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努力嫌いな俺のラブコメ~美少女のいる部に入ったのにシリアスな展開ばっかり!?~  作者: 魂夢
第五章 その場に置いてきた違和感がぼっち部を刺す
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第35話 関係も考えもそのすべてを……

こんにちは魂夢です。遅れて申し訳ないです!!

 俺はただ目的地もなく走っていた。部活動をしながら和気あいあいとしている奴らの間をすり抜け、誰もいない廊下を、ただひたすらに走る。


 どこに行こうか、なんて考えていなかった。ただ……俺は離れたかったんだ。できる限り遠くへ、どこでもいいから遠くへ。そう思いながら足を動かしていた。


 あのトランペットの音が聞こえなくなる所へ走っているのに、俺の脳内で彼女のトランペットが反芻する。


 消えろ消えろ消えろ消えろやめてくれ。いくらそう願っても、あの音色は頭から離れなかった。


 俯いている俺の視界に入るのは走っている俺の足と、床だけ。聞こえてくるのは、もう聞こえないはずの彼女の奏でるトランペット。


 ドカッと、誰かにぶつかった。けれど、俺はそれどころじゃなくて、そのまま何も言わず走り続けた。背後から声をかけられたような気がしたけれど、俺は振り向くこともしなかった。


 ……どのくらい走っていただろう。体に乳酸が溜まってきているのを感じ始めた頃、俺の胃から上がってくるのを感じて、急いでトイレに駆け込む。


「オゥェ……」


 胃の中身を便器の中にすべて吐き出した。ぺちゃぺちゃという気色の悪い水っぽい音と、俺の嗚咽が個室に響く。


 一通り吐き終えると、ようやく少し気持ちが落ち着いてきた。

 俺は呼吸を整えながら自らの吐しゃ物を流して、便器に腰掛ける。


「すぅー、はぁー……」


 ゆっくり深呼吸を数回繰り返すと、意外にも気持ちはすんなりと落ち着いてくれた。

 だが落ち着くと、一気に俺に自己嫌悪と絶望感が襲いかかる。そして溢れ出てくる疑問。


 なぜ、俺は駆け出してしまったのか。なぜ、俺は息ができなかったのか。なぜ、こんなにも胸が痛むのか。


 ────そして……俺はなぜ、扶桑花を見て絶望したのか。


 フッと湧き上がった疑問の中で最も大きな疑問だ。今まで、俺が生きてきた中で努力をしてきた人間は大勢いる。いや、努力をしない人間を見たことがない。


 めんどくさがりや、怠惰な人間はノーカウントとして、俺は自分以外に努力嫌いを自称する人間を見たことがなかった。


 ただ一人…………扶桑花 麗良という少女を除いては。


 彼女は。扶桑花は、俺に努力が嫌いと言った。そして俺は彼女の行動からそれを信じた。それがバカだった。


 彼女は噓をついたのだ。


 俺は噓をつかれたことに悲しみ、絶望しているのだろう。過去彼女に、努力が嫌いと言われて俺は無性に嬉しかった。けれど、それはすべて虚言であったのだ。


 彼女は俺を騙し、欺いた。だからそれに絶望した。


 ──────いいや、それは違う。


 俺は、扶桑花にシンパシーを感じていたのだ。

 彼女が初めてできた俺の気持ちを理解してくれる人間だと、俺が勝手に勘違いしていた。そうして期待して、それが俺の間違いであったから、今彼女に罪を被せようとした。


 ……いつだって、悪いのはきっと俺なのだ。俺が彼女を知らなかっただけ、理解していなかっただけ。知った気になって、勝手にシンパシーを感じて、俺を唯一理解できる人間だと勝手にカテゴライズしていた。


 今までも、ずっと扶桑花はこうして暮らしていたのだろう。なら、何も知らない俺が、彼女に勝手に期待して、勝手に裏切られたと感じて、勝手に彼女を虚言吐き呼ばわりした。


 最低だ。くそ野郎だ。こんな俺が気持ち悪くて、仕方が無い。


 なにもかも全部、間違いだったんだ。彼女に感じたシンパシーも、彼女と俺が同じ考えを持っているというのも。そのすべてが間違い。


 なら、間違いだらけの関係なら、もう終わりにしよう。そんな関係はきっと不必要だから。彼女にとっても、俺にとっても迷惑なだけだから。


 過去の人間関係に執着して、固執して、いつまでも引きずり続けて、心の底から笑えない。そんな苦しい思いをするなら、もうなんでもなくなった人間と共同生活を続ける必要は無い。


 この不要な関係も、不要な考えも。そのすべてを。


 ────終わりにしよう。

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