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第50話 彼は彼と彼女らのぼっち部を守りたい

こんにちは魂夢です。なんと今回、50話を達成できました!!

達成できたのは何もかも見てくれている皆様のおかげです!

ありがとうございます!!!!!

 俺が大倉(おおくら)から殺されかけてから、パッタリと、大倉から俺へのイジメは無くなっていた。

 そして俺が危惧していた標的が第三者に移ったりということも、調べた限り無いらしい。


 なぜかはわからない。大倉から扶桑花(ふそうか)へ標的が移ることはあっても、無くなるなんてありえるのだろうか。


 正直、このまま何も無ければいいんだけどな……。フラグか。



 今日はぼっち部が無かった。理由としては扶桑花が今日は吹奏楽部のお疲れ様会的ななにからしい。

 少し遅いような気もするが、スケジュール調整に手間取ったと考えれば十分にありえる。


 俺は帰りのホームルームが終わった教室の中で、人を待っていた。俺の古くからの親友、木原 鶴城(きはら つるぎ)だ。

 本当は今日すぐに帰れる予定だったのに、サッカー部の顧問に病院だから休むという旨を伝えに行ったっきり、数十分帰ってこない。


 いや、さっき一回帰ってきて「誰かサッカー部の顧問見てない!?」って汗だくで訊きに来ていたか。


 俺は小説を読みながら鶴城を待っていた。だが、周りの喧噪がうるさくてちっとも小説に集中できない。


 俺は本に栞を挟んで、当たりを軽く見渡してみる。残っているのは帰宅部の暇な奴、俺と同じように人を待ってる奴。そして……吹奏楽部。


 …………ん? 吹奏楽の奴らが何でここに? お疲れ様会に行っているはずじゃ? いや、ここにいるのはお疲れ様会に行く予定の無い奴……なのか?


 全身の穴という穴から変な汁が溢れ出てくる。と同時に、俺はとある人物を探す。だが、どうやらこの教室にはいないようだ。


 ゆっくりと、俺は立ち上がる。視線の先にはここに残っている吹奏楽部の女子たち。


「なぁ、突然すまん。今日吹奏楽部の部員たちでお疲れ様会的なのやるって聞いたんだが、知ってるか?」


 部員の女子たちは、いきなり声をかけられたことに驚き、なんやこいつキモって顔をする。


 いや俺だって別に話しかけたくて話しかけてるわけじゃねぇんだよ……。そんな顔しないでくれ……。


「……私たちは、何も聞いてないけど?」


 ムカついているのか、語気を強めに俺に言葉を返した。ちょっと話しかけただけでそんな嫌がらなくても。と少し思ったが、正直今はそんなことはどうだっていい。


「松葉ぁ!」


 ガタガタっと無駄にうるさいドアが開かれて、声をかけてきたのは鶴城だ。


「大丈夫になった、帰ろうぜ」

「……すまん、先に帰っててくれるか」


 俺の言葉に驚いたのだろう、鶴城は頭の上にハテナを浮かべている。


「はぁ? なん──」

「頼む」


 真剣な雰囲気であることに気付いてくれて、彼は渋々という顔で深く頷く。

 その優しさが、今はすごくありがたい。適度に空気を読むということに関して、彼の右に出る者を俺はまだ知らない。


「じゃあ明日は帰ろうな」

「ああ、すまん」


 言うなり、俺は教室を飛び出した。行き先はわからない。何がしたいかも、そして何を恐れているかもわからない。


 けれど、俺の体は俺の指令無しに動いたのだった。



 これは仮定だ。いや、もはや妄想と呼ぶべきかもしれない。

 だけれど、大倉が手を引いたことと、扶桑花が俺に噓を言ったこと。この二つに何らかの繋がりがあるとしか俺は思えなかった。


 もし、あの二人の間で何かがあったら? もし、大倉に扶桑花がイジメを受けていて、それを俺に隠していたら?

 扶桑花は強がりな少女だ。飲めないクセにブラックコーヒーを飲もうとしたり、かっこつけてみたり。


 そんな彼女が、いじめられていたとして、それを俺や恋綺檄に言ってくれるだろうか。……おそらく隠すだろう。


 そう思えば思うほど、体中から汗が噴き出して、俺は恐怖した。彼女らを守るためにした行動が、逆に彼女らを傷付けようとしているのか。


 俺が最初に向かったのは下駄箱だった。扶桑花の靴の有無を確認したかったのだ。


 やはり、と言うべきか。扶桑花の靴はまだ下駄箱に入っている。残念ながら、俺の妄想は確信へと姿を変えてしまう。


 そして、俺はまた校舎へ戻った。



 数十分ほど、俺は校舎を駆けずり回った。けれど、彼女の姿は見られない。それどころか、俺の中でふつふつと湧き上がる質問が、首を絞めるようにして、少しずつ、されど着実に俺を苦しめていた。


 “今の俺の行動は、努力では無いのか”と、自分の中の松葉荻野が、一歩引いた場所で俺を見ながら囁くのだ。


 でも、それを考えることはしてはいけないと直感でわかる。今それを考えてしまえば、足が止まってしまうかもしれないから。


 努力をすることは愚かだと思う、けれど、扶桑花を守らないことは愚かを通り越して悪だ。


「ふぅ……ふぅ……」


 俺は額の汗を拭って、また走り出す。

 どこを探しても、彼女は見当たらない。ならばどこにいるというというのか。


 考えろ。もし俺が大倉なら、どこに扶桑花を連れ込む? 人気の無い場所だ。

 じゃあ、人気の無い場所で、且つ、人が来る可能性の低い場所……。


「っ……!」


 電流が流れるかのように、俺は気付く。使われていない部室なら、本校舎から離れているから先生が来ずらいのはもちろん、階層によっては部員も来ない。


 俺は向きを変え、そっちへ一直線に走った。



 ────人を殴った。何年ぶりだろうか。波打つ肉、殴った時の手応え、それらすべてが“懐かしい”と思った。


 だが失敗といえば失敗だ。アゴを狙えば一発でノックアウトできたかも知れないが、今となっては後の祭りだった。


 大倉は半裸の扶桑花から手を離し、彼女は部室の隅へ。

 大倉は、突然殴られたことと、その衝撃に一瞬ふらつき、やがてファイティングポーズを取る。


「……舐めやがって」


 俺もファイティングポーズを取って、彼のパンチをかわす。なんの技術も無いただの殴りだった。


 さっきはカッとなって普通に顔面を殴り飛ばしたが、人間の顔は骨の塊だから場合によっては指が折れる。

 だから空手ではバラ手と呼ぶのだが、手を開き、甲で殴る。


 俺の指が目に入って、大倉は目をギュッと瞑ってから、目をかっ開いた。


「てめぇ!」


 俺の胸ぐらを掴む大倉に対して、俺は側頭部の髪の毛を掴んでねじることで対応する。

 だが、大倉は逆に顔を近づけて俺に頭突き。視界に雷が走って、目がチカチカとした。けれど、それを少し我慢して、アゴに掌底を放つ。


 ガチンっと口が勢い良く閉じられ、大倉の脳味噌が揺れるのを感じる。そして、彼はそのまま床に伏した。


「ふぅ……ふぅ……。出て行け今すぐ」

「……ヒーロー気取りか」

「あぁ?」


 俺が聞き返すと、どういうわけか、彼は口から笑みを零すのがわかる。

 それがどうにも腹が立って、俺は大倉の襟首を掴む。筋肉隆々な彼の体は重かったが、引きずって外に出し、扉を閉めた。


 二度と入って来られないよう、鍵を閉めて、部屋の隅っこで縮こまってる扶桑花へ体を向ける。

 そして同時に、失敗したと思った。ヤられる寸前だったのに、ドアを閉めて鍵をかけたら彼女がさっきのことを思いだしてしまうのでは無いだろうか。


「えっと……」


 ワイシャツを引っ張って必死に胸を隠す彼女に、俺はとりあえずブレザーを差し出すと、彼女はそれを受け取って、上から羽織った。


「臭いとか、大丈夫か」


 扶桑花が頷いたことを確認してから、俺は彼女に目を向けないようにしながら手頃な椅子に座る。どうにも居心地が悪い。


「強いんだな……」

「あぁいや、昔ちょっと格闘技をな」


 本当に昔だ、遠い昔。俺が何かを恐れ、何かにつけて努力をしていた。


 今思えば愚かだと思うが、その時に格闘技をやっていたことがあるのだ。


 まぁそれも無駄だった。どれだけ練習しようと、どれだけ努力しようと、才能のない者に努力は不必要であり、無駄である。いやむしろ害悪であると言えるかもしれない。


 そりゃ普通の人よりはできるようになるだろう。けれどそれは井の中の蛙に過ぎないのだ。下ばかり見ていては、どうやったって上に上がれはしないのだから。


 俺が自分の声に反応するように深く頷くと、扶桑花は掠れた声を出す。


「……どうして。私を助けたんだ……?」


 扶桑花の言葉は俺に疑問という名の刃物を突き立てる。どうして、と訊かれて俺は気付く。なんで、俺は扶桑花を助けたのか。自分でもわかっていないことに。


 俺が黙り込むと、彼女は鼻をすんと鳴らして話を続ける。


「私は……松葉を巻き込んでしまった。田中を助けるなら、イジメを受けるべきは私なんだ」


 今一度思い出してみることにする。俺はなぜ田中を助けたのか。

 それは柳津々慈の関係性を保ち、ひいてはぼっち部の関係性を守るため。だからこれは俺のためだ。彼女が気に病む必要なんかない。


「……俺は、自分のために田中を助けたんだ。だから扶桑花は気にしなくていい」

「……じゃあ……さっき私を助けたのも自分ためなのか……?」


 俺は何も言えず、またもや黙り込んでしまう。俺が扶桑花を助けたのはなぜなのか。彼女が好きだから? 傲慢(ごうまん)にも彼女に庇護欲をかき立てられたから? いや違う。


 きっとぼっち部の関係性を保つためだ。辱められていることを隠しながら関係続けることはできないという俺の考えに基づいて、彼女を守ることでぼっち部を守ろうとした。


「俺たちのぼっち部(居場所)を、守りたかったから……」


 俺の考えは、俺の気持ちは、扶桑花に届いたのだろうか。でもそれは俺の知り得るところではない。


「なら……」


 鼻声で話す彼女の口が、言葉を紡ぐ。


「……お前にとって、ぼっち部(居場所)とはなんだ」


 崖から落とされたようだった。“俺にとってぼっち部(居場所)とはなんだ”と、過去俺は自分に問うた。

 しかし俺は、そこから目を逸らして、忘れたふりをして、心の奥底にしまい込んで、結局答えを出していない。


 今、強制的に答えを出さなくてはいけない状況に俺はいる。それが喜ばしいことかはわからない。けれど、もし彼女に直接問われなければ、きっと俺は一生答えを出さなかっただろう。


 俺はアゴに手を当てて、考える。でも、考える必要は無いと少ししてから気付く。


 今訊かれているのは俺の気持ちだ。俺がぼっち部に対する評価や気持ちを、彼女は訊いてきている。


 気持ちに、理論や理屈は必要ないだろう。もし、理論や理屈で気持ちを表明してもきっとそれは自分に噓をついた気持ちだ、欺瞞に満ちた気持ちだ。


 なら、俺のぼっち部への気持ちはなんだ。もしくは、ぼっち部で過ごした日々への気持ち。


 楽しい日々だった、もちろん辛いことだってたくさんある。でもそれを差し引いてもぼっち部での日々は楽しかったと断言できる。


 楽しい日々を、俺はどうしたい? 守りたい。なぜ守りたい? 失いたくないから。じゃあなぜ失いたくない?


 質問に質問を重ね、ようやく俺は言うべき言葉を、答えを導き出せた。

 俺はカラカラに乾いた口を開く。


「……大事な物。かけがえのない物だ」


 俺の気持ちをそのまま、なんの論理性も考えずに吐露したら、俺の答えはこれだった。


 守りたいのは大事だから、失いたくないのは、手放せばもう二度と取り戻せないから。

 これが俺の気持ち、これが俺の答え。


「……そうか」


 重々しく呟かれた扶桑花の言葉は、俺にのしかかる。でも噓は言っていない。


「兎に角、俺は俺のためにイジメを受け入れたんだ。……だから、そんなに気に病むな」


 精一杯気にしないで欲しいという気持ちを込めて、俺は扶桑花に言葉を投げかける。

 そしてその言葉は彼女に届いてくれたのが、わかる。扶桑花は涙を裾で拭って、鼻を鳴らした。


「……ほんと、すまなかった」

「あーもう、それも気にするな。もう済んだことだ」


 珍しく扶桑花は弱々しかった。そりゃあんなことがあったのだ。弱々しくもなるだろう。でも、それだけでは無いように俺には思えた。


 まさか、彼女は俺が田中を助けたあの日からずっと自分を責めていたのだろうか。

 私がいじめられるべきだと、ずっと、この数ヶ月間、思い続けていたのだろうか。


 俺は珍しく後悔した。あの時、自分の気持ちをしっかり伝えていれば、彼女はこんなことをしなかったのでは無いか。

 俺があの時扶桑花を信用しきれなかったから、彼女に対して誠実で無かったから。


 ……でも、ここで俺が自分を責めるのは違う気がする。論理的な理由は無い。しかし感覚でわかる。

 自分を責めすぎず、次に活かす。俺がするべき事はこれだ。責めることじゃない。


「とりあえず、もう外は暗い。送っていくから、もう帰らないか」


 胸を見ないように扶桑花に目を向ければ、彼女はこくんと頷いて立ち上がり、鼻を大きく鳴らしていつものキリッとした表情になる。

 しかし、目は少し赤くて、さっきまで泣いていたことはすぐわかった。


「……服は大丈夫だ。ロッカーにジャージがある」


 俺は微笑を浮かべて、頷く。なんでか、心が晴れているようだった。


 もちろん大倉が扶桑花にやったことは許されることでは無い。そこには憤りを感じているが、自分の感情を吐いたのはなぜか心地良かった。


 おそらく自分が理解されたような気がしているのだろう。きっと人は人を完全に理解することなんてできないとは知っているけれど、今は何も考えたくない。


「それじゃ、行こうか」


 言って、扶桑花は俺の手を取って、歩き出す。彼女の白くて細い指は、力を入れれば折れてしまいそうで、でも力強くて。


 俺は慌てて、扶桑花に言葉になっていない言葉を言う。


「え、ちょっと」

「すまない、今だけは……お願いだ」


 前を向く扶桑花の表情は伺えなかったが、それは彼女なりの照れ隠しではないのかと思うことにした。


 そうじゃないと、彼女に惚れてしまいそうだから。

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