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盗賊たちよ、世界を救え  作者: 瀬川弘毅
2 トリックスター編
8/89

07 三人目の戦士

(注)演出上、今回はほんの少しだけセンシティブなシーンを含みます。

 何だかんだで一、二時間ほど歩き回ったのだが、いまだにそれらしい反応はない。


「疲れたわ。ちょっと休憩しましょう」

「そうだね」


 今度ばかりは、八束も素直に応じた。

 二人は目についた喫茶店に入り、窓際の席に並んで座った。運ばれてきたアイスコーヒーに、ミルクや砂糖を加えてかき混ぜる。冷えた液体を喉へ流し込むと、疲れがとれた気がした。


「二手に分かれて探す方がいいんじゃないかな。その方が効率も上がるし」

「確かに」

 八束の提案に、玲は神妙な表情で頷きかけた。だが思い止まり、ふるふると首を振る。


「んー、やっぱり微妙かも。何だろ、それだと今日待ち合わせた意味がなくなる気がする」

「じゃあ三原さんは、またカップルごっこの続きをやりたいんだ」


 思わずコーヒーを吹き出しそうになってから、玲はむっとして抗議した。

「別に、そういうわけじゃないし」

 そのとき、窓の外から立て続けに聞こえた爆発音に、二人は身を固くした。



 通学鞄を引っ掴み、カフェから飛び出す。

 ただし、彼らは他の客とは違う。逃げるためではなく、戦うために走るのだ。


 飲食店が軒を連ねる通りに、先日と同じ、岩のような肉体をもつ怪人たちが降り立っていた。

 黒く大きな体を揺らし、彼らが動き出す。手当たり次第に建物を破壊し、人々に襲いかかる。

 怪人たちの群れに向かって、八束と玲は疾駆していた。


「またトリックスターか。仲間探しは延期するしかなさそうだね」

「つべこべ言ってないで、さっさと倒すわよ。用意はいい?」

「とっくにできてるよ」

 二人が鞄から武器を取り出し、戦闘に入ろうとする。


 その脇を、円錐形の物体が高速で通り過ぎていった。

 目にも止まらぬ速さで射出されたそれは、一体の怪人の胸を穿ち抜いた。怪人はくぐもった音を発したのち、倒れて静かになった。


「……あんた、何かした?」

「いや、何もしてないけど」

 玲と八束が思わず足を止め、顔を見合わせる。

 元々、彼らの武器は近接戦向きだ。遠距離の敵に対して、有効な攻撃手段は持たないはずである。


「そこまでだ、トリックスター」

 逃げ惑う人の流れに逆らい、それを縫うようにして、一人の青年が姿を現す。


 緑色のブレザーと青いネクタイは、八束とは違う高校の制服。整髪料でさっと撫でつけた黒髪は、爽やかなスタイルに決まっている。鋭い目つきが印象的だった。


「これ以上、お前たちの好きにはさせない」


 啖呵を切ってみせた彼へと、怪人たちは唸り声を上げて突進していく。

 刹那、青年が右手を掲げる。そこに出現したのは、紺色の円錐形。


 手のひらの上に合計四つのくさびが現れ、瞬時に撃ち出される。弾丸のごとく放たれたくさびは、それぞれ別の獲物を捉えた。

 喉を刺し貫き、腹部を抉り、頭部に深く突き刺さる。

 街を襲った悪しき者たちは、瞬く間に殲滅された。八束たちの出る幕はなかった。



「ちょっと、ぼうっと見てる場合じゃないでしょ。行くわよ」

「ああ、ごめん」

 不満そうな玲に手を引かれ、八束は我に返った。青年の戦いぶりがあまりに鮮やかだったため、思わず見入ってしまっていたらしい。


「……で、どこに行くって?」

「もう、馬鹿」

 彼女から「馬鹿」と言われるのは、これで何回目だろう。その度に呆れたような表情をされる。


「さっきの人は私たちと同様、『盗人の七つ道具』に選ばれた戦士に違いないわ。彼を追いかけるのよ」

 そういうことか、と適当に相槌を打って、八束は玲に続いた。


 件の高校生は敵を倒し終えると、すぐに通りを歩いて行ってしまった。

 敵を見ても全く動揺していなかったことを考えると、今までにも戦ったことがあるのかもしれない。だとしたら、頼もしい限りだ。


 こちらも早歩きで追いつこうとする。急に青年が足を止めたのをいいことに、玲は走るペースを上げた。そして、スマイル全開で手を振り、背中に呼びかける。

「ねえ。あんたがさっき使ってた武器、ひょっとして『盗人の七つ道具』ってやつじゃない?」

 

 はたして、彼は何の反応も見せなかった。そのまま左折し、裏路地に入っていく。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 聞こえていなかったのだろうか。慌てて追いかける玲に、八束も続いた。


 だが、出し抜けに玲が立ち止まったので、背中に軽くぶつかってしまう。

「どうしたんだよ。早く後を追って……」

 口を開きかけた八束へ、玲は振り返った。唇に人差し指を当て、「静かにしなさい」とジェスチャーで伝える。


 前方へ視線を向け、八束もようやく状況を把握した。

 さっきの高校生が、同年代の女の子と一緒にいる。邪魔をしてはまずいし、何より「盗人の七つ道具」について知らない部外者を巻き込むのは褒められたことではない。


 怯えた様子の彼女は、玲よりも少し背が低く、大人しそうな印象を受けた。茶色がかった髪をボブカットにした、綺麗な目をした女の子だった。



「もう大丈夫だぞ。敵は全員、俺が倒してきた」

「本当に? すごいね」

 青年が笑顔で語りかけると、ボブカットの彼女はぱっと顔を輝かせた。


「大したことはないさ。奴らが弱すぎただけだ」

 自信たっぷりに彼は答えた。それから体を屈め、少女へ顔を近づける。


「ダメだよ。外でこんなことするの、恥ずかしいし。誰が見てるか分からないのに」

「うるさいな」

 少女が恥じらうように身をよじる。構わず、青年は強引にその唇を貪った。


「……んっ」

 舌と舌とが絡み合う、濃厚なキス。小柄な少女の体が、快感にビクビクと震えた。

「山下君、ダメだよこんなの。……ん、あっ」

 男の方も、恍惚とした表情を浮かべている。


 どさり、と何かが落ちる音がして、彼らは行為を中断した。唇を離し、ぱっとこちらを向く。

 玲が鞄を取り落とした音だった。


「あ……あの、えっと、邪魔しちゃってごめんなさい」

 耳まで真っ赤になった玲は、口をパクパクさせていた。カップルたちの接吻は、彼女には少々刺激が強すぎたようだ。


 八束はと言えば、我関せずといった風に目を逸らし、見て見ぬふりをしている。


「でも、そういうことに興味があって見てたわけじゃなくて。あたしたちも『盗人の七つ道具』に選ばれた戦士だから、協力して戦いたいなって思って。それで、後をつけさせてもらったんだけど……」


 しどろもどろになりながら言った玲へ、青年が値踏みするような視線を向ける。

「なるほど。詳しい話を聞かせてもらいたいな」

 意外と話の分かる男かもしれない、と八束は思った。


いかがだったでしょうか。

この「後書き」のコーナーで何を書くかは、作家さんによって異なると思います。私の場合、どういう意図でここのシーンを書いたのか等、執筆の裏話的な情報を発信していけたらなと考えています。


仲間同士で青春っぽいことをしたり、ときに対立したりしながら敵と戦うのが「盗賊たちよ、世界を救え」のコンセプトです。

その七人のうち、二人は当初から恋仲です。「彼らにインパクトのある登場をさせたい!」と色々考えた結果辿り着いたのが、いちゃついている現場を主人公たちに目撃される、という展開でした笑


恋愛経験が乏しそうで、八束の一挙一動にドキドキしている玲とは対照的です。

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