第20話 綺麗な夜空に咲き誇る火の花
こんにちは魂夢です。どうですか?こんにちは魂夢です。って定着してますか?
一度家に帰ってから、ラフな格好に着替えて花火大会に向かった。
電車の中には浴衣を着た女とか甚平を着た男とか子ずれの家族とかがいて、結構混み合っている。
大会の最寄り駅でその他大勢の人たちと共に降りると、駅付近は既にお祭り騒ぎだ。
提灯とかが至る所につるされていたり、爆音で和風のよくわからん音楽とかが鳴ってる。
やべぇ俺よさこいソーランしか知らねぇ。ただし、よさこいはプロ並みに踊れる。
「松葉くーん!」
待ち合わせ場所でぼけーっとしていると、声をかけられる。恋綺檄の声だ。彼女の声は騒がしい祭りの中でもよく響いた。
「おまたせ! 待った?」
「いやまだ集合時間前だし」
まだ集合時間の十分も前だ。例え俺が一時間待っていようと集合時間に間に合っているなら別に責められる必要も無い。
彼女は髪色に合わせているのか、青色の浴衣を着ている。その浴衣姿は本人のかわいらしさも相まって大勢がいる中でもよく目立つ。
「どう、かな?」
彼女が小首をかしげながらそう問いかける。その頬は朱色に染まっているように見えるが、提灯の明かりで紅く照らされているだけかも知れない。
「似合ってるぞ」
俺は特に噓はついてないから、恋綺檄の目を真っ直ぐ見てそう言うと、彼女は気恥ずかしそうにモジモジしだす。
そういう反応されるとこっちが困るんですよ……。俺は急に恥ずかしくなってスッと目を逸らした。
「くそ、先を越されたか」
声をかけてきたのは扶桑花だ。彼女は黒と赤のかっこいいとも、美しいとも取れるような浴衣を着ている。
いつもの短髪に小さく、でも繊細な髪飾りを付けた彼女は、すごく美しい。そして……なんと言えば良いかわからないが、セクシー? は、なんとなく的を射ていない気がする。
「かっこいい浴衣だね~」
恋綺檄が顎に手を当てて、フムフムとしていると、扶桑花はその場でクルクルとターンして見せる。
髪が揺れ、ほんのり漂う扶桑花の香水の匂い。
あぁ、わかった。さっき思ったことを的確に表現できている言葉を見つけた。
彼女はすこし色っぽいのだ。大人びていて、とても同い年の高校生とは思えない。
「似合ってる……か?」
「すっごい似合ってるよ!」
扶桑花が恋綺檄に目をやると、彼女は頭を縦にブンブンと振って肯定した。
すると、扶桑花は俺にも目を向けてくる。流石に色っぽいとは言えないよな……?
「その……綺麗だと思う、ぞ」
言うと、彼女の雪のように白い肌はカァーっと紅く染まる。と同時に、綺麗な夜空に花火が上がって、扶桑花の顔を明るく照らした。
なんだろう、今すごいラブコメしてる気がする。
「な、なんか買いに行かねぇか?」
「あたし綿あめ食べたい!」
俺がそう言うと恋綺檄は軽くピョンとジャンプしてそう言った。
「綿あめなら、あっちに……」
周りの喧噪に紛れて聞こえないくらい小さな声で、ぽしょぽしょと扶桑花は言う。
恋綺檄はじゃあ行こっかと口にして、俺と扶桑花の手を引いた。
○
「んまぁ~」
幸せそうに綿あめにかぶりつく恋綺檄。
てか綿あめってかぶりつくって表現で合ってんのかな? しゃぶるってのもちょっと違う気がする。
「あ、ねーね。かき氷あるよ」
綿あめ片手に恋綺檄が言う。いやお前綿あめ食いながらかき氷食うの!? 甘すぎない?
「私はイチゴだ」
「あたしコーラ!」
「俺はブルーハワイだな」
せっかく祭りに来たなら、やっぱりかき氷くらいは食べておいた方が良いだろう。あんなのただの氷だけど。
てかブルーハワイってなんでブルーハワイなの? ブルーハワイがあるなら赤のソ連とか……ダメだ多方面から怒られる。
俺が代表として二人からかき氷を徴収すると、俺は三人分のかき氷を回収して彼女らに渡す。
「ほれ」
「「ありがとう」」
二人の声が被さると、恋綺檄と扶桑花は顔を見合わせ、目をぱちくりとさせる。
そして二人して笑った。
ドンと花火が上がる。赤だったり青だったり、綺麗な花火だ。ベジータと違って。
俺はチラリと扶桑花を見た。色とりどりの花火が彼女の頬に反射して、美しい。けれど俺はそれを口には出さなかった。
……俺にラブコメなんて、似合わないから。