05 初勝利とバディ結成
(何だ⁉)
眩しい光が押し寄せてきて、ソリューは反射的に顔を覆った。少女から離れ、辺りを用心深く見回す。
(……新手か?)
目を細め、彼は光の向こうにあるものを見定めようとした。
ずぶり、と鈍い音がして、ソリューは自身の体を見下ろした。
胸部から突き出しているのは、シルバーに輝く鋭利な剣先。
「馬鹿な。この俺が……」
唖然として、ソリューが声を震わせる。彼はまだ何か言おうとしていたが、八束は問答無用で剣を引き抜いた。
胸に空けられた穴から、緑色の血液がどっと溢れ出す。グレーの皮膚に守られた体が崩れ落ち、目の焦点が合わなくなる。
背後から心臓を一突きされ、ソリューは実に呆気ない最期を遂げた。
返り血を制服に浴びてしまい、八束が顔をしかめる。
念を込めると、剣は鍵のかたちへと戻った。
なるほど、こうやって使えば良かったんだなと納得する。多分、所有者自らが「戦いたい」と望まない限り、真の力が引き出されないシステムになっていたのだろう。
勝利の余韻を味わっている場合ではない。八束は急いで少女の元へ駆け寄り、助け起こした。
「大丈夫?」
「何とか生きてる」
何本か骨が折れたかもしれないけどね、と彼女は力なく笑った。腹部を痛そうに押さえているところを見ると、病院へ連れて行く必要がありそうだ。
肩を貸してやり、八束は少女を連れて歩き出した。
「……助けてくれてありがとう。ちょっと見直しちゃったかも」
照れたように、彼女が呟く。
「でも、ずいぶん卑怯な戦い方をするのね。後ろから刺すなんて」
「仕方なかったんだよ」
八束は弁明した。
「正面から挑んでも、皮膚を硬化してガードされるのは目に見えてた。だから、能力を使われる前に不意を突いて倒すしかない。あまり気は進まなかったけど、こういうやり方が一番効率良いんだ」
「なるほどね。一応、筋は通ってるわ。……あれっ?」
小さく頷き、少女は八束から手を離した。不思議そうに自分の体を見下ろしている。
「何でだろ、血が止まってる。骨も折れてないみたい」
「本当に?」
これには八束も驚かされた。だが事実、彼女は健康そのものだった。ちゃんと一人で歩けているし、脳震盪らしき症状も消えている。
(私が与えた武器を持っている間、君たちの身体能力は拡張されている。したがって、治癒能力も通常よりはるかに速く機能するというわけだ)
突然、例の声がした。今回は、八束たちへ二人同時に語りかけているらしい。
(説明が遅くなってすまない。何はともあれ、初戦闘、初勝利お疲れ様)
(けれど、油断はできない。トリックスターは今後も、新たな刺客を送り込んでくることだろう。君たちの使命は、彼らを撃退して地球を守ることだ)
(君たちに与えた武器は、「盗人の七つ道具」と呼ばれる。名称から察したかもしれないが、君たちの他にも五人、合計で七名の戦士が地球に誕生したことになる。……そして私の計算が正しければ、「盗人の七つ道具」は、日本の関東圏にほぼ限定してばらまかれたはずだ)
「ははーん、そういうこと」
少女の目がきらりと光った。
「つまり他の仲間たちを探して、協力してトリックスターをぶっ潰せってことね」
「他の仲間? ……ねえ、ちょっと待ってくれないかな」
彼女は俄然乗り気になっていたが、八束は空気を読まなかった。いかにも迷惑そうな顔をしてみせ、続ける。
「僕は別に、戦士になるって決めたわけじゃない。君を助けたのとこれとは、全く別の問題だ。この妙な鍵も、君に渡しておくよ」
「……い、いらないわよ、こんなもの! ていうか、かぎ爪と剣を同時に使うって無理があるでしょ。あんた、本当に馬鹿じゃないの?」
幸か不幸か、天は八束に味方しなかった。一度首を突っ込んだ以上、運命の歯車は動きを止めない。
頭に血が上ったせいか、セーラー服の少女は顔を赤くし、むっとして叫んだ。
「とにかく! あたしとあんたでコンビを組んで、仲間を探しながら敵を倒す。これで決定だから。戦う力があるのに使わないなんて、あたしは認めない」
「……あー、もう、分かったからさ」
大げさにため息をついて、八束が肩をすくめる。僕の意志はどうでもいいのか、と言い返したかったが、彼女を怒らせるのは得策ではない。
「乗り掛かった舟だ。付き合ってみるよ」
「そういや、あんた名前は?」
「八束継介。君は?」
「あたしは三原玲よ。よろしく」
警察や消防が出動し、大騒ぎになっている街を、二人はそっと抜け出した。
夕日が照らし出すのは、二つのシルエット。影の一つはセミロングの髪を風になびかせ、もう一つは片手に握った鍵束を弄んでいる。
この星の未来を背負った若者たちの戦いが、今ここに幕を開けた。
やっとヒロインの名前が出てきました。
今回で一区切りとなり、トリックスターとの戦いは新たな展開を迎えます。まだ見ぬ五人の仲間との出会いにも注目していただければと思います。
初戦闘において主人公が不意打ちで敵を倒すというのは、インパクトがあったかもしれません。しかし、もしここで八束が覚醒してソリューをボコボコにしてしまうと、彼に大苦戦していた玲の面目が丸つぶれになるわけです。
今作は、七人の戦士がほぼ同等の力を持っていて、チームワークを活かして戦うというコンセプトで書いています。そのため、一人だけ突出した能力を持たせるのはまずいのです。
戦闘力は八束も玲も同じくらいですが、八束が咄嗟に知恵を絞り、きわどいところで勝ったというイメージで書いています。
さて、次回はトリックスターの内情を描きつつ、八束と玲の凸凹コンビのやり取りも面白おかしく描いていきます。明日の更新をお待ち下さい。




