第24話 彼はその人影を知っていた
こんにちは魂夢です。頼むよぉ、評価してくれぇ。
目が覚めた。時計を見てみると、針は七時丁度を指していた。
いつもと同じ時間に起きた。昨日も一昨日もその前も、その前の前も、俺は七時に起きている。
約一ヶ月半の夏休みが終わった。長いようで短い夏休みだった。いや嘘普通に短いわ、もう一年間夏休みでいいよ、学校行きたくねぇし。
明日からまた学校が始まるのかと思えば、憂鬱になる一方で、また彼女らと会えるのかとほんの少しだけ嬉しく思った。
俺は重い体に鞭打ってベットから体を起こし、制服に着替え、歯を磨いたら、リビングへおもむく。
「おはよぉ……」
俺が朝のあいさつをすると愛しの妹、真莉がこっちを見た。
「おはよお兄」
真莉が朝食を用意していてくれてるから、俺は何も考える必要無く朝食にありつける。
「お兄最近元気良いけど、なんかあったの」
エプロン姿の真莉が自分の分の食事を皿に盛り付けながら、そんなことを訊いてくる。
「あぁ、言ってなかったか。最近部活に入ったんだよ」
俺がそう言うと、真莉は持っていたオタマをシンクに落とした
「……お、お兄が……、部活?」
え、そんな驚く? まぁ無理もないが、わざとらしくオタマ落とすなよ。
真莉はエプロンを脱ぎ、自分の席に着く。
「お兄が部活入るとか、近いうちに地球滅ぶんじゃない?」
「いや、滅ばねぇから。アベンジャーズとかが何とかしてくれるから」
俺は米を頬張った。相変わらず、妹が炊いた米は旨い。
「……ふーん、変わったね」
その言葉が俺の耳に入り込むと、箸は動きを止めた。
真莉は何がどう変わったかは口にはしなかったが、ニュアンスでわかる。真莉は俺が努力をしてると言いたいのだ。
そんなことは決して無い。確かに俺はぼっち部を居場所として感じているし、あの二人のことは憎からず思ってる。
だけど、そのことで努力なんてしていない。
「変わってなんて……、いねぇよ」
俺は米を口の中に詰め込んで、鞄を手に取った。
○
朝の満員電車に揺られて学校に着いたら、鶴城と少し話して一限二限と授業を受け、弁当食って残りの授業を受けた後、帰りの支度をして部活に直行する。
これがいつもの俺のルーチンワーク。ぼっち部に入部してからはずっとこうだった。
今日も同じだったが、少しだけいつもと違うことがあった。
「田中休んだって」
そんなことがチラホラ聞こえてきていて、空気が重かった。
田中がどの田中なのかはわからないが、俺が知る田中は滝だけだ。
まぁ件の田中が滝かどうかわからないし、俺には関係の無いことだ。
「大倉、田中になんかした?」
柳 津々慈に大倉と呼ばれた男は首を横に振った。
どうも引っかかる。
この間のいじめの被害者の声に聞き覚えがあったのは、田中の声だったからじゃないのか?
そう思ったが、俺はその考えを頭から振り払った。
○
部活への道は前ほど長くも険しくもなくなっていた。
俺は角を曲がって、部室の扉を開ける。
マジでここのドアこんな静かならウチのクラスのドアも静かにしてくんねぇかな。
そんなことを思いつつ、俺がいつもの定位置に目を向けると、いつもは空席の扶桑花の隣に一人人影があるのが見えた。
「大丈夫、大丈夫だ。もう大丈夫」
扶桑花は人影の背中をさすりながら、安心させるように優しい言葉をかけている。
恋綺檄の方は、俯き目尻に涙を溜めながら、スカートの裾をグシャリと握り締めている。
「怖かったです……。ボクはあいつらに、殺されるかと思いました……。殴られて蹴られて、痛かったです……」
当の人影は泣いていた。机に突っ伏してむせび泣いていた。
しかもその人影は傷だらけの見るも無惨な姿で、見たところ傷の種類は打撲だけじゃない。切り傷もある、探せば刺し傷なんかもあるかも知れない。
壮絶なイジメを、体中の傷が物語っている。
しかし、残念ながらと言うべきか、俺はその人影を、知っていた。