第64話 答えられずともきっと答えは決まっている
こんにちは魂夢です。まだ梅雨ってどーゆーことですかね??異常気象???
恋綺檄に二度目の告白を断ってから数週間。不思議にも俺と彼女との関係性というのは変わらなかった。いつもの恋綺檄にいつもの俺、この心地良い距離感は今まで通りだ。
机と机とをくっつけて、親友の木原 鶴城は自分の弁当箱を包む布を解き、カパっと蓋を開く。
「そんで? 話って何よ」
彼はウインナーを口の中に放り込んで、そう言った。あれ、今食べたのはソーセージか? それともフランクフルト? どれだよ……。
「俺はさ……」
鶴城から目を逸らすように弁当に目を向けると、背後の蛍光灯が弁当と机に俺の影を落としているのが見える。
「扶桑花が、好きなんだ」
意を決して、震える肩を抑えてそう言い、鶴城の瞳に目を向けた。
「ふーん」
いかにも興味が無いという様子で、鶴城はから揚げをご飯の上に乗せてガッと大口で食べる。
「興味ねぇのかよ」
「薄々気付いてたしな。なーに、告白して爆発してくりゃいいだろ」
いやいや……。と俺は脱力気味に首を左右に振って、ようやく弁当の蓋を開けられた。
「……真面目な話か」
もう既に弁当を食べ終えた鶴城がキリッとした真剣な瞳になって、俺の目を覗き込む。俺はゾクリとしながらも、重々しくコクリと頷いた。
「よーしわかった。この鶴城さまに任せておけ。今まで何人の女を食ってきたと思ってる。一二三四…………ゼロだったわ」
鶴城の小芝居には目もやらず、俺は卵焼きを口に運んだ。
「無視すんなって……。で、扶桑花が好きなのの何が問題なん?」
「……俺は扶桑花が好きだ。でもそれと同じくらいぼっち部も大事なんだ」
言い終えると、鶴城は眉をひそめて頭上にはてなマークを出す。俺は周りをチラチラと確認してから、できる限り声を抑えて言う。
「……この間扶桑花が柳に告白してるのを見ちやったんだよ。どんな顔をして会えば言いのかわからないし、何食わない顔で一緒にいるのは耐えられない」
弁当箱を片付けながら、鶴城は黙って聞いてくれた。
「返事は?」
「ノーだった」
「うわぁ……三角関係ってこーゆーののことを言うのか?」
鶴城は片手で頭を抑えて、軽いため息を漏らす。
「とりあえず、お前はどうしたい?」
問われて、ようやく考える。俺は扶桑花が好きで、扶桑花は柳が好き。それは構わない。俺は扶桑花と付き合おうなんて傲慢な考えは持っていない。
俺はこの間の扶桑花の顔を思い浮かべる。下を向いて、虚ろな瞳でいる扶桑花だった。そんな彼女を見ているのは、どうにも心が痛くて、いつもの扶桑花に戻って欲しいのだ。
「扶桑花の暗い表情はもう見たくない」
結論だった。扶桑花がいつものように明るい表情を見せられるようになったとき、俺はもう一度ぼっち部に顔を出せるかもしれない。
「ならよ」
少しばかり目を細めて、いくつかトーンを落として鶴城は続けた。
「お前のやるべきことは扶桑花の重荷を取り除くことだ。そうすりゃ、少なからず前の扶桑花に戻るだろうよ」
ぶっきらぼうにそう言って、彼はお茶を飲む。それを見ながら、少しだけ、されど真剣に考えてみる。
扶桑花の重荷は、柳側の理由は不明ではあるが、彼と付き合えないことだろう。であるならば、扶桑花の重荷を取り除くというのはすなわち……。
……扶桑花と柳をくっつけるということになるのだ。
方法は置いておいて、彼女と彼を付き合うように手引きをすれば、今まで通りになりはするだろう。柳の人間関係が変化する可能性はあるが、少なくとも扶桑花にとっては喜ばしいことで、きっとまた笑顔の彼女が見られるはず。
────でも……俺は、扶桑花が好きなのだ。
これは言った本人も理解していたのだろう。鶴城は苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべて、視線を床に落とした。
「でも荻野は、扶桑花のことが好きなんだろ。本当にそれでいいのか?」
その問いかけに、俺は答えられなかった。