第49話 彼女は罪滅ぼしを決意する
こんにちは、魂夢です。お久しぶりです!!私はピンピンしております!!
今回は、おそらく初の扶桑花視点になっております。
◇
松葉は、優しい男だ。自分にとってまったく関係ないはずの田中を助けて、自分がイジメの標的にされてしまったのに、それに関して誰も責めなかった。
いや、責めてくれなかったと言うべきか。
イジメの件で最も悪いのは私だ。本当なら、私は松葉の代わりにいじめられるべきだろう。
でも結局、私はいじめられず、一人高みの見物をしている。絶対に攻撃されない位置から、当事者ですらないと言える位置から。可哀想だ、私が悪い、私がいじめられるべきだと抜かしているのだ。
……いじめられる勇気も、覚悟も、無いというのに。
そして、彼がぼっち部を抜けたいと言った時も、私は自分勝手な行いをした。
自分の都合で彼を引き留めようとして、彼の邪魔をした。今まで私は多くのお願いを聞いてもらったくせにまだ欲しがるのかと考えると、胸が苦しくなる。
悪いのは私だ。全部、何もかも。
松葉がぼっち部を抜けようとしたのだってそう。彼は私に期待してくれていたのだ。それを裏切ったから、彼は抜けようとした。
松葉は優しいから、勝手に期待して、勝手に失望した自分が気持ち悪いからと、そう言ってくれた。けど、きっと本当は期待を裏切った私が悪い。
むしろ、私を悪者にしてくれ。そうじゃないと……。彼の優しさで、私が壊れてしまう。
だから、私は彼の優しさという沼にズブズブと入り込んで、抜け出せなくなる前に、決算をしようと決心した。
やるべきこと、やらなくちゃならないこと。その全てをやる。
彼に甘えすぎた自分への罪滅ぼしとして……。
○
冬の風が窓を叩いて、ガタガタと震わせる。風と一緒に乾ききった落ち葉や紅葉も飛んできて窓に当たり、そしてまたどこかへと飛ばされていた。
天気は曇りで、今にも雨が降りそうだ。灰色の石みたいな雲が、空を覆い尽くして、太陽を隠している。
そんな悪天候の中、私は本校舎から部活棟へ続く人気の無い廊下を歩いていた。そこは暖房が着いていない、寒さで凍え死にそうになる道だ。
普通だったらきっと私の足はすくんで、上手く歩けていないだろう。しかし、私の足は意識せずとも目的地へと絶えず動いている。まるで別の生物のようだ。
でもそれは……、私が彼のところに行って、なにをされるかなんてもう見当が付いていて、その覚悟も出来ている証拠であると思おう。
寒さの厳しい廊下を通って、私は今は使われていない教室の前に立つ。
ここに来て、私は少しだけ怖じ気づいていた。
けれど、ここで逃げるわけにはいかない。自分の尻拭いは自分でやる、自分の罪は自分で償う、それは当たり前のことだ。
私は意を決して、使われていない教室の埃まみれの扉に手をかける。震える手を動かして、酷く重い扉を勢い良く開く。
そこには大倉が一人でそこにいた。そして、彼は私を見るなり口元を歪ませ、ニヤリと笑う。そして、私をそばまで手招きした。
「麗良ちゃん。約束通りに来てくれて嬉しいよ」
ニヤニヤと笑みを浮かべたままの大倉が、私に触れようとするから、私はその手を避けた。
「いいのか? 松葉がどうなっても」
「……先に、約束してくれ」
大倉はつまらなさそうに笑みを消した。いいから早くやらせろよ、言うように不機嫌な顔をする。
「……わ、私はどうなってもいい。だから……」
「はいはい、松葉には手を出さねぇよ」
両手を挙げて、彼はそう言う。そして、いきなり私の手をグッと掴んだ。
「やっ……!」
わかってはいた。けれどやっぱり反射的に、体が勝手に、拒否反応を示す。触られたくない、汚されたくない、そう叫ぶ体に私は仕方の無いことだと、必死に言い聞かせる。
でも、私の体は拒もうと掴まれている腕に力を入れるが、バスケ部に所属する大倉の力の方が圧倒的に強い。
抵抗を続けていると、突然大倉の顔が私の顔に近づく。直感的にキスされるとわかる。そして、それだけは絶対に嫌だと、私は顔を背ける。
回り込んで再度キスを交わそうとする大倉。それをまた私は背けて回避した。
「ちっ、キスが嫌なら」
大倉はもう片方の腕で私の胸のボタンを引っ張って飛ばす。ジャラジャラとボタンが辺りに散乱した。
「や、やっ──」
「これ以上抵抗を続けるなら松葉がどうなるかわかってんのか」
その言葉が耳に入り込んだ瞬間、私は動きをピタリとやめる。自分でも驚くほどに、私の体はすんなりと止まってくれた。
「それでいいんだよ」
下卑た笑みを浮かべ、私のブラをものすごい力で引きちぎる。
ギュッと瞼を閉じて、私は耐えようとする。きっともうお嫁になんて行けない。でも、松葉がイジメを受けるのは私のせいであってはダメだ。
大倉の唇が再度近づいてくる。けれど、私はもう抵抗しようとは不思議にもしなかった。
私の視界を大倉の顔が覆い尽くして、私は再び目を伏せる。
「あん?」
大倉が声を出す。私は目を開けて、大倉が目を向けている扉の方向に視線をやる。
そこには人がいた。短く切られた黒髪、いつもなら気怠げな瞳には力が入っているのがわかる。
……なぜか、涙が零れた。急に息が上がって、心臓が叫び出す。
「たすけっ……」
言葉にすらなっていない嗚咽のような、そんな掠れた声が口から零れ落ちる。
扉を開けた彼は、ズンズンとこっちにやってくる。その彼は普段と違う、圧倒的な気迫を纏っていた。
そして、大倉の顔面を殴り飛ばした。
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