第67話 なぜ彼女を助けてやらなかった
こんにちは魂夢です。昨日誕生日でした~。また一つ歳を取ってしまった……。
話は変わりますが、一,二週間ほど休載させていただきます。理由はスランプでございます。70話ほどから著しく文章の質が落ちてまして、修正の時間を頂きたいのです。
ドリョコメを読んでくださっている皆様には申し訳ないのですが、読者に対し半端な文章は見せられません。
しばしお待ちください。必ず戻ってきます。
「ノー勉なのにテストで点数を取って、友達だっている。単純な嫉妬心だけど、だから僕は君が嫌い」
濁った瞳なのに、口だけはいつもの爽やかな笑みを貼り付けている。そのアンバランスさが不気味さを増していた。
「でも、そうならなんで田中は助けなかった」
「……田中も嫌いだからさ。彼は本当の自分を認めてもらえる環境があった。でも僕には無かった」
そんな柳を見ながら、一つ考える。俺が嫌いだから田中を助けなかったのはわかる、そして田中も嫌いだから助けなかった。でもだとするならば──。
──なぜ扶桑花を助けてやらなかった。
この際俺のことなんてどうでもいい。俺が自分で選んだ結果だ。それが不正解だったとしても、解は解である。でも、扶桑花が犯されそうになる必要は……何にもなかっただろ……!
「なら……扶桑花が手を出される必要はなかっただろ」
怒りを込めてそう言うも、柳は何も言わなかった。今だけは彼も笑みを消して、ただ足を前に動かしながら喧噪にその身を沈ませて、沈黙する。
「……知らなかったんだ」
黙っていたのは一分ほどだったが、その一分はこの世で一番長い一分に感じられた。至る所で交わされる会話のせいで発生する振動が、いたずらに空気を弄ぶ。
「気付いた時に、キツく言ったよ。僕だって、麗良は守りたい……」
彼は悔しそうに歯を食いしばって、言う。その表情からは本気で悔しいのだろうということが伝わってくる。
ふっと、俺の胸の奥の奥で考えが湧き上がる。その考えは俺が実行するには愚かすぎて、かと言って実行しなければ後悔した。いや、しようがしなかろうが、きっと後悔するだろう。
「悪いと思ってるなら……」
俺の中の一人がこれ以上言葉を紡ぐなと警鐘を鳴らす。そしてそれと同時に、言ってしまえともう一人の俺が叫ぶ。……俺は、流れに身を任せる。
「……扶桑花と付き合ってやれよ」
そう言った。その瞬間俺の聴覚が消え失せて、音のない空間に突き落とされたような感覚があった。しかしすぐに音は戻ってくる。
柳はギョッと目をまん丸にして、俺を見た。なんだか心の奥、底無しの深淵を覗かれているような気がして、肩が徐々に硬直していくような圧迫感があった。それでも俺は柳から目を逸らさず、刺すような視線を送る。
「…………告白、知ってるんだね。でも、なんでそんなこと言うの?」
「扶桑花が……不憫だったからな」
噓だ。真っ赤な噓。でも今はそれでよかった。今答えを見つけようとしてしまえば、俺は……。
「君は……。麗良のことが好きなの?」
言い終えるより少し前に波が動いて、柳は前に進む。対照的に俺はその場に取り残されて、後ろの奴に押されるようにして歩みを進めた。
柳は、まるで俺の心を見透かしているかのように俺の瞳を覗く。口元は笑っていても、その目には真剣さが混じっていて、俺は息を飲んだ。そして、歯を食いしばる。
俺の使える手札は二枚、それは本当のこと言うことと、噓をつくこと。違うと言い張って、扶桑花を友達として救ってやりたいだけだと言うことだ。……きっと、それを言っても彼は何も言わないだろう。ただ爽やかに笑って、そうかと一言口にするだけだと思う。
それでも……なんだか噓は言いたくなかった。扶桑花に対する恋愛感情を汚しているみたいで……嫌だ。皐月の時はこんなことは思わなかったはずなのに、何故だろう。……皐月との恋愛が、最初から穢れたものだとわかっていたからだろうか。
結局あの時、俺は皐月の性欲処理に使われていただけだった。それを知っても、俺は恋心故に彼女に求められればそのまま体を重ねてしまっていた。それに俺は普段の皐月をよく知らずにいたのだ。遠くから見ていたけれど、明確な友達から、恋人になった訳ではなくて、彼女の印象は最初から恋人だった。