終章 「素人探偵」誕生?①
「――以上が、僕と佐原くんが初めてかかわった、『北大路の大学生変死事件』のすべてや。ちったあ、暇つぶしになるようなモンが書けるんと違う?」
必死になって筆を走らせていた三宅は、浮音の言葉にうつむけていた顔を上げると、トレードマークになっている独特の笑みを浮かべ、特ダネですよ……とつぶやいた。
「それにしても、その後はずいぶんといろんなことがあったよねえ。沢村さんのまとめた記事、かなりの評判だったし……」
有作の言葉に、三宅は額にシャープペンシルのお尻を当て、その時の世間の動きを思い出した。
三間坂千沙に付き添われて出頭した真犯人・土浦伊織の証言によって、北大路の変死事件はようやく解決の日の目を見た。ただ、当初名乗り出た東はそのまま無罪放免、とはいかず、土浦の凶行を見逃した犯罪ほう助のかどを咎められたが、情状酌量の余地あり、ということから、執行猶予付きの比較的軽微な扱いを受けることと相成った。
また、この一件の背後に潜んでいたO大アド研員、ならびにOB陣の悪行を報じた京国大タイムスの記事は市井に一大センセーションを巻き起こし、ついには司法までも動かす事態に発展した。タイムスの記事や、あとを追いかけたマスコミ各社の報道がきっかけとなり、泣き寝入りのままだった大勢の被害者たちが事実を告白する勇気を得、今まで乱行三昧だった学生、卒業生らは退学あるいは懲戒免職、立件の上に賠償命令という三拍子を突きつけられ、O大の九龍城ともいうべきアド研は、ついにその瓦解の時を迎えたのだった――。
が、その最大の功労者である鴨川浮音・佐原有作の名前や、それらしい存在の噂は三宅が情報をつかむまでまるで聞こえてこなかった。無理もない話で、これは世間の注目を浴びるのを嫌がった浮音が牛村警部を通して表彰を辞退し、手柄をすべて瑞月たちタイムスの編集部員へ譲ったためであった。
「案外、鴨川さんって欲がないんですね。わたしだったら、名誉欲から堂々と名乗り出ちゃいそうですけど」
三宅の言葉に、浮音は普通はそうやろうな、と言いながらケラケラ笑う。
「なにせ、関西の名門たる鴨川の一族は、無私無欲の高潔な家柄やからなあ。その倅として、あくまでも家訓にのっとったまでや」
「ああ、なるほど……」
嘘か真かわからない浮音の言葉を流すと、三宅はそんなたわ言も丁寧に手帳へまとめていたが、ふと手を止めると、神妙な目つきでもって、まじまじと二人の顔をのぞき込むのだった。
「――あら、じゃあそうなると、いったいどこで鴨川さんの名前、世間に売れだしたのかしら。うちの学校の事件を解決した時には、好事家の間じゃとっくに知れてる名前だったし……」
「おやおや、なんのことやらさっぱり……」
だが、そらとぼけながらロングピースへ火を点ける浮音に対し、三宅は追及の手をゆるめなかった。
「タイムスほどじゃないにしろ、わたしだって学校新聞の記者、ブン屋のはしくれですからね。隠し立てすると痛い目見ますよ、鴨川さん……」
浮音はしばらく、切りそろえた前髪の下で愉快に動く、三宅の双眸と眉毛を観察していたが、膝を打つと、しゃあないなあ、と言いながらも、浮音はことのいきさつを三宅に打ち明けるのだった。




