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努力嫌いな俺のラブコメ~美少女のいる部に入ったのにシリアスな展開ばっかり!?~  作者: 魂夢
第三章 そうして彼ら彼女らの夏休みが始まる
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第23話 彼は努力で持続させる関係性を欲しない

こんにちは魂夢です。一周回ってごっつええ感じ

 夏休みの部活動が終了してから既に二週間、宿題は順調に進んでいる。


 昼を過ぎ、日差しが弱まってきている頃。俺の携帯が震えた。

 今日は親友の木原 鶴城と遊びに行く約束をしているのだ。

 俺はベットからひょいと降りて、バッグを取りにリビングへ。


「あ、お兄どっか行くの?」


 リビングで映画を見ていた妹の真莉が声をかけてくる。俺はそれに一言ちょっとな、と返した。


「それならさ、買い出し頼んでもいい? ちょうどブツが切れちゃってさぁ……」


 真莉はそう言ってキッチンの方を指さす。あそこに普段山積みにされているものなど他でもない──。


「はいはい、チュッパチャプスな」


 俺が気怠げにそう言うと、真莉は俺に顔を向けずに当ったりーと棒読みで言った。


 いい加減チュッパチャプスのことブツって言うのよくないと思うんだけど……。小さい頃のクセって中々抜けないのかね。


 事の発端は中学生に上がったばかりの俺が冗談でチュッパチャプス厨の皆はチュッパチャプスのことをブツって呼ぶんだぜって言ってしまったことだ。

 それ以来真莉はチュッパチャプスをブツと呼ぶようになった。最初は面白かったんだが、外とかで言われると周囲の視線が集まったりするからもういい年だし、やめてほしい……。


 閑話休題。


 俺はバッグに財布とスマホを入れ、キャップを被ると、玄関からドアを開けて外に出る。


 日差しが強いな。俺はそう太陽を見ながら思った。



「お、これかっこいいな」


 鶴城が売り物のフィギュアを手にしてそう言い、視線でどう思う? と訊いてくる。


 俺は鶴城が持っているフィギュアとまったく同じ物を手に取りパッケージを舐めるように見る。たしかに、塗装も造形もかっこよく、尚且つ値段もお手頃価格だ。


「いいんじゃねーの? 買えば?」

「いや、もうちょっと他のも見て考えるわ」


 鶴城はそう言ってスッとフィギュアを元あった場所に戻す。それを見て俺も戻した。


 俺たちは今、学校の近くにあるアメコミショップにいた。ここではマーベルやDCの原作コミックからフィギュア、円盤、グッズなんかが大量に売っている、所謂オタクの聖地である。


「うお。見ろこれ」


 俺が興奮気味にそう言うと、鶴城はなんぞやという感じで指を指した方を見た。


「うお! まじかよ」


 思わず驚愕の声を漏らす鶴城。そこにあったのはプレ値が付き、二十万くらいするはずの実物大のアイテムだ。

 これは実写版の映画の中で敵が使っていた最強と名高い武器である。それの実物大、しかも限りなく本物に近いということでプレ値が付くのは必然だろう。


 が、ここにあるのはまさかの定価! とはいえ定価でも十万はするのだが……。


「荻野……こ、これ買うわ……」

「え!? お、おま、これ十万だぞ?」


 死ぬほどバイトすればいける……! と鼻息を荒くする鶴城。こ、こいつ、ただでさえ寮暮らしで金がかかるのに! やっちまうのか!?


 彼の瞳に確固たる意志が見える。そして突然バッと駆け出した。彼の目指す先は──レジだ。



「ふぅ、ふぅ。これおっも」


 彼はそう言って腕を捲る。イケメンがやっているからかなり絵になる光景だ。

 結局、彼は総額十五万の貯金を切り崩してそのアイテムを購入した。おかげで数ヶ月はバイトのせいで俺と遊べそうにないが。


 ちなみに俺は一つアクションフィギュアを買った。最近集めてるシリーズで、家にあと十体はある。


「お前、それ部屋に置くスペースあるか?」

「冷蔵庫捨ててでも飾る」


 瞳に炎が見えた気がする。彼はよっこらせとアイテムを担ぐと駅へと足を運んだ。

 俺も彼も買ったフィギュアなりなんなりを早く飾りたくてウズウズしているのだ。俺も早く帰って遊びたい……。


「今度見せてくれよ」

「もちろんだぜ。バイトが無くて暇だったらだけど」


 鶴城はそう言ってゲンナリとした。この夏休みはバイト三昧になることを想像したんだろう。やばい俺は別にバイトしてないけど想像すると寒気が。


 電車に乗って数駅を過ぎると、鶴城の最寄り駅に到着した。


「んじゃ、さいなら」


 ニカッと白い歯を見せて、彼は笑う。そして電車から降りていく。ドアが閉まっても、俺は彼の背をガラス越しに見つめた。


 電車が動き出し、彼が完全に見えなくなると、俺は肺の空気を入れ換えるように息を吐いた。


 別にため息をついたわけではない。俺は鶴城と一緒にいて辛くないし、自然体で過ごせるから。

 中学に入って、俺と彼はすぐに仲良くなった。趣味が似通っていたし、馬が合ったのだ。


 けれど、それは過去の俺だ。今の俺と馬が合うかは、わからない。

 中学一年の頃の俺と、今の俺。たぶん別人並みに変わっている。それでも、俺と彼は親友だ。以前変わりなく。


 でもそれは、関係性が持続しているだけなのだ。昔仲が良かった、だから今も仲が良い。それだけの可能性だってある。

 小学校の同窓会とかで昔の親友とかと会ったりするときに、そいつがずいぶん変わっていても、同窓会の中ではきっと仲良しのままだろ? そういうことだ。


 でもそれは過去という名のしがらみだ。喧嘩別れとかならまだマシ、別れるきっかけがある。でも自然消滅なら、話は違う。

 仲が良かったという過去があるから、その場で絡まないのは不自然で、それを回避するために無駄に自分の身の上を喋り、当たり障り無いことを話す。


 そして同窓会が終わればまた関わらない関係性に戻る。十六年生きてきて、そういう類には何度か遭遇してるから、きっと正しいだろう。


 俺は駅による前にはコンビニで買ったライフガードを取り出して、口にする。なんでか、喉がカラカラだった。


 もしも、鶴城が俺と仲が良いのは単純に関係性の持続で、特段馬が合うとかではなく、別に悪い奴じゃないから、であるならば。


 俺は、そんな努力で持続させる関係性なんか、欲しくない。

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