第13話 彼と彼女は努力が嫌い
こんにちは魂夢です。お願いですんでブクマ評価感想レビューお願いしますよぉ!
今日は珍しく、ぼっち部室に田中の姿はなかった。大会をついに明後日に控え、チーム全体での練習をするそうだ。
「えー! 麗良ちゃんそんなにかわいいのに彼氏いたことないんだ」
恋綺檄が目を見開き、口に手を当てそう言った。
今、扶桑花が恋綺檄に勉強を教えながら、いわゆる恋バナとかいうやつをやっている。
なんでそんなことやってるかは、俺が部室に来た時にはもう始まっていたからわからない。
「そうだが、あんまり大きい声で言わないでくれ恥ずかしい……」
扶桑花ら顔を背けるも、俺の目には朱色に染まった彼女の頬がバッチリ見えた。
でもまぁ確かに不思議ではある。扶桑花くらいの美少女であれば彼氏の十人や二十人……は多すぎか、でも例えいたとしても不思議ではない。
「恋綺檄こそ、彼氏くらいいるだろ?」
扶桑花が恋綺檄に尋ね、俺は少しだけ驚いた。勝手な妄想ではあったが、扶桑花は色恋沙汰に興味は無いと思っていたが……。
そんなことは無かったようだ、認識を改めなければならない。
「いたよ。ずいぶん昔だけどね」
言って、恋綺檄はえへへと誤魔化すように笑うが、彼女の目はどこか遠くを見つめてるように見えた。
俺は初めて彼女と会った時のことを思い出して、一つ違和感を覚える。
彼女は俺に一度告白しているのだ。そして俺は当然それを断った。
でももし恋綺檄が本当に俺のことを好きなら、好きな人の前で元彼の話などするのだろうか?
「松葉、お前はどうだ? 彼女とかいたか?」
さっきまで恥ずかしがっていた扶桑花はどこへやら、彼女は深紅の瞳を俺に向けて訊いてくる。
「あー……。中二の時ならいたけど、その時だけだな」
俺が少し言おうか迷いつつ言うと、扶桑花はフムフムと言いながら何度か首を縦に振った。
だが恋綺檄は目を皿にし、口を開けたまま固まった。
そんなに驚かなくても良くないですかね……?
「ま、松葉? 噓はだめだ……よ?」
「いや本当だ本当。もう俺のことは良いから扶桑花の好きな人でも教えろよ」
俺が話題をずらす目的でそう言うと、恋綺檄がそれに噛み付く。
「そ、そうだよ! 麗良ちゃんの好きな人教えてよ!」
扶桑花はすこしだけうろたえる。
「わ、私!? 私は別に……、好きな人なんて……。なぁもうこの話はやめにしないか」
目を逸らした。完全にいますねこれは……。噓下手すぎでしょ。
恋綺檄が扶桑花を質問攻めの刑に処している間に、俺はスマホを取り出して適当なネットニュースにでも目を通していた。
彼女に好きな人がいるのは、なんだか違和感がある。
でも勝手な妄想を押し付けていただけだ。
なら、彼女のことを一つ知ったと言うことで良いんだろう。
○
我が校は三学期制で、一学期に二回、二学期に二回、三学期に一回、それぞれ定期試験が存在している。
まぁ何が言いたいのかというと俺がこの高校に入って二度目の定期試験まであと一週間だったということだ。
「ではホームルームを終わる。試験まであと一週間しかない、自習室は空いているから、残る人はそこで勉強しなさい」
起立、礼、着席。俺は鞄を持ってそそくさと外に出る。
周りの喧騒から察するに、ほとんどの生徒が自習室を利用するようだ。
試験一週間前は部活も停止だし、久しぶりにさっさと帰れる。
「奇遇だな」
「うわっ、びっくりした……」
下駄箱の近くで扶桑花は俺に声をかけてきた。
「自習室は使わないのか?」
「あぁ、そもそも家に帰っても俺は勉強しない。中学ん時も俺は基本ノー勉だからな。……俺は努力が嫌いだ」
俺は扶桑花の方を見ずにそう言って、下駄箱から靴を取り出して履く。
「……私もノー勉だ。私だって、努力は嫌いだからな」
俺ははっとして扶桑花を見やる。
彼女は俺に背を向けて靴を履いているから、表情は覗えない。
けれど、俺にはその背がなんだか輝いて見えた。
思った通り。彼女は俺と同じ努力嫌いだった。ということは俺が彼女に感じたシンパシーも、偽物でも紛い物でもなく、本物だったのだ。
「そ、そうか。とりあえず俺は帰るわ」
別に彼女と帰るわけではないから、俺はそう言った。
そして彼女が下駄箱を離れるまで、ついさっきまで履いていた自分の室内用の靴を見つめていた。