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努力嫌いな俺のラブコメ~美少女のいる部に入ったのにシリアスな展開ばっかり!?~  作者: 魂夢
第五章 その場に置いてきた違和感がぼっち部を刺す
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第40話 ぼやけてよく見えなかった

こんにちは魂夢です。ちょっと最近時間なくなってきたので、毎日投稿から隔日投稿に戻させてください……。ストック戻ったら毎日投稿にまた戻しますので。

 もう一度だけ言わせてほしい。舞台上でトランペットを奏でる扶桑花 麗良は本当に美しかった。それは彼女自身もそうだし、彼女の奏でる音色もそうだ。


 今まで聴いてきたどんなトランペットよりも、素人である彼女のトランペットの方が何倍も綺麗であると断言できる。


 俺は扶桑花の演奏を一人会場のすみっこで見ていた。


 そして、数分間の扶桑花パートが終わり、彼女は舞台裏に戻っていく。俺はそれを見とどけて、若干の名残惜しさを感じながらもその場を離れた。


 なんだか見ているのが辛くて、自分から縁を切っておいて彼女からは見えない位置で彼女を見ているのが嫌で、胸の奥が痛くなる。自然と俺の足取りがいつもより速くなった。


 足下を見ながら、俺は考える。扶桑花の美しい音色は、彼女が努力したから故の美しさなのか、と。


 でもきっと、それは違う。彼女はトランペットの才能があったんだ。だから上手かった。

 しかし、ならなぜ彼女は努力をしたのだろう。努力を嫌っていたはずなのに。


 ……きっと、彼女は努力をすることに理由なんて求めていないのだろう。普通の人間は目的に向かうために努力をするのは当たり前だ。


 当たり前だからこそ、俺は扶桑花を唯一の仲間だと、思っていたのだ。


 俺が頭の中でわかりきったことをグルグルと考えていると、肩を二度トントンと叩かれて振り向く。


「なん──グハァ!」


 突然、俺の頬に大倉のパンチが炸裂した。肉と肉がぶつかりある鈍い音が鳴って、俺は膝から崩れ落ち、地面に伏した。


「てめぇ、なに呑気に遊んでんだよ」


 別に遊んでた訳じゃねぇよ。俺は心の中で悪態をつきながら大倉に顔を向けると、奴は己の膝を俺の鼻に叩きつける。


 ゴンっと嫌な音が頭の中で反芻(はんすう)して、鼻から血が溢れる。後から訪れる痛みに耐えながら、俺は大倉を睨みつけた。


 地面に横たわる俺に馬乗りになって、いわゆるマウントポジションを取る大倉。


「まだそんな目をすんのか──」


 言い切るよりも前に彼の腕は殴る準備動作に入った。俺は直感でやばいと感じて両手首と肘を合わせるようにしてガードを取る。


 だが圧倒的筋力の前にガードなんて意味が無いに等しかった。俺は大倉の右腕から一発をガード、だがその攻撃で俺のガードは崩れ、直後の左腕からのパンチは防げずにもろに食らった。


 一通り攻撃が終わって、肩で呼吸する俺と大倉。呼吸を整えて、彼はカチャリととある物を取り出す。

 秋の夕日を照り返すそいつは、俺をぞくりとさせる。それに気付いたであろう大倉はニヤリと口元を歪めた。


「……ここでぶっ殺してやる」


 キラリと彼の持つ小さなナイフが光ったような気がする。

 大倉は逆手で持ったナイフを掲げる。そして────カシャリとシャッターが切られる音が鳴った。


「あん?」


 俺も大倉も音が鳴った方へ視線を向ける。そして大倉は訝しめるような目をして、俺は────目を疑った。


「写真に撮らせてもらった。柳に見せれば、どうなるだろうな」


 黒茶色の短髪に吸い込まれそうになる深紅の瞳。他の誰でも無い、扶桑花 麗良その人。


「……けっ。わーったよ」


 スッチャっと大倉はナイスをポケットに戻し、立ち上がってどこかへと去って行った。


「扶桑花……」


 口から溢れ出すように声が漏れる。その声を聞いて、扶桑花は一種悲しむような、同情するような曖昧な笑顔を浮かべた。

 そして、一歩一歩ゆっくりと、怯えた小動物に近づくように俺に近づいて、手を差し伸べる。


 俺はその手を、取った。


「……ありがとよ」

「いいんだ」


 言って、彼女は目を瞑り大きく息を吸って、吐く。俺はその様子をじっと見ていた。


「ところでだ、松葉。……ぼっち部に入部する気はないか」


 扶桑花と目が合って、カチッと音が鳴ったような気がした。俺は目を逸らさずに彼女の目を見続けた。


「俺は……」


 一呼吸置いて、その続きを紡ぐ。


「戻れることはできない」

「どうしてだ」


 以前曖昧な笑顔を浮かべたまま、扶桑花は小首をかしげる。

 なんでか、全てを吐露してしまおうと思ってしまう。全部全部何もかもを吐き出してしまおうと、もう一人の俺が頭の中で囁く。


「俺は努力が嫌いだって、前言ったよな。でお前も嫌いだって、言ってくれたよな」


 気付くと、俺は遠くを見つめ、小さいながらもその言葉を紡いでいた。


 こっくりと、扶桑花は頷いた。俺は言葉が詰まって声が出てこなくなるが、彼女はそれでも何にも言わずに俺の言葉を待ってくれて、どうにか言葉をひねり出す。


「……それで、俺はお前に勝手にシンパシーを感じてた。けど、俺の考えは捻くれてて、もちろん扶桑花は俺とまったく同じ考えなんかじゃなくて」


 きっと俺の声は震えていただろう。吐息混じりで、わかりずらくて、ただの俺の感情だった。

 そこに論理も理論も理屈も屁理屈も無かった。


「なのに俺は、扶桑花が俺とは違う人間だって知っていたのに、なぜか失望して、そして……」


 言葉が出ない。なんだか吐きそうだ。すぐにでも逃げたして、明日から何にも無い顔をしたいくらいだ。

 でもそれは、きっと彼女に対する行いとしてはあまりにも酷い。話を聞いてくれようとしている人間に対して、扶桑花の誠実さに対して、不誠実だ。


「俺は心の中で、お前を悪者にしようとした。それが気持ち悪くて気持ち悪くて……。扶桑花はずっと変わってなんかいないのに、勝手に期待して、勝手に失望して、そして悪者にしようとして」


 ああ、今俺はきっと酷い顔をしているだろう。今にも泣き出しそうなのを必死に堪える俺の顔は見れたものじゃ無いだろう。


「だからその罪滅ぼしとして、俺はぼっち部を抜けようって……。そう思ったんだ」


 言い切って、俺は息を吸い込んだ。殴られても、罵倒されても良い。俺を嫌ってくれたら、諦めもつくから。


 俺は扶桑花の綺麗な瞳に目を向ける。彼女は意外にも笑顔だった。それもさっきのような曖昧な笑顔じゃない、正真正銘の花のような笑顔だ。


「なんだそんなことか」


 言って、扶桑花は俺の手をギュッと握る。彼女の手は細くてしなやかで力を入れれば折れてしまいそうで、でも、力強くて。

 暖かい彼女を感じながら、俺は彼女の言葉を待った。


「気にしないよ、そんなこと。私を悪者にしてくれたっていい。だから、帰ってこい。私たちのぼっち部へ」


 ブワッと、堰を切ったように涙が溢れてこぼれ落ちそうになる。俺は扶桑花に恥ずかしい姿を見せたくなくて上を見上げた。


 筆で塗ったみたいな雲の隙間から見える空はオレンジ色で、すごく綺麗だった。


 でも今は、そんな綺麗な空もぼやけてよく見えなかった。

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