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第54話 不意に彼のスマホが震えた

こんにちは魂夢です。今日一話を見返してたんですが、文書力ですぅ……。

 十二月の半ば。俺は休日を有意義に過ごそうと借りてきたDVDをプレイヤーの隣に積み上げていた。


 今日は……、そうだな。最高のコメディ俳優、ジムキャリー主演のマスクでも見てようかな。


 なんだかんだ見たことが無かったし、ジムキャリーを一気に大スターへと押し上げた作品だ。見て損は無いだろう。


 鼻歌交じりに俺がDVDをセットしていると、不意にスマホが震えたのを感じて手に取った。


 LINEの通知欄には『今すぐ』の文字。チャットを開いてみると、どうやらここから数駅隣の駅まで来て欲しいようだ。


 ……俺はスマホを切ってもう一度DVDプレイヤーに向き合う。ぶるっとまたスマホが震えて、通知欄を見てみれば『既読無視するな』だと。


「はぁ……」


 ため息を一つだけついて、俺は起き上がった。



「遅い」


 呼び出した張本人である皐月に出会って、最初に投げてきた言葉はそんなものだった。てか、急に呼んでおいてその言い草はないだろ……。


「まぁいいよ。とりあえず行こ」

「行くってどこに?」


 ここ、そう言って指を指した先にあるのはとある飲食店。しかも焼き肉の店だ。


 いやおい待て、俺は今持ち合わせがあると言えば噓になる状況だぞ……?

 と思ったが、現実は残酷である。隣の皐月はその焼き肉店の自動ドアを抜けて入っていってしまった。


 店員と適当なやりとりをした後、俺たちは個室へと案内され、二人して席に着く。


「で、なんで俺をここに呼んだんだ」

「一人で食べるのは嫌だから」


 メニューに目を落としたまま、皐月は吐き捨てるようにそう言った。こういう所は相変わらずだ。


 仕方が無いし、俺もメニューを手に取って、食べたいものを探してみよう。

 少しして、皐月は店員を呼び自分の注文を済ませると、俺にも注文を促してくる。


 俺も注文して数分後、以外にもすぐに肉は到着して俺たちは七輪の上に肉を寝かせた。


 それまで何も話さなかったのだが、彼女は突然口を開く。


「……最近どう?」

「どうって、なにが」


 唐突に投げかけられた質問に、俺は質問で返した。たぶんジョジョの吉良吉影や、ホルマジオとか、マウンテン・ティムが聞けばぶち切れるだろう。


「ほら、最近の調子とか」

「……別に、前と変わらない」


 言って、俺は肉をひっくり返す。その様子を皐月は瞳が鋭くして見ながら、さらに質問を重ねてくる。


「でも前とは別人」

「……そーでもねぇよ」


 彼女の言う前とは俺が中学二年生だったときの話だ。あれから早くも二年が経過している。そしね二年もあれば人間は大きく変わってしまうのだ。


「昔はもっと純粋な瞳だった」


 俺の目をじっと見つめる皐月。俺はどうにも怖くなって、そっと目を逸らす。なんだか負けたような気分だ。


「それは……俺がバカだったからだ」


 俺が言うと、皐月は首を横に振って続ける。


「違う、絶対何かあったでしょ」

「…………何が言いたい? まさかこんな話をするために俺を呼んだのか?」


 俺が短いが窮屈な沈黙の後にそう言うと、彼女は口を閉じた。


「肉、焦げるぞ」


 俺が取り皿に肉を移して頬張ると、皐月も同じようにして口に放り込んだ。



「美味しかった」


 すっかり暗くなった空を見上げて言う皐月の小さな背中を俺は見つめていた。

 なんだか、さっきの会話は俺を助けてくれようとしたような気がして、でも差し出された手を俺は掴めなかったと、俺は思う。


 それがすごく悔しくて、俺は歯を食いしばる。そうしたら悔しく無くなるわけでもないが、俺にはそれしかできない。


「それなら良かった」


 俺は皐月に向かって頬笑む。でもきっとその笑みはひどく不自然で、醜いだろう。


「じゃあね」


 醜い俺の笑顔とは真反対の、輝いているような笑顔で皐月はそう口にし、帰路に就く。そして数歩だけ歩くと彼女は俯いた。


「……ワタシは、あの頃の荻野"が"好きだったよ」


 言い終わるなり、皐月は早歩きで行ってしまう。まだ走れば、手を伸ばせば、彼女に触れられる。


 けれど、追いかけるべきか俺にはわからなかった。

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