プロローグ:世界の終わり、戦いの始まり
二〇三〇年五月六日、午前三時。
太平洋上空。
「ワープシステム、正常に作動。ステルスシールド、展開」
乗組員たちの声が響く。
高度三千メートルを飛行する巨大な戦艦を、不可視の遮蔽シールドが包んでいく。
「シールド展開に、約二秒のタイムラグ」
直後、爆発音が響き渡った。
凄まじい衝撃に、戦艦が大きく揺さぶられる。
「何事だ」
「アメリカ空軍です。先刻発生した僅かなタイムラグを突かれ、レーダーによる探知及び、対空ミサイルによる迎撃を許しました」
「この時代のアメリカも、そこそこの軍事力を有しているようだな」
艦長と思しき男は、部下の失敗を咎めなかった。何故なら、叱責する必要がなかったからだ。
大破したかに思われた、右側の船尾。そこに空いた穴はみるみるうちに塞がり、黒い艶のある外観を取り戻した。
自動修復機能を有するこの戦艦は、並大抵の攻撃では破壊されない。
同時刻。
その船の甲板に立ち、何やら考え事をしている青年がいた。
金髪に栗色の目をした、背の高い男だ。上等そうなスーツを着こなし、手すりにもたれかかって虚空を見つめている。
次の瞬間、彼方から発射されたミサイルが船体に命中した。戦艦が大きく揺れ、前のめりになった男は、危うく手すりから落下しかけるところだった。
何とかバランスを保ったはいいが、左手に握っていた布袋が手を離れ、宙を舞う。
「おっと」
青年は慌てて手を伸ばしたけれども、紙一重で布袋へ届かない。
真っ逆さまに落ちていく布袋は、その途中で中身を空中に散乱させた。淡い光を放つ何かが、青年の視界から消えて見えなくなる。
「弱ったなあ。大切なものなのに」
しかし、台詞とは裏腹に、彼はどこか楽しそうな表情を浮かべていた。
「損傷は軽微とはいえ、無視できない威力だ。ただちに排除しろ」
「はっ」
ステルスシールドを完全に展開した今、アメリカ空軍がこれ以上追撃してくることはないだろう。
だが、艦長はあくまで報復にこだわった。部下もそれに従った。
「大口径主砲、エネルギー充填。目標を補足。三秒後に発射します」
何故なら、人類に見せつけてやる必要があったからだ。自らの存在と、圧倒的な強さを。