第15話 暗くて気味悪い通路を通る
こんにちは魂夢です。魂夢でぇす♡
俺たちはあまりにも突然過ぎる勝利に困惑しつつ、田中たちがいるであろう控え室に向かった。
果たして関係の無い俺たちが部屋に入っても良いかはわからないが、まぁバレなきゃ犯罪じゃない精神だ。
「よかったねっ!」
ドアを開けてすぐ、恋綺檄が両手を上に上げ満面の笑みで田中たちを祝福した。
その様子を数歩後ろで見ていた。扶桑花は腕を組んだまま俯き気味に頭を左右に振った。同感である。
「恋綺檄、まだ完全に勝ったわけではないんだぞ」
扶桑花が言う。確かに今回の相手には勝てたが、一番の問題は高岡高校だ。まだ気は抜けない。
「でもとりあえず次のステップには進んだんだからちょっとぐらい喜んだって良いでしょ?」
ま、まぁ。俺たちは曖昧な返事をするしかできなかったが、恋綺檄はそんなの気にしないのか田中や他の先輩とハイタッチしていた。
てかその安易なボディタッチはやめろ! 不要なボディタッチは陰キャの敵だ! 男はハイタッチでも惚れるんだぞ? それどころかニコってされただけでも惚れる。
「ありがとうございます恋綺檄さん。けど二人の言うとおり、まだ気は抜けないので」
田中は言い終えるより先に動画の再生ボタンをクリックした。どうやら高岡高校が戦っているときの映像のようだ。
「戦闘スタイルを分析してんのか」
「そうです。けど基礎が強すぎてボクらでは太刀打ちできそうになくて……」
田中はそう言って、引きつってるのか苦笑いなのか笑っているのかよくわからない曖昧な笑顔を見せる。
結構真面目にやっているんだな。さっきの高校のも分析していたのだろうか。無駄ではあったが。
まぁ敵を知り己を知れば諦めたくなるって言うしな。え? 言わない?
けど映像を見る限りたぶん扶桑花より強いなこいつら……。
「こ、こいつらオートエイム使ってないか……?」
新事実を発見してしまったぞ……! みたいな感じで扶桑花が言うが、どう見ても外してる場面もあるし、その可能性は低い。
自分より強い人を見つけたときにそれをラグとかチートとか言うのは弱い奴のやることだぞ……。
「扶桑花さん、ボクたちどうしたらいいですか……?」
「え、あー……。その……」
酸欠の魚みたいに口をパクパクさせながらあーだのうーだの言い始める扶桑花。チラチラこっち見んなよ……、俺もなんもわかんねぇよ……。
「こほん。私は一つ思い浮かんだが。松葉、お前はどう思う?」
こっちに振り返って、扶桑花はドヤ顔気味でそう言った。が、扶桑花の瞳の奥底に「たすけて」の文字が見える。
てかお前師匠でしょ……。ちゃんと導いてやれよ。
「え、あーうん。そうだな。……芋芋スナイパー、なんてのはどうだ?」
言った瞬間この場にいたみんなの顔から血の気が引いた。意味を理解していないのから恋綺檄は除くが。
芋芋スナイパーとは、とにかく隠れまくって狙撃するっていう。まぁ狡いスタイルというか、とりあえず好ましい戦い方では無いことは確かだ。
「あっちが正々堂々と来てもわざわざこっちが相手のスタイルに合わせる必要はねぇだろ?」
扶桑花が「助けてとは言ったけどそりゃねーわ」みたいな顔して俺を見る。み、見ないで……。
ここまで来たらもう後には引けないから、俺は扶桑花より前に出て続ける。
「本気で勝ちに行くなら、この戦法も考えといた方が良いと思うぞ。……まぁ自分の好きなやり方でやれば良いと思うけどな」
田中は先輩に目を向け、なにやら作戦会議を始める。話している内容については専門用語とか多すぎて何言ってるかはよくわからんが。
とか思っていると、肩をチョンチョンと叩かれる。
「お前、本気か?」
「何が」
「さっきの戦い方だ。もし本当にあれで勝ってみろ、ブーイングだぞ」
いつもより少しばかり鋭い目つきの扶桑花。俺は彼女の目を真っ直ぐ見て、返す。
「求める結果は優勝だ。なら、その過程は何をやったって構わないだろう。別にルールに反するわけでもねぇしな」
彼女は俺の目を見つめたままフッと笑う。え、今なんか面白いこと言った?
「松葉のその斜に構えた考えというか、皮肉っぽい考え、嫌いじゃないぞ」
言って、彼女は恋綺檄に目をやった。恋綺檄は田中たちに「これどーゆー意味ー?」だの「なにそれー」だの言っているので、俺は恋綺檄にやめろと一言だけ言った。
「よし、そろそろ戻ろう。スタッフに見つけられても厄介だしな」
扶桑花の発言に恋綺檄がそーしよー! と返す。そして扶桑花に続いて部屋を出る。暗くて気味の悪い通路を通りながら、俺たちは元いた席に戻っていく。
俺以外の二人が話しているのを数歩後ろで見ながら、少し考え事をしていた。