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第47話 聞こえていなくとも今はそれでよかった

こんにちは魂夢です。今日アベンジャーズを見に行きまして、帰りにSHフィギュアーツ アイアンマンマーク85 ファイナルバトルエディションって言うのを買いました。めっさ良いですね。

 足りてない俺の脳の中で、何か言葉を探す。やっとの思いで見つけた言葉は至極くだらないものだ。


「くたびれた大人になったって言いたいのか?」

「はぁ……。追い詰められると茶化す癖は相変わらずか」


 言って、皐月はそっと目を伏せ、コーヒーを一口。俺はそんな彼女が見てられなくて、顔を背ける。

 この数年間で、変わったこと、変わってないこと、新しいこと、無くなったこと、たくさんあるだろう。


 彼女が大きくは変わっていないことと同じように、俺にも変わっていないことはある。また逆も然り。


 ただ……、俺が数年前よりもリアリズムに染まったのも事実といえば事実だとは、思う。


「そーいえば、ここに映画のチケットが二枚あるんだけど」


 言って、皐月は俺にスマホの画面を見せつける。ネットで予約したときに表示されるどこの席に座るとかが記されたページだ。


「行く?」


 スマホの横からヒョコッと顔を出して、小首をかしげる皐月。


 元カノと二人っきりで映画なんて、当時の同級生に見られたら……。なんて一瞬考えてみたが、よくよく思い返せば当時から友達は少ない。鶴城とはあの頃から友達だが、事情を説明すればすぐ納得するだろう。


「まぁ、レディからのお誘いは断れないよな」


 俺はメロンソーダをグイッと一気に飲み干した。炭酸のせいで、喉が痛い。



 劇場を出て、皐月はクゥ~っと伸びをする。体が縦に伸びて、元に戻った。


「面白かった?」


 振り返った皐月がそう問いかける。あの映画についての感想を正直に言えば、めちゃくちゃ普通としか思わなかった。


「あぁ。面白かった」


 まぁとりあえず、面白かったって言っとけばいいだろうか。


 あの映画は、よくある恋愛青春物って感じだ。努力家の主人公と、美人の女性の甘酸っぱい恋愛。一言で言えばこう。というか物語が薄いからこの一言でこの映画は表しきれる。


 良くも悪くもリアリティが無い映画だと感じた。そもそも何の変哲も無い主人公が、美人の女性を射止めることができる訳がないのだ。


 ましてこの映画のように、切磋琢磨して己を磨いていると偶然、物事が上手く転がって美人と付き合える。なんてことはありえないし、もしあっても数年後、いや数ヶ月後には別れてる。


 青春がいかに黒くて汚れているか、その事に目を背けているようにしか思えなかった。


 今のところ俺は皐月としか付き合っていないからわからないことも多いが、きっと恋愛なんてものは基本的に汚れていて、綺麗なのはすごく稀だ。

 恋愛は、苦しんで、足掻いて、もがいて、そしてようやく勝ち取る。かと思えば彼女との関係でまた苦しむ。


 そんな醜い恋愛というものが、綺麗に描写されていることに、酷く違和感を感じたのだ。


「面白いと思ってないでしょ」


 ……もし俺がジョジョのキャラクターだったら背後にギクッ!!! って擬音が出てるだろう。それくらい鳥肌が立った。


「まぁいいよ、ワタシも別に面白いとは思わなかったし」


 時刻はもう六時を過ぎていて、十一月の空は真っ暗で、映画館のあるこの街が空を照り返している。

 そんな夜空を、彼女は見上げながら独り言のようにそう口にした。


「とりあえず、今日はありがと」


 微笑みを浮かべてすらいないのに、俺は彼女が笑っているように思えた。なんでかはわからない。

 ただその言葉は、この寒い夜の中でも冷たいと思えるくらいには冷たい言葉のように聞こえた。


「……あと」


 テクテクと近づいてきて、ギュッと俺の手を握る皐月。


「これ」


 握られた手を見てみれば、一枚の紙切れ。折りたたまれているが、隙間から数字が見えていて、それが電話番号だというのがわかる。


「それじゃあ」


 渡すものは渡した。と言うように、皐月は早足で駅に向かい始めた。


「……じゃあな」


 きっと俺の言葉は街の喧騒に飲まれて聞こえていないだろう。それでも、今はそれでよかった。

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