第19話 海の家バイト二日目彼女はふと思い出す
こんにちは魂夢です。皆さん評価ブクマしてくださいー!
俺は額の汗を拭う。流石に暑すぎる。恐らく気温は三十五度を超えているだろう。
テーブルを拭きながら、また汗を拭った。拭いても拭いても、汗はこぼれ落ちていく。
時刻は三時を過ぎていて、客足も落ち着いてくる頃合いだった。
「荻野君、大丈夫~?」
結城さんは眉を八の字にして心配してくれる。女神様かな? どこぞの神より女神様なんだけどどういうことなの……。
「大丈夫っす。客足も落ち着いてきてますし、ちょっと暑いですけど」
言って、俺は少し笑う。笑うと言うより苦笑いに近かったかもしれなかったが、それでも結城さんはニコッと返してくれた。
笑うのが前よりも下手くそになっているような気がして、気まずくなった俺は目を逸らし、テーブル拭きに戻る。
なんで陽キャって焼きそばとか色々こぼすの、もっと綺麗に食えよ。
「おい松葉、そんなに同じテーブルばっかり拭いていても意味無いぞ」
水着姿の扶桑花が腕を組み、仁王立ちでそんなことを言う。
腕を組んでいることで胸が強調されていて、俺は胸をガン見しそうになるも、扶桑花の目を見た。
「そうだな」
俺は別のテーブルに移動するも、もうほとんどテーブルは綺麗になっていたし、それ以外には客がいる。
今いる客は休憩がてら喋ってる奴らだけだった。俺もそろそろ休憩でもしようかと、店長に一言言って休憩室に入る。
「へ~、美嘉ちゃんたちは北浜高校なんだ~」
中では、結城さんと恋綺檄が楽しそうに談笑していた。なんとなく申し訳なさを感じながら、俺は恋綺檄の隣に座る。
「荻野君も休憩?」
「えぇまぁ。やることも無くなってきたので」
だよね~と一つ返事をしてから、結城さんは恋綺檄との会話に戻っていく。
俺はスマホを取り出して、検索をかける。
〈女の人 会話〉
我ながら恥ずかしいことを検索している……。なんだ女の人会話って。コミュ障か?
一番上に出てきたサイトを開くも、中にはこうしろああしろと面倒くさいので、そっとサイトを閉じる。
まぁ普通にしてれば大丈夫だよね?
「わたしは高岡高校なんだ~」
盗み聞きはよくないとは思うが、こんなに近くにいれば勝手に耳に入ってきてしまう。
高岡高校とは、俺たちが通ってる北浜高校から電車で数駅行ったところにある高校で、あのEスポーツ部大会の最終試合で田中たちと戦った高校だ。
まぁ、だからなんだという感じではあるのだが……。
よし決めた! 今日から高岡高校はタカタカと呼ぶ! そうする!
俺はそう心の中で宣言した。
○
休憩を終えて、俺と恋綺檄は外に出る。そういえば扶桑花は休憩室に来なかったなと、ふと気になって目で彼女を探した。
彼女は酒を飲んでた小原先生と何かを話していた。扶桑花は説教をされるような人間ではないからそうではないのだろうが、二人とも真剣そうな表情をしている。
先生は俺を見るなり顎で俺たちを指す。扶桑花はこちらに振り向くと、ゆっくりと向かってくる。
「何を話してたんだ?」
なんとなく訊いてみる。
「別に、たいした理由じゃない」
彼女は素っ気なく返す。彼女が言いたくなければ、それでいい。俺はそう思って扶桑花にそうかと一言返した。
すると恋綺檄が何かを思い出したのか、口をぽっかり開けて、あ、と短く口にする。
「今日ね! 花火やるんだって! 皆で見ようよ」
彼女は満面の笑みでそんなことを口にする。その笑顔は夏のひまわりのような笑顔だった。
花火か。たしかこの近くで比較的規模の大きい花火大会があったな。
大会の名前は覚えていないがこの海の家でもチラシが貼られていたし。
「花火大会、か。私はこのあと特に何も用事はないが、松葉は……どうだ?」
小首をかしげて扶桑花が俺に問う。基本的に美少女からのお誘いは断りたくは無いが花火大会か。
人混みは酔うんだよな……。なんか口実ないかな……。家に帰ってやることは……一つ次元が下の嫁といちゃいちゃするとか。あとはー……、悲しいけど特にねぇな。
「大丈夫だ。最近はオモチャで遊ぶのが唯一の楽しみだったが、そろそろ飽きてきたしな。もう飽きすぎて、あき竹城になるレベル」
俺が言うと、扶桑花はぎこちなく笑った。それにつられるようにして恋綺檄も苦笑いを浮かべる。
やめて! その優しさが逆に痛いよ!
「じ、じゃあバイト終わったら各自直行で。着いたら連絡してくれ」
扶桑花の一言に俺と恋綺檄が返事をして、仕事に戻る。
花火大会か……。数年前に元カノと行ったのが最後だった気がする。
彼女はいま、どこで何をしているだろうか。そう一瞬考えるも、俺は頭からその考えを振り払った。