の絵がさらに高級感を引き立てている。
きっと商談用の部屋なのだろう。
「どうぞお座り下さい」
ヒョロさんに促されるまま俺達はソファーに腰掛ける。
今まで感じた事のないような柔らかさがお尻から伝わってくる。
疲れていたら寝てしまいそうだ。
「申し遅れました。私はブロード・コンスマン。このライラック王国で宰相を務めさせて頂いてます。」
宰相…簡単に言えばトップである王様の補佐官である。
国政の相談役だ。
油断できないな…
優しく丁寧に接してくれているが、裏では何を考えているのかわからない。
ましてや、右も左もわからない高校生のガキ2人、手の平で転がすのも訳はないだろう。
少し警戒して相手する事にしよう。
そう考えていたが、とにかく彼は親切でいろいろ教えてくれた。
この世界はオーピュロスと言い、人族、獣人族、エルフ族、魔族の四種族が大陸を統べている事。
ここ、人族の領土を南とするならば、北に魔族、東にエルフ族、そして西に獣人族の領土がある事。
そしてこのライラック王国の事などだ。
ライラック王国は人族の領土の最南端であり、海産物や農作物が主流の財源の国らしく、争いもあまり起こらない比較的平和な国らしい。
さっき見た大きな鳥の様に魔獣もいるらしいのだが、ライラック王国周辺は畑を荒らす比較的安全な魔獣が多いみたいだ。
北に行くにつれて魔獣も強くなっていくらしい。
なんともRPGの始まりの村みたいだ。