第14話 こうして彼らは地区大会に来ていた
こんにちは魂夢です。まだ半分ってドユコト!?
俺たちぼっち部は近くのEスポーツ部が集まる地区大会の会場にやってきていた。
なんでかって? やっぱり育てた我が子を見たい母親が隣にいるんでね……。
「ん、どうした松葉」
扶桑花は言って小首をかしげる。俺はそれに苦笑で返した。
自分が教えたからってわざわざ部活動として大会に来なくても……。我が子を見に来る親ってこんな気分なのかしら。
「で、なんで先生もいるんですか」
「え? そりゃぼっち部最初の部活動だからな」
俺はため息を吐いた。小原 和博先生はそんな俺を見てクスクスと笑う。笑うなよ、兵が見ている。
…………ガンダムネタわかる人いますー?
「コミュニケーションを取っていたらそれはれっきとした部活動だ。当然田中とのコミュニケーションもね」
先生は田中に目を向けた。それにつられるようにして俺も田中を見る。
彼はコントローラーを握りしめ、緊張した面持ちで高三の先輩となにやらプランを立てているようだった。
「田中君、大丈夫かな……?」
心配そうに恋綺檄が呟く。俺はそれに答えず、ただ田中を見ていた。
緊張しているのはいいが、それで手元が狂うのだけは避けたいところだ。
「とりあえず、私たちは観客席に移動しよう。入り口近くで立っているのも迷惑だろう」
扶桑花は口にして、観客席に歩き出す。俺たちは彼女を先頭にして、それについて行った。
○
さて、今回の大会のルールを説明しようと思う。APEXはバトルロワイヤル形式のゲームで、数チームが各々で戦うゲームだ。最後まで生き残れば勝利となる。
が、大会の場合は少し勝手が違う。まず、勝利条件は最後まで生き残ることじゃない。もちろん、生き残れば勝利ではある。
だが今回は敵チームより生き残れば勝利ということになっている。今日集まったのは四チーム四校だから、二チームずつでサーバーに入り、相手チームより生き残れば良い。
つまり、たとえ最後まで生き残らずとも相手の高校よりも生き残ればこの大会では勝利ということだ。
「始まるぞ」
俺の隣に座る扶桑花が少し弾むような、楽しみで仕方ないというような声色で言った。それに俺は薄く頬笑みながら頷く。
大きいスクリーンには田中のチームの映像と敵チームの映像が映し出され、スクリーンの前にある舞台らしき台の上に一人の男が立っていた。
その男はどっかの高校の生徒か先生か、もしくは雇われた売れない実況者か。その辺はよくわからないが、とにかく実況をする人物が、このチームはーだの、戦闘スタイルはーだの、何か言っている。
ちなみに肝心のプレイヤーはというと、今は別室でコントローラーを握っているはずだ。
「勝てると思うか?」
俺は右隣の扶桑花に問う。すると彼女は眉をひそめ、顎に手を当て考える仕草をする。
「どうだろう。幸い相手チームと田中のチームは相性が良いから、勝てなくはないだろう」
高岡高校と初戦で当たらなかったしな。彼女はそう付け加えた。
高岡高校は俺たちの通う北浜高校から電車で数駅の所にある高校で、おそらくこの大会に集まったどの高校よりも強いだろう。
「うぉーっ! 頑張れ田中くーん!」
「静かにしろ」
うるさい恋綺檄は放っておいて、俺はスクリーンに集中することにした。
○
試合開始から数分が経過したが、未だにどちらのチームも一人として欠けること無く戦えていた。
「予想以上に相手チームの動きが硬いな」
鋭い目つきでスクリーンを見つめる扶桑花がポロッとそんなことを言った。
「それに田中君たちも良い動きしてるよ」
ひょっこりと頭を俺の後ろから出して恋綺檄が付け加える。事実、田中は俺たちが思っている以上に柔軟に、且つ状況に対して適切な動きができていた。それも俺たちが練習を見ていたときよりもずっと、だ。
が、それでも心配が無くなったわけではない。田中には弱点と言っていいほどの弱みがある。それは──。
「田中が予想外の事態に対処さえできれば、この試合はもらったな」
田中の唯一の弱点は、扶桑花が言ったように予想外の事態に対しての慌てようだ。
例えば、先日のようにスナイパーで突然撃たれたときや、物資を漁りに部屋に入ったときに角で待ち伏せられていたりしたときだ。
彼は突然の出来事に出会うと、視点がグワングワンとあらぬ方向へ飛び、何もできなくなるか、対処が遅れる。
これを克服しなければ、結構キツい戦いを強いられることになるだろう。
「まぁきっとそれは本人も自覚しているし、よほどのことが無いと────」
「おぉっと! 北浜高校チームの勝利だぁ!」
「──え?」
俺が弱点に着いて考えている間に、敵チームは田中たちに会うこと無く別チームに倒されていた。
……そんな展開あり?