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盗賊たちよ、世界を救え  作者: 瀬川弘毅
1 邂逅編
3/89

02 侵攻開始

 数日後。

 その日の授業を終えて、八束が帰路に着いていたときだった。どこからか響いてきた声が、大地を震わせる。


『人類へ宣戦布告する』


 八束は最初、耳を疑った。日本へ、ではなく人類へ、と声は確かに告げた。

 街を歩いていた人々は皆足を止め、恐る恐る空を見上げた。


『我々は船団トリックスター。今この瞬間から、地球は我らの侵攻を受けることとなる。間もなくトリックスターの兵士が世界各地へ向かい、破壊活動を行うだろう』


 声の響き方は、あの鍵束から聞こえたものと似ていた。しかし、今空から降り注いでいる男の声は、それよりもずっと悪意に満ちている。


 声が止んだのとほぼ同時に、空に歪みが生じた。

 シュールレアリスムの絵画のようにぐにゃりと歪んだ青空から、無数の影が降り立つ。


 シルエットは人に近いが、体を覆うのは、岩のようにゴツゴツとした黒い皮膚。異形の怪人たちは、赤く細長い目で辺りを見回した。

 音もなくアスファルトへ着地し、彼らが破壊活動を開始する。


 八束はただ、事態を眺めることしかできなかった。


 建物の陰に隠れ、息を殺す。心臓の脈打つリズムが速まるのが分かる。恐怖のあまり、通学鞄を持つ手が震える。

(あの変な声の言うことは、本当だったんだ)


 視界の端では、怪人たちが闊歩していた。

 デコボコして不格好な拳の一撃は、ビルの外壁を容易く砕く。人を何メートルも吹き飛ばし、車を叩き潰す。


 至る所から人間の悲鳴が聞こえる。

 夕暮れの繁華街は、瞬時に殺戮現場へと変わった。


(これで分かっただろう)


 鞄の中から、うっすらと光が漏れている。はっとしてファスナーを開けると、そこには例の鍵束があった。

 家に置いてきたはずなのに、どういうわけか鍵は八束の鞄に収まっていた。


(君が戦うしかないんだ。君が戦わなければ、この星は奴らに支配されてしまう。それでもいいのかい)


「別に構わないさ」

 再三の説得にも応じず、八束は頑なに首を振った。

「この世界がどうなるかなんて、僕には関係ない」


(関係あるさ)


 警察の機動隊が出動した。防弾シールドを構えた集団が怪人たちの前に立ちはだかり、果敢に銃撃を浴びせかける。

 しかし、弾丸を受けてもなお、岩のような皮膚をもつ彼らには傷一つつかない。


 船団トリックスターの有するテクノロジーは、この星のそれの遥か先を行っている。通常の武器で倒すことは不可能に近かった。

 奴らに唯一有効な武器は、謎の声が人類に託した魔道具だけなのだ。


(人は、一人では生きていけない。世界と関わらなければ、人は生きていけないんだ)


「うるさいな」

苛立ったように、八束が声を荒げる。


「僕は戦わない。大体、こんな鍵束でどうやって戦えって言うんだよっ」

 声はまだ何かを語りかけようとしていたが、八束は耳を貸さなかった。無理やり鞄のファスナーを閉め、声を遮断する。


 ほっとしたのも束の間、右方に視線を感じた。

 振り向くと、一体の怪人がこちらを見ている。向かいの通りでテナントビルを破壊していたのを中断し、通りを横切ってずんずん近づいてくる。


(まずい。気づかれたか)

 冷や汗が首筋を伝う。八束が後ずさり、異形の怪人がじりじりと距離を詰めてくる。


 情けないことに、この期に及んでも八束に戦うという選択肢はなかった。否、そもそも戦い方さえも分からなかったのだ。

 彼は恐怖に呑まれ、上手く体を動かすことができなかった。


 十分に間合いが縮まったとき、ついに怪人が地面を蹴り飛ばし、八束へ飛びかかった。思わず、八束が目を閉じる。


 けれども、予想された衝撃や痛みは訪れなかった。

 代わりに聞こえたのは、何か鋭いものが空を切る音。続いて、怪人のものと思われる断末魔の叫び。

 恐る恐る目を開ける。


 八束に背を向ける格好で、一人の少女が立っていた。セーラー服を着ていることから推測するに、中学生か高校生だろう。八束と近い年齢であることが窺えた。


 セミロングの黒髪を風になびかせ、彼女は倒れ伏した怪人を見下ろしていた。

 その両手には、かぎ爪状の武器が装着されている。手甲の上に金属製の爪がついているタイプで、黄金に輝くかぎ爪からは緑色の液体が滴っている。


 おそらく、彼女が敵を屠ったのだ。それも、ほとんど一撃で。


「大丈夫?」

 くるりと振り返り、少女が尋ねる。顔立ちは整っているが、気が強そうな第一印象を受けた。


「ここは危ないから、早く逃げた方がいいわよ」

 それじゃ、と駆け出しかけて、彼女は足を止めた。


「……ちょっと待って。もしかして、あんたも選ばれたの?」

「えっ?」

 少女の視線の先には、微かな光が零れている八束の通学鞄があった。


セーラー服の少女(名前はまだ出てきませんが)も登場しました。今作のヒロインたちは、精神的にも肉体的にも強いです。


なお、プロローグと第一話は少し短めにしましたが、これ以降については今回と同じくらいの分量にするつもりです。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 継介のひねくれた性格 キャラが立ってますねヽ(=´▽`=)ノ
[良い点] ここまで読みました! 人類へ宣戦布告するの一言で、これからどんなことが起こるのかドキドキしました! [一言] Twitterからきました。 また読みにきます! 応援しています!!
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