第32話(決意)
《ハイ・イート・トレント》から【ダンジョン】内に撤退したイルマ達。
ダンジョン内で今後の選択で悩むイルマ達の話です。
《ハイ・イート・トレント》から撤退したイルマ達は、【ダンジョン】内を慎重に進んでいた。
イルマが進む【ダンジョン】内は、産まれたばかりと《ハイ・イート・トレント》の技能≪魔物誘引≫の影響もあり、魔物の姿があまり見られずで見かけても数体だけなのでイルマ達は問題なく魔物を倒してはスムーズに【ダンジョン】の先を進んでいた。
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そうして【ダンジョン】内を進んでいたイルマ達。
最初は、未知のダンジョンであるが初めてのダンジョン探索ということもあり、危機から一時的に解放された影響で緊張と楽しみの気持ちで探索していた。
が、ダンジョン内の探索に何の問題も起きることがなく、時間が経つにつれて次第に外の様子が気になってきた。
そして、そんな中ダンはイルマにこれからのことについて尋ねた。
同じくメラもシーラも、ダンと同じようにこれからのことが気になっていたのかイルマの方を向き、イルマの答えを待っている状態だ。
しかし、イルマも自分の中で答えが無いこともありその問いに答えることは出来ず、その事でイルマ達は先程までのダンジョン内を進んでた時と比べ暗い空気で歩いていく。
「(これからか………とりあえずは、あの状況を脱出することを優先してたから、正直これからかのことはそれ程考えれていなかったんだよな……)」
イルマはあの撤退後、このままダンジョンがどうなっているのかと、あの《ハイ・イート・トレント》対策を考える為にもこのダンジョンを探索していた。
しかし、このダンジョンが産まれたばかりなことや《ハイ・イート・トレント》の技能のせいでダンジョン内には魔物も殆んどいない。
「(……いっそ、このままダンジョンを攻略するのもアリかな?それとも……)」
ーーーこのままダンジョンにいて、《ハイ・イート・トレント》がいなくなるまでダンジョン内で待つことで、いなくなった隙にポルカ村に逃げ帰るか
ーーーダンジョンを攻略し、《ハイ・イート・トレント》を倒せる何かを手に入れるか
ーーー《ハイ・イート・トレント》を倒せる手段を考え出すか。
「(………どれを選ぶかだな……でも、どれが一番いい考え何なんだ???)」
2つ目と3つ目の手段は不確かな方法だし、だからって1つ目の手段を取るとアイツをほっとくことになるから、村を、母さんや家族の危険に繋がる可能性が高い!そんなことは許せないッ!
なら、選択肢は2つ目か3つ目かになるけど………
……………………………最悪の場合は、捨て身で全ての強化系技能を発動した上で、【雷鳴剣】を使う方法しかないか……
イルマは、最悪の場合を心の中で想定し、一人密かに覚悟をするのだった。
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とりあえずイルマは、最悪の場合のことは秘密にし、今後のことで頭を悩ますが答えが出ない。そして、イルマは歩くメラ達に1度休憩しようと声を掛けてた後、今考えている選択の中で三択のどれがいいのかを伝えて相談した。そのイルマの話を聞いたメラ達は、どの作戦で行くかを休憩しながら話し合うことになった。
「俺は嫌だぜ!逃げて帰るなんて!」
「でも…、何の策もなく、アイツは倒せる相手ではないわよッ!それにダン、今の私達じゃあ正方法で倒すのは無理だわ!」
「なら、このままダンジョンを攻略して倒せる何かを手に入れるか分からないという博打をするのかよっ!」
「そうは言って無いでしょ!……でも、その可能性がゼロって訳じゃないでしょ?だから選択肢として考えてるってことよ。………残念だけど、現状都合良く策も浮かばないし……」
「!────ッ、そんな弱腰じゃネームに《ハイ》が付く高位の魔物なんて倒せねぇぞッ!!」
「そんなこと言われなくてもわかっているわよーッ!」
「ダン!メラ!落ち着いて!仲間割れは、今の状況で一番最悪だよ!……2人とも熱くなり過ぎだ!!」
「「!………ッ」」
そうしてイルマ達は4人でこれからについて話し合っていると、その話し合いの際にダンとメラが揉め始めた。今の状況で仲間割れが一番最悪なこともあり、イルマは急いでそんな熱くなるダンとメラの仲裁に入って2人を宥めた。
そのイルマの仲裁もあり、2人は言い合いを止めるがパーティーの空気が悪くなり沈黙が流れる。
「─────どの選択も選べないなら、全ての選択を選べばいいと思う」
そんな空気の中、突然シーラは別の選択肢を発した。
【逃げ帰るのも駄目】
【ダンジョン攻略アイテムに賭けるのも駄目】
【何か策を都合良く浮かぶのを待つのも駄目】
「どの選択肢も駄目で他の選択肢が浮かばない。なら、今選べる選択肢の全てをやるのが一番いい。"策を考えながらダンジョンを攻略し"、《ハイ・イート・トレント》を倒すのに"有効なアイテムを探して手に入れる"。それでも無理な場合は、"一旦逃げて帰る"。それで、ポルカ村に帰ってから大人にこの事を知らせて皆でアイツを倒すの」
「………全て………選ぶ」
「そう───どれかを選んだりすることに不満や不安なら全てを選べばいい」
シーラはどれかの選択肢を選ぶのに不満や不安があるなら、全ての選択肢を選択してはどうだと提案してきた。
「………そうだね。シーラの言う通りだ。どの選択肢を選んでも不満や不安が有るんだ。それなら今他の選択肢が浮かばないなら今出来る全てのことをしよう」
そのシーラの言葉に、イルマはその通りだとシーラの意見に賛同しては頭の中でどの選択肢にしようかと悩んでいたのが解決した。
そして、シーラの意見に賛同したイルマはメラとダンにも今ある選択肢を全て行おうと提案した。
「………それで駄目な場合は?」
「………そうだぜ。それでも駄目な場合はどうするんだよ?」
「それでも駄目な場合………もし、それでも無理な場合は仕方ないよ。今僕らが出来る、考えれることを全てして駄目ならどうしようもないよ」
「どうしようもないって」
「でも、そうはならないようにするよ?《ハイ・イート・トレント》を倒す"手段"や"アイテム"に"策"を何としても手に入れる。それでも、それでも無理な場合は逃げて誰かが血を流すことになるかもしれないけど、村の皆の力を合わせてアイツを倒して村を守るんだ!」
「誰かが血を流す………」
「そんなの嫌よ!」
「僕も嫌だ!村の誰かが血を流すなんて、考えるのも嫌だ!でも、僕達の力だけでアイツを倒す手段や策にアイテムも無ければそうするしかないよ」
「………うん。私もそうするしかないと思う」
「勿論、そうならないように何かこのダンジョンを攻略するまでに手に入れることが出来れば一番いい。だけどね、ダンが言ったようにそれは博打だ。………だから覚悟するしかない。誰も血を流さず解決出来ないことを」
「………そうね、確かにAランククラスの魔物を倒そうと思えばそれだけの覚悟をしないといけないわね」
「………そうだな。何のリスク無しで倒せる相手じゃないよな。………よし、俺は賛成だ!その選択肢で行こうぜ!」
確かに《ハイ・イート・トレント》程のAランククラスの魔物を倒すには、普通は個人じゃなく、パーティー以上の大人数で徒党を組んで戦いを行う。それでも多数の被害、怪我人や死人を出しながら倒すのが常識だ。
───だからこそ、イルマ達は悩んでは解決策を考えていた。が、今の状況を冷静に考えて自分達が出来ることを全て行い、その結果、それでもどうしようも無ければ此処から何とかして村に逃げて、この事を村の皆に伝えて力を合わせて戦うしかないと覚悟した。それが村の誰かが血を流すことになるかもしれないと理解して。
そして誰も口にしないが、先程の仲間割れが一番最悪とイルマが言ったがそうじゃない。本当に最悪な展開は、イルマ達が全滅しては今の状況を伝えることが出来ず、村がこの事に気付くのが手遅れになることが一番避けないといけないのだ。
それが一番イルマ達だけでなく、村に住んでる皆の命も失うリスクが高いのだから。
だからこそイルマ達は、自分達の力だけでどうしようもない場合は村の誰かの血を流すことになっても仕方ないと覚悟したのであった。
「(皆にはどうしようも無ければ村の誰かが血を流すことになることを覚悟しないといけないって言ったけど、そんなこと僕は嫌だ。勿論、皆が大怪我や死んだりもだ。───────────だからそんなことになれば、僕は内緒にしているガチャや使わないでいる雷鳴剣も使ってでも何とかする!)」
イルマは1人、皆で話し合いをした結果誰かが血を流すことになることを覚悟しないといけないと言ったが、仲間や自分の村の誰かがそうなることを内心では認めることは出来ず、その場合は自分の持てる手を全て使ってでもその結果を回避するんだと決意するのであった。
そして、イルマ1人で決意内容は別として、イルマ達は話し合いの結果、今後の方針を決めた。
イルマ達は、ダンジョン攻略の合間にアイテム探し、策を考え、何も収穫が無ければ一度何とかしてポルカ村に逃げ帰る。そして、この事を村の人間に伝えて皆で力を合わせて《ハイ・イート・トレント》討伐に動くという方針を。
イルマ達はダンジョン攻略に、《ハイ・イート・トレント》の討伐に向けてプランやキーアイテムを求めて本格的に動き出したのだった。
ダンジョンの話は、次回かその次で一旦終わりです。