第37話 彼女の優しさに甘えてはいけない
こんにちは魂夢です。最近夜遅くに投稿するのはその方が伸びやすいことに気付いたから何ですよね。
わかりました明日は朝早くに投稿します!
ホームルームが、終わる。先生のさよならの声が、胸にずんと響く。俺は終わってすぐに教室を離れた。
この状況で大倉に殴られるのはごめんだと、俺の足取りは速くなる。けどたぶんそれは違う。自ら部活へ行く行為が、あまりにも辛くて、でも早く終わらせたくて。俺の足は重いのに、それでも速かった。
静かな部活棟に、俺の足音だけが木霊する。それがどうにも苦しかった。
早歩きで歩いていたから、少しばかりいつもよりも早くに部室に着いてしまった。その事に後悔しながら、俺は扉に手をかける。
ガタリと音がするだけで、扉は開いてくれない。鍵がかかっているのだ。
血の気が引いていくのがわかった。扶桑花に会いたくないから早く来たのに、これでは鉢合わせてしまう。
俺は退部届をポケットから取り出し、どこかに置いておこうかと場所を探した。
「……なにを、している?」
声が聞こえて、俺はその方向に振り向く。そこには黒茶色の髪と、美しい深紅の瞳を持つ少女がいた。
俺を見つめる瞳はキラキラと輝いていて、その輝きが俺を射殺すかのように感じで、そっと目を逸らす。
「……別に、なんでも」
掠れた声で、なんとか絞り出した声は彼女に届いてくれたのだろうか。扶桑花は俺を見つめたまま微動だにしない。
退部届を握る手に、グッと力が入った。紙がクシャクシャになっているのがわかる。
なんと、言えばいいのか、わからない。俺の頭の中にある単語を引っ張り出してきては、これはダメあれもダメと紡ぐべき言葉を探す。
俺が言葉を探していると、扶桑花は息を吸った。そして彼女の唇が言葉を発した。
「……わかった、とりあえず入れ」
俺が返答をする前に彼女は部室の扉を解錠する。そしていつものように彼女の椅子に腰掛けた。
…………ダメだ、彼女の優しさに甘えては。彼女は完全に理解はしていないだろうが、きっと察しているのだ。だから、気にするなと言葉では伝えないが、彼女が纏う空気感が、仕草が、俺にそれを如実に感じさせた。
でもそれは彼女の優しさだ。それに甘えていてはいけない。そんなことをしても、なんの解決にもならないのだから。
「……なぁ」
意を決して、声を出す。その声を彼女は聞いて、俺に目を向けた。合わせるように、目を逸らす。罪悪感で、声が出せなくなりそうだったから。
「こ、これ」
震える手を必死に抑えながら、彼女の前まで行って、クシャクシャになってしまった退部届を彼女に手渡す。
扶桑花は紙を広げて、それが退部届であることに気付くと俺に疑問の目を向けてきた。
やめてくれ、そんな目で俺を見ないでくれ。今日までのぼっち部での生活は楽しかった。だから、これまでの神聖な時間を、関係を、俺の中にある彼女は俺と同じ考えを持つという願望で汚したくない。
「そ、そういうことだから、じゃあな」
矢継ぎ早にそう言って、俺は出口へと向かう。すると扶桑花は、小さな声で待ってと口にした。
一瞬、足が止まる。けれど、それはダメだと感じて再び歩みを進め、ドアを強く閉めた。
これでよかったのだ、きっと。噓に噓を重ね、違和感に背を向け、息苦しい人間関係を持続させる必要性はまったくない。だから、きっとこれでよかった。
閉めたときのドアの音が、扶桑花の待ってというその言葉が、頭から離れてくれない。
「松葉くん……?」
小首を傾げ、切なげな声を出す恋綺檄が、俺の名前を呼ぶ。
俺は立ち止まるが、何も言わなかった。いや何も言えなかった。何か言えば、泣いて、しまいそうだったから。
「部室、向こうだよ?」
子供に語りかけるような、そんな優しい声で恋綺檄は俺に問う。
俺は一瞬だけ彼女の碧眼を見た。その目はゆらゆらと揺れている。
「……わかってる。けど……俺はもう部員じゃないんだ」
言うと、恋綺檄は手を口に当て、目を見開いた。なんで、どうして。そんな疑問が目を見ただけでわかるほどに、彼女は俺に疑問を覚えた。
俺は彼女の横をすり抜けるようにして、その場から立ち去ろうとする。恋綺檄は固まっていて、何の言葉も紡がないし、一切の動きをしなかった。
彼女が動かないでくれてよかった。彼女が言葉を発さなくてよかった。もし彼女がなにかアクションを起こせば、俺きっとズルズルと関係を続けてしまう。
だから、逃げるように、俺はその場を立ち去った。
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