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努力嫌いな俺のラブコメ~美少女のいる部に入ったのにシリアスな展開ばっかり!?~  作者: 魂夢
第二章 ゆっくりと彼らは関係を深めていく
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第16話 そうでなくても本当はよかった

こんにちは魂夢です。新しいあいさつを考えてみましょうか。ブンブンヘローナロー、とかね?

『松葉のその斜に構えた考えというか、皮肉っぽい考え、嫌いじゃないぞ』


 俺の心の中で扶桑化の言葉を何度も繰り返す。けれど、なぜかと理由を聞かれても俺は正確には答えられないだろう。


 でもきっと、俺は嬉しかったんだと思う。努力嫌いを自称している時点で、他人から認められることは無いと思っていたし、半ば諦めていた。

 それに、今の今まで生きてきて、認められないことを不幸に思ったり、自分で自分を可哀想だと思ったことも無かった。


 でもたぶん、頭でそう思っていても、心では窮屈に感じていたのかもしれない。


 さっき俺は扶桑花の言葉を聞いて素直に嬉しいと感じた。彼女に認められたような気がして、彼女だけは俺の味方のような気がして、嬉しかった。


 数歩先にいる彼女に目を向ける。恋綺檄との会話の中で、何かを話して、笑って、微かに震える肩。揺れる黒茶色の髪に、恋綺檄を見つめている深紅の瞳。


 俺の視線に気づいた彼女が、チラリと目をやって、花が咲くように頬笑む。


 なんでか、俺の頬も緩んだ。



 最終試合、高岡高校と北浜高校の戦いが幕を開ける。ドゥゥゥゥゥン。

 関係ないけど映画の予告編とかに出てくるドゥゥゥンってやつは何の音なんだろうか……。


 さて、現在試合開始から数分が経過しているが、未だに二チームとも一人として欠けてはいない。

 だが、数分で既に何チームか壊滅させている高岡チームの方がアイテム的に少し有利ではある。


「麗良ちゃん麗良ちゃん。田中君たちさっきより動きが硬くない?」

「ああ、たぶん緊張しているんだろう」


 扶桑花は頷きながらそう言って、組んでいた足を組み直す。たぶん正面から見たらパン──ナンデモナイデス。


 確かに、さっきたちの田中たちよりも動きが悪いように見える。素人の俺でもそう思うのだから、たぶん扶桑花から見たら相当悪く見えるだろう。


 て、てか、あの。俺を挟んで会話しないでくれないかな……? どうしてれば良いかわかんなくなっちゃうんだけど……。


「ちょっと俺飲み物買ってくるわ、なんかいる?」


 俺は立ち上がりながらボソリとそう言った。

 秘技! 飲み物大脱出! その効果は飲み物を口実にこの場から脱出できる。相手は死ぬ。


「あたしココア!」

「私は──」

「──コーヒーか?」


 言ってみるが、彼女は少し俯いたまま何も言わない。


「か、カルピス……」


 難聴系主人公じゃないから、俺の耳に扶桑花の声はバッチリ届く。


 一言返事を返して、俺は自販機の所まで向かった。エレベーターを降りて、エントランスまで行くと、さっきまで銃撃で騒がしかった会場に比べて静かすぎて謎の違和感があった。


「ココアとライフガードと……あとカルピス」


 まるで念仏を唱えるようにボソボソと言いながら五百円玉を入れて、順番にボタンを押してからエレベーターに再び乗り込む。


 扶桑花たちのところまで戻って彼女たちに飲み物を渡して、俺は椅子に座った。そしてペットボトルを開けてライフガードを飲む。

 疲れた心にライフガードが染み渡るぜぇ!


 スクリーンを見れば、残りの部隊は三つ。俺が飲み物買いに行ってる間にずいぶん減ったようだ。

 でも相変わらず、両チームとも誰も欠けていない。まぁ今高岡チームともう一チームが戦っているから、減るかもしれないが実力的にその可能性は低いだろう。


 一方、北浜チームが何をしているかと言えば、高岡チームの戦闘をスコープで遠くから覗いていた。


 俺はそれを見て、ニヤリと口端をつり上げる。



 最終試合に決着がついて、俺たちは待ち合い室へ向かっていた。薄暗く、どんよりとした細い道を進んでいた。


 控え室の前まで来ると、扶桑花がドアノブを回す。ガチャリと扉が開いて、部屋の中の光が外に漏れ出す。


「そうなんですよ! あの時ボクミスっちゃって」


 意外にも、中にいた田中たちは笑っていた。笑いながら、今日の戦いの感想なんかを語り合っていた。

 予想外の彼らに俺たちが呆気に取られていると、田中がこっちに気付き、トコトコとこっちまで歩いてくる。


「扶桑花さん、松葉さん恋綺檄さん。この一ヶ月間ありがとうございました!」


 言って、深々と頭を下げる田中。その行動に少し慌てながら扶桑花が頭を上げるよう言った。


「だ、大丈夫なのか。負けたのに」


 徐々に声量が少なくなるから最後の方は何を言ってるかよくわからなかったが、田中には伝わったようだ。彼は先輩の方に視線を向ける。


「勝てなくても、本当はよかったんです。みんなで頑張った事実があれば、それで……」


 田中は俺たちの方に向き直り、俺を見た。


「それに、松葉さんのやり方で勝っても後味悪いですし!」


 人差し指をピッと立てて、田中は言った。


 最終局面で北浜チームはスナイパーを全員が所持していて、やろうと思えば敵を狙撃できた。それなのに、彼はそれをやらなかった。


 それはきっと、思い出を汚さないためだろう。正々堂々戦って負ける方が、狡いやり方で勝ったということよりも思い出と考えれば良かったのだ。


 まぁ、芋芋スナイパー発案者としては後味悪いとか言われると心が痛いんだけどね……。

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