01 僕は戦わない
『今朝未明、ミッドウェー軍基地を壊滅させた謎の勢力について、現在アメリカ当局が調査を進めています』
ニュースキャスターが読み上げる内容を、八束継介は興味なさそうに聞いていた。
ラップを剥がし、レンジで温めた総菜をテーブルに並べる。
「夕飯に食べてね」と母が作り置きし、冷蔵庫に入れていたものだった。
テレビ画面に映っているのは、地図から消された軍基地。一見すると砂丘か何かに見えるが、建物が全て跡形もなく吹き飛ばされた結果なのだろう。
『専門家は、現代の科学技術ではありえない現象だとコメントしており……』
そこで八束はテレビを消した。いつも通りの一人の食事を、静寂の中で行った。
(くだらないよ)
彼にとっては、アメリカの軍基地が一つ減ろうがどうでもいいことだった。
自室に戻り、勉強机に向かう。
机の上に見慣れない物体があるのに気づき、八束は眉をひそめた。
それは鍵束だった。十種類ほどの鍵が、金属のリングにまとめて結びつけられている。
(何だろう、これ)
ともかく、勉強の妨げになるものは排除するまでだ。八束は鍵をゴミ箱へと、無造作に放り込んだ。
しかし、異変は続いた。
手洗いに立ってから部屋に戻ると、机の上に鍵束があった。先ほどと同じ位置に、同じ向きで置かれていた。
(君、よく聞きなさい)
突然どこからか声がしたので、八束は腰を抜かしそうになった。
(もうすぐ、地球を支配しようと企む侵略者がやってくる。君は戦士に選ばれた。君はこの武器を使い、戦わなくてはならない)
よく聞いてみると、声は鍵束から響いてくるようだった。
「嫌だよ」
しかし、八束の答えは否だった。
「第一、そんな馬鹿げた話を信じる理由がない」
(信じる、信じないは君の勝手だ。けれど、これは事実なんだ。侵略者への対抗手段を持っているのは、戦士として選ばれた者だけなんだよ)
謎の声が響くたびに、鍵束がぼんやりと輝いた。
「勘弁してよ」
うんざりしたように、八束は首を振った。
「僕は今高校三年生で、受験勉強を頑張らなきゃいけない時期なんだ。そんな大切なときに、どうして戦わなくちゃならないんだよ。僕は自分のことで手一杯なんだ」
そして、鍵束を乱暴に払い除けた。
「他を当たってよ。僕よりも暇な人なんて、探せばたくさんいるだろ」
説得を諦めてくれたのだろうか。不思議な声は途切れ、鍵は光を失った。
八束はほっとして、勉強を再開した。
お待たせしました。ようやく主人公が登場しました。
ただ、八束継介は少々ひねくれた人物です。猪突猛進な、いわゆる「主人公」タイプではなく、あれこれと理由をつけて戦うことを拒みます。
今後、彼がどのように成長していくのか、何故彼は歪んでしまったのかに注目していただければと思います。
(追記)挿絵を載せてみました!主人公の八束継介君です