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努力嫌いな俺のラブコメ~美少女のいる部に入ったのにシリアスな展開ばっかり!?~  作者: 魂夢
第四章 ゆっくりと彼と彼女らの関係は移りゆく
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第25話 彼は自分が何よりも悪いと自虐する

こんにちは魂夢です。やってしまいました、25話投稿忘れてました……。

 俺は自分の椅子に座りながら、件のむせび泣いている人影に話しかける。


「おい、田中。大丈夫か?」


 田中は突っ伏した顔をゆっくりと上げた。その顔は涙でグチャグチャで、目は赤く充血している。


「ボク、大倉たちにいじめられて……、ずっとお金取られたり殴られたりして……」


 言って、田中はまた泣き出す。何かを言ってはいるが言葉になっていない。


 正直に言うならば、俺は田中がイジメを受けているのを知っていた。その上で無視をしていた。


 俺には関係が無いとして、見て見ぬふりをしていたのだ。

 でもそれが間違っているとは今でも思わない。イジメを受けているのは彼の問題だ。俺がそれをどうにかしてやる義理は無い。


「ど、どうしよう。まずは先生に相談し──」

「よせ、やめろ。無駄だ」


 数年前のことを思いだす。俺の友達を助けようとして、俺は先生に相談してそれで──。


「なんで? いじめられてるなら、まず先生に相談じゃないの?」


 目尻に涙を溜めながら、いつになく本気の目で、俺にそう尋ねる恋綺檄。


 俺は諭すように恋綺檄に言う。


「お前は知らないだろうが、学校はイジメを止める程の力を持ってない。軽く注意されたり説教されたりしても、加害者が改心すると思うか?」

「そ、それは……」

「改心する可能性はゼロじゃない。でもな、改心するより悪化する方が確率が高い」


 恋綺檄は俺から目をそらし、俯いた。

 先生に相談するのは得策じゃない。似たような理由で警察に相談するのもナンセンスだ。


「警察に行っても学校にもみ消されるしな」


 俺がそう言うと、場の空気は最悪になる。泣き続ける田中、俯いて表情が覗えない扶桑花、目をキョロキョロさせながら何かを思案している恋綺檄。


「……なら、どうしたら良いっていうんだ」


 扶桑花が口を開いた。彼女の声音は確実に怒りを含んでいる。

 なぜ彼女がそこまで憤っているから俺にはわからない。


「……大倉は、柳組だろ。柳から言ってもらうのが……いや、それも無理か」


 今日の朝、柳は大倉に田中についての質問を一つして、大倉はそれを否定した。


 なら、柳にも何かしら事情があるのだ。だから、彼は大倉を問い詰めることができなかった。


「あたし、柳くんに言ってくる!」

「あ、おいちょっと待て!」


 勢いよく椅子から起ち上がる恋綺檄を追って、俺は部室を出る。


 直前に俺は扶桑花に目をやったが、彼女は俯いたまま動こうとしなかった。



 走る恋綺檄を追いかけて、俺は彼女の手を掴む。


「柳に言っても無駄だ。あいつは今朝大倉に軽く聞いてたから、きっと知ってて強く注意できない理由が──」

「そんなの聞いてみなきゃわかんないじゃん! 松葉くんは田中のことどうでも良いからそう思うんでしょ? あたしは…………神様としてほっとけないよ!」


 彼女の声はもはや絶叫だった。神様として田中のことを助けたいという気持ちが嫌でも伝わってくる。


 俺は、さっきも言ったが田中を助けたいとは思わない。興味が無いし、なによりそのために努力をしたくない。


 イジメを苦にして田中が自殺したりなんかしたら後味の良くない物を残すとは思う。

 けどそれで俺に何かあるわけではない。いつも通りに生活すれば良いだけだ。


「ねぇ、どうかしたの?」


 声が聞こえて、俺は恋綺檄の手を離した。

 俺は声の主を見やる。柳 津々慈、大倉と同じグループのリーダー的位置にいる男だ。


「柳くん、大倉くんが田中をいじめてるの、知ってる?」


 恋綺檄は、果敢にも踏み込んだ質問を柳にぶつけた。


 俺はさっきまで彼女を掴んでいた手を、強く握りしめる。


「…………うん、知ってる」


 長い沈黙の後に、彼はそう口にした。


「ならさ、柳くんから大倉くんにやめるように言ってやってくれない?」


 柳はその質問が来ると知っていたかのように、残念そうな顔をして口を開く。


「……悪いけどそれはできない。もし僕から強く言えば僕たちの関係性に亀裂が入るから、僕は関係性を壊さずに田中を助けてやる方法がわからない」


 心底申し訳なさそうに柳は言った。

 彼は少し言葉を濁したが、要約すれば、自分の関係性を壊してまで田中を助けたくないということだ。


 でも俺は同意見だ。田中ひとりのために関係性を壊したくない気持ちはよくわかる。

 俺も、ぼっち部の関係性を壊してまで田中を助けたくないと思う。


「な、なんで……? 人が苦しんでるのに、助けてあげないの?」


 恋綺檄は涙を流した。美しい碧眼から涙が滝のように流れ落ちる。


 俺は握りしめた手により一層の力が入った。


「……あたし他に助けてくれる人探してくる」

「おい待てよ」

「ついてこないで!」


 走り出す彼女を止めようとするが、俺はそれを否定された。


 彼女の手を掴もうとした俺の手が空振り、俺は手をまたもや握りしめる。


「ごめん、力になれなくて」


 眉を八の字にした柳がそう口にする。

 彼のせいではない。悪いのは大倉だ。


 そして、田中を助ける方法を知ってて助けない俺が、なによりも悪い。

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