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盗賊たちよ、世界を救え  作者: 瀬川弘毅
1 邂逅編
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04 輝く剣

「お断りよ」

 ソリューの放つ威圧感は凄まじかった。

 しかし、少女は決して屈しなかった。凛とした声音で告げる。

「絶対に渡さない。この武器は、あんたたちと戦うために必要なものなんだから」


「渡した方が身のためだぞ」

 目と口以外にほとんど隆起がなく、のっぺりとした顔。ソリューの眉間に、小さな皺ができた。

「貴様は何も知らない。それは今の人類が所有し、使用するには早すぎるものなのだ」


「……さっきから、訳分かんないことばっかり」

 少女の背から、闘志が立ち昇る。八束は気圧されて、思わず数歩後ずさった。


「そんなにこれが欲しいのなら、あたしを倒して奪ってみせなさい!」

 気合とともに、彼女はアスファルトを蹴り飛ばした。一瞬で間合いを詰め、ソリューの懐へ飛び込む。



「……我が名はソリュー。司るは『硬さ』と『軟らかさ』」


 だが、ソリューは動じなかった。にやりと笑い、呪文めいた言葉を静かに唱える。

 それがどうした、とばかりに、少女がかぎ爪を振るう。鋭い先端部が、ソリューの左肩へ命中した。


 けれども、鋼のごとき強度をもった皮膚は斬撃を受けつけない。難なく攻撃を弾かれ、彼女は束の間、呆然としていた。


「何で……」

「ああ、言い忘れていたな。これが俺の能力だ」


 余裕の表情で、ソリューが気だるそうに肩を回す。

「俺は肉体の硬度を自由に調節できる。その程度の攻撃じゃ、傷一つつかないぜ」


 次の瞬間、怪人の体が沈み込んだ。すかさず放たれたアッパーカットが、少女の顎を正確に捉える。

 無慈悲な殴打は、彼女をビルの外壁へと叩きつけ、縫い止めた。


 一連の動作は、ほんの一瞬のうちに行われていた。

 ごく短い時間だけ硬度を下げ、動作スピードをブースト。すぐに硬度を元に戻し、最大限まで威力を高めた打撃を繰り出す。自分の力を正確に把握しているからこそ、可能な芸当だ。


「くっ……」

 少女は膝を突き、どうにか立ち上がろうとしていた。

 口元から溢れる血を拭い、歯を食いしばる。だが、上手く体のバランスを保てない。


「どうした。脳震盪でも起こしちまったのか?」

 ソリューは歌うように呟き、彼女の方へと歩いて行った。


 八束へは見向きもしない。優先的に倒すべき敵として、みなされていないのだろう。

「もう一度チャンスをやろうか、お嬢ちゃん。大人しく武器を渡しな」


「……嫌、よ」

 かすれた声で、途切れ途切れに返す。華奢な身体は震え、血と汗にまみれていた。


「そうか」

 容赦なく、ソリューがその脇腹を蹴り飛ばす。声にならない悲鳴を上げて、少女は悶えた。


「ならば、貴様を殺して奪い取るまでだ」

 灰色の皮膚に包まれた足が、少女を力任せに踏みつける。

 儚げな絶叫が、街に響いた。


(どうしてだよ)

 圧倒的な力を持つトリックスターの構成員、ソリュー。

 彼を前にしても、彼女は果敢に立ち向かった。最後まで闘志を燃やそうとしていた。


(どうして君は、そんなに真っ直ぐなんだ。何が正しいのか分からないのに、何を信じたらいいかも分からないのに、何で迷わずに戦えるんだよ)


 ソリューが少女にとどめを刺そうとしている、その様子が、八束にはスローモーションのように見えた。

 心臓の鼓動が、だんだんと速くなっていく。


(僕にはまだ、全然分からない。君と僕が何のために戦えばいいのかとか、この武器は何なのかとか、トリックスターが何者なのかとか……本当に、答えが出せないんだ)


(戦え。君が戦うしかないんだ)

 またしても、あの声がした。


(この世界を奴らから救えるのは、君たち選ばれた人間だけだ)


 どうしてだろう。今この瞬間だけは、あれほど疎ましかった声をすんなりと受け入れられた。


 気づけば、八束の手は通学鞄をまさぐっていた。鍵束を取り出し、右手に掴む。


(何もかも分からないし、まだ答えは出てない)

 そして願った。戦う力が欲しいと、強く願った。


(……だけど、これだけは確かだ。あの子を救えなかったら、僕は自分の選択を一生悔いることになる)


 そのとき、鍵のうちの一つが輝きを放ち始めた。


 光の中で、鍵はゆっくりとその形を変えていく。縦に長い形状へと変化し、凹凸だったデザインはよりシャープなものとなる。


 数秒後、八束の手の中には銀色の剣が収まっていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ふむふむ、この時点ではただ戦いから逃げるだけのヘタレという訳ではないですね。本当にダメな奴なら女の子を見捨てて逃げるでしょうしね。 [気になる点] 一度は暗に非難されて、それを申し訳なくも…
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