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努力嫌いな俺のラブコメ~美少女のいる部に入ったのにシリアスな展開ばっかり!?~  作者: 魂夢
第四章 ゆっくりと彼と彼女らの関係は移りゆく
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第28話 曇り空の元で彼は間違えないと誓う

こんにちは魂夢です。ワニッ!

 今日の天気はあいにくの曇り。でもそれで良かった。太陽サンサンなお散歩日和なんかだったら、きっと俺は罪悪感で押し潰されてしまっていただろう。


 田中は約束通りに学校に来てくれていた。クラスは昨日あれだけ居ないことで騒いだくせに来たら来たで騒ぎ出している。


 鞄の中に筆箱だのなんだのを入れながら俺は帰りのホームルームが始まるのを待っていた。


「ねぇ。今日は部活……行く?」


 恋綺檄が窺うような視線で俺に問いかける。その碧眼はゆらゆらと揺れていた。


「……すまん。今日は行けない。けど明日は行くから」


 俺が言うと、彼女はそうだよねと口にしてから乾いた声で愛想笑いを浮かべる。俺はそんな彼女を見ていられなくて目を逸らす。


 程なくして、恋綺檄は自分の席へと帰ってった。その時の足音が、俺の脳内で反芻する。



 ホームルームが終わって、俺はすこしだけ教室に居座っていた。


 大倉が教室を去ってから数分が経過。そろそろかと思って、教室を出て外履きに履き替えて裏門の用具庫へと足を運ぶ。


 大きな音を立てて、何かが倒れると同時に俺の耳に怒声が飛び込んだ。


「お前なんで昨日休んだんだよアァ? 俺が疑われたらどうすんだよ? なぁ!」


 大倉がまた何かを蹴ったのか殴ったのか、物が倒れる音が鳴り響くと、田中は短く悲鳴を上げる。


 ここに来て、俺は少しだけ怖じ気づいていた。

 大倉が怖いのでは無い。だが何か他の方法はないかと今更ながら思い始めてしまったのだ。


「わかってんのか? なぁおい」


 考えろ松葉 荻野。無い知恵をひねり出せ。全て上手く行く方法を今頭の中にある答え以外で叩き出せ。


 大倉や柳たちの関係性を保ち田中へのイジメを止め、なおかつぼっち部の関係性を変えないようにする。


 ならやっぱり、これしか無理じゃねぇか。こんなの無理ゲーなんだ、つまりはクソゲーだ。


 クソゲーでもマシな方だ、過程はどうであれ俺の求めることは全てできるのだから……。


「き、昨日は……体調が、悪かった……だけで……」

「口答えすんのか?」


 俺は意を決して、用具庫の扉に手をかける。震える手を動かして、酷く重い扉を勢い良く開く。


 そこには田中を掴み手を上げ、殴る一歩手前の大倉と数人の男。そして怯えた田中。


「なにやってんの?」


 俺は特に何も感じないといった様子でそう言い放つ。なぜか、するすると声が出てきてくれた。


「……なんか用かよ」


 田中から手を離して、大倉は俺に問いかける。その問いかけに俺は嘲笑で返す。


「いや、ガキみてぇなことやってんなと思って」


 半笑いで、神経を逆なでさせることを意識した声音で、俺は大倉に言った。


 訝しんでしるのか、大倉は眉を寄せる。そして、口端をつり上げた。

 一歩一歩俺の方に近づいてくると、彼はその大きな拳を俺の顔面へ。


 俺の視界が拳を捉えた瞬間、俺は心の中で叫ぶ。勝った! と。


 結構鈍い音が俺の頬から鳴る。そして俺はふらついてそのまま尻餅をついた。


 正直想像以上の激痛だが、覚悟は出来てる。ここまで来てしまえばもう怖い物は無い。


 口についた血を拭いながら俺はさらに煽る。


「……しょっぼいパンチだ──」


 言い終わる前に、大倉は重そうな筋肉隆々の体から繰り出されたとは思えないほど素早く俺の頬に蹴りをいれる。


 体に激痛が走り、俺は肘をつくことすらできなくなり仰向けにドサリと倒れた。


 大倉の仲間たちが俺の足を掴んで用具庫に引きずり込む間に、俺は視線で田中に逃げるよう促す。


 ほこりっぽく薄汚い用具庫に引き込まれていくのは、俺が闇に堕ちていくような感覚に陥った。


 田中は俺の言いたいことを理解するも、一瞬だけ戸惑ってから、大倉の横を駆け抜けていく。

 よかったこれで、全て解決するだろう。あとは俺の問題だ。


「……俺に何をしよーって──」


 大倉はご丁寧に俺の胸ぐらを掴んで上半身を少し持ち上げてから、殴った。すると俺は頭を床にぶつける。

 彼はもう一度胸ぐらを掴んで俺の顔面を殴った。それも一度ではなく、何度も。右頬を殴り、左頬を殴り、肘で殴った。

 一度ラッシュが止まってようやく終わったかと思えば、大倉は俺の耳に己の口を寄せる。


「俺に喧嘩を売ったこと後悔させてやる」


 鋭く、俺の耳に刺すように言葉が滑り込んでくる。

 俺の意識はもうほとんど無い。けれど大倉の下卑た笑みが俺の脳に刻み込まれた。



 ゆっくりと、瞼を開ける。どうやら意識を失っていたようだった。

 全身が痛い。そりゃそうだあれだけ殴られたり蹴られたりしたのだから。


 用具庫の壁に背を預けていた俺は重い体に鞭打って起ち上がる。

 まずは己の体を軽くチェック、打撲程度の怪我はあるが骨も折れてないしまぁ大丈夫だろう。


 ……あーいや、財布は盗られている。まぁ六百円とかしか無いから別に構わない。あ、クーポン券とかポイントカードとかも盗られてる! それは嫌だな……。


「……はぁ」


 一つ、ため息をつく。俺のやりたいことは成功した。

 イジメの対象を田中から俺にずらす。俺が我慢さえすれば、ぼっち部にはなんの変化も無く、柳の関係性を持続させることができる。


 俺は鞄を持って、裏門から学校の外へ。


 酷い目に遭ったはずなのに、俺はなぜか懐かしいような気持ちだった。


 俺が中学二年生の時も俺はイジメを受けていて、それを彼に助けてもらった。今のような方法で。

 俺は助けてくれた彼を助けたくて、先生にイジメを報告してしまってイジメは激化。


 選択を間違えたことを謝ったとき、彼は俺に冷たい言葉を放った。その言葉は今でも覚えてる。


『大丈夫気にしないで、別に期待なんてしてないから……』


 俺は間違えた。だから今度は絶対に間違えない。恋綺檄や扶桑花と、ぼっち部(居場所)を守るために。


 鞄を握る手に、自然と力が入った。

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