第6話 彼らと彼女らの愛の喜劇を始めよう
こんにちは魂夢です。さっきから10~30分おきに投稿してますが、もうそろそろ前書きのネタ無くなってきました……。
ぼっち部の部室は理科室や家庭科室同様に、二対二で対面する形の椅子配置の机が六つある感じで、その一番窓辺に彼女はいた。
「紹介しよう。彼女はぼっち部の部員、扶桑花 麗良だ」
小原先生がそう発言すると、扶桑花は座ったまま、すーっと顔だけを動かしてこちらを見やった。
「ほ、本当に連れてきたのか……」
言って、ポカーンとしてる扶桑花にでかい声で、うん! と頷く恋綺檄。
え、なになに。俺が来ること知らなかったの? お呼びじゃない系?
「俺帰った方がいい……?」
「いや、良いんだ。すまない」
座っていた扶桑花がガタッと立ち上がって、俺を止める。
「私は扶桑花 麗良。お前は?」
ゆっくりとこっちに近づいてきて、彼女は俺に訊いてくる。
「松葉 荻野だ」
吸い込まれそうな深紅の瞳を見ながら、俺は自らの名前を口にする。
扶桑花はまぁ座れというような感じで俺たちに座るように促した。
俺と恋綺檄は流されるように椅子に腰掛けると、小原先生はしれっといなくなっているのがわかった。
わりとガチで忍者説提唱するわ。
「それで、ここは何をする部活なんだ?」
「えっ、恋綺檄からは何も聞いていないのか?」
お互いにえ? っとなって、恋綺檄に目を向けると、彼女はばつが悪そうに後頭部に手を当て、愛想笑いを浮かべていた。
「いや~、ちょっとだけ説明したけど、詳しくは……」
しょぼーんとして、恋綺檄が俯くと、扶桑花は一つため息を吐いた。
「わかった。一から説明しようか」
黒茶色の短髪を揺らし、俺の目をじっと見つめながら、扶桑花は話を始めた。
「ぼっち部というのはだな? 友達を作るために人と関わりを持つ部活だ」
フムフムと俺は頷く。扶桑花は机に肘をつき、若干前のめりになりながら話を続ける。
「私は中学の三年間をこの部で過ごしたんだが、みんな引退してしまってな。私一人では部として成り立たなかったから、恋綺檄に頼んでみたら……松葉、お前が来たわけだ」
そう言って、扶桑花は花が咲くようにフっと頬笑む。その笑顔は、彼女の後ろから光が差しているからかはわからないが、ひどく美しく感じた。
まぁ美しくは感じたけど、そんな下らない理由で俺はぼっち部に入れられたのか? と思って、恋綺檄を見た。
彼女はそっぽを向いて鳴りもしない口笛をひゅーひゅーとやっていた。
「お前なぁ……」
「だ、だって! 困ってる人をほっとけないでしょお!?」
ガバッと振り返って、彼女は開き直る。俺はそれに呆れて、頭を抱えて大きなため息を一つついた。
クスクスと笑い声が聞こえて、声の主を見やると、扶桑花は口元にそっと手を当て、目を細めて笑っていた。
「恋綺檄は優しいんだな」
放った言葉は、なんともないものだ。けれど、その口調はどこか寂しげで、彼女の目はどこか遠くを見つめていた。
てか扶桑花に対して優しいだけで、俺にとっては優しくないよね? むしろ酷い扱いだよね??
と思うも、俺の胸に一つの疑問がふっと湧き上がる。
「なんか、あったのか?」
少し気になって、俺は恐る恐る聞いてみると、扶桑花は俺と目を合わせ、なんどかパチクリと瞬きをした。
そして彼女の口からあっという声が漏れ、目を一瞬だけ泳がせる。
「いや、別に、なんでもない。そんなことより恋綺檄、なんで松葉をこの部活に?」
恋綺檄はうーんと顎に人差し指を当て少し考えた後、なんとなく? と言った。
いやなんとなくって……。恋綺檄のなんとなくのせいで俺は部活に入らなきゃいけなくなったの? どこの自分勝手な神様?
「まぁ、なんでもいいがな」
笑いが混じった柔らかな声で、彼女は言った。そして俺の目をじっと見つめる。
「これからよろしくな、松葉」
その言葉に俺は一呼吸置いてから、よろしくと一言だけ返した。
○
こうして出会った俺と彼女だったが、今思えばこの出会いがあったから真のエンドに辿り着いたように思う。
さぁ、今この場所から、俺と彼女らだけのラブコメを始めよう。
笑えるような出来事だけが続くともわからない、ストレスで吐きそうにすらなるかもしれない、愛の喜劇を。
今、このぼっち部という場所から始めようではないか。
努力嫌いな俺のラブコメを。