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第62話 彼は彼女のことが……好き

こんにちは魂夢です。タイトル責めすぎましたかね??バレちゃう?

 恋綺檄が恋綺檄になりに出した答え、それこそが今のこの状況であるのだろう。彼女は目尻に涙を溜めて、泣くのを必死に堪えながら、スカートの裾を握り締め、俺の返事を待っている。


 俺はたぶん柳みたいに眉をひそめていたと思う。すこし、困ってしまったのだ。怒ってる彼女、喜ぶ彼女、たくさんの彼女を見てきた。だがこんな彼女は見たことが無かった。


 でも困ったおかげで答えが出た。告白をされて、困るということは、もう既に心の中で答えは決まっているのだろう。恋綺檄のことは好きだ。けれど、付き合おうとは残念ながら思えなかった。


「俺は……恋綺檄とは付き合えない」


 もし、俺が今優しさとして彼女の告白を受け取ったとしたら、それはきっと彼女の本気の気持ちに対して不誠実で、不正解だ。好きだと言ってくれている相手にそんなひどいことはできない。断るのならせめて、彼女の覚悟に対してだけは誠実でいようと思うのだ。


 恋綺檄は俺の言葉を噛み締めるようにゆっくりコックリと頷いた。


「……うん」


 言い終えるよりも前に、恋綺檄は感情を漏らすように音もなく涙を流す。洟をすする音は雨が窓を叩く音でほとんど聞こえず、ただ静かに、声を出さず細かく肩を震わせて、目の前の少女は泣いていた。


 俺がその様子を目を逸らすことなく見つめていると、不意に恋綺檄は口を微かに開く。


「理由だけ……教えてくれる?」


 震える声を必死に抑え、嗚咽混じりに彼女が絞り出した言葉はこうだった。彼女はきっとその場で崩れ落ちるくらい悲しいはずなのに、笑顔を見せてくれる。俺に心配をかけさせまいという考えなのだと、今まで彼女と過ごした時間が教えてくれた。


 俺はコクコクと頷いて、湿度の高い空気で肺の空気を入れ替えて声帯を震わせる。


「俺は……」


 彼女の告白を断る理由なんて、本当は無いのかもしれない。優しくて、人のために涙を流すことができるのが彼女だった。そんな彼女を俺は好いている。でもそれは恋愛的なものでは無い。


 俺が答えを探している間、俺と恋綺檄はずっと見つめ合っていた。ビー玉のような綺麗な瞳が、俺の顔を淡く反射させている。


 色々答えを探して、考えていた。けれどその瞳を見ていると、その全てが一つだけを残して吹き飛んでしまう。


 その残った一つの答えとは────。


「俺は、扶桑花のことが好きだ」


 恋綺檄と同じ時間、いやそれ以上に俺は扶桑花とも時間を共にしている。けれど彼女を恋愛対象として意識はしていなかったのに、口から飛び出した言葉はこうだった。


 でも、心の中でもう一度扶桑花のことが好きだと復唱すると、まるでパズルの最後のピースがハマったときのような、言い表せない納得感が確かにある。


「……そっか」


 恋綺檄は俺にその小さな背を向けて、雨の吹き荒れる窓の外を見た。鼻を鳴らして、彼女は涙を袖でゴシゴシと拭う。


 雨と風が窓を強く叩き、その度にガタガタと窓が空気を震わせ、雨のせいで湿度が高く、肌に張り付くような気さえする教室の中で、少女が目の前で一人むせび泣いているのを見るのは、どうにも心が痛い。


「……なぁ」


 俺が声をかけると、恋綺檄は動きをピタリとやめて、言葉を待った。


「なんで……俺のことをそんなに好いてくれるんだ」


 初めて出会った時から俺のことを好きだと思っていたのなら、いつから、どうして好きになったのかが疑問でならなかったのだ。


「……えへへ、そうだよね。それも話さなきゃ」


 俺に背を向けたまま、彼女は窓の外を見ながら笑う。けれどその声はどことなく憂いを帯びていて、無理をして笑う恋綺檄は見ていられなかった。


 やがて俺の方に彼女は向き直る。目は腫れたままであったが、彼女の瞳には芯が再び現れていた。

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